HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

☆☆茶パニーズホテル。

2022-12-07 10:16:39 | Weblog
 先月の東京出張では、意外にも宿泊先のホテルが大当たりだった。仕事の都合で2泊は六本木に泊まらなければならなかったが、後りの2泊は銀座や渋谷、羽田へのアクセスがいい新橋に宿を取ることにした。予約サイトはワールドワイドなBooking.comを利用したが、検索ワードに「新橋」と入力し、偶然見つけたのが「1899 HOTEL TOKYO」だった。

 公式HPのデザインも秀逸で、イメージ写真も宿泊願望を起こした。仕事柄、エントランスに掛けられたタペストリーのロゴマークに目がいき、アイランドスタイルで木枠のフロントも和モダン調で気に入った。ホテルというより、雑貨のギャラリーという様相だ。

 六本木から都バスで10分ほどの新橋駅北口で下車し、レンガ通りを歩いて6〜7分で着いた。ダイレクトに泊まるなら、モノレールの浜松町駅から芝大門を右折すれば7〜8分で行ける。キャリーケースを引きずりエレベーターで地下鉄やJRの乗り場に行かずとも、そのまま地上を歩いてアクセスできる。土地勘があったことも、予約の決め手となった。

 ホテル名の1899とは1899年(明治32年)に創業した旅館「龍名館」がルーツであることを指す。2014年には「ホテル龍名館」お茶の水本店にメインダイニング「RESTAURANT 1899 OCHANOMIZU」が誕生。龍名館の改装にあたり、徳川家御用達の名水だったお茶の水の地で「お茶と共に過ごすゆるやかな時間」をコンセプトに、龍名館が旅館時代から培ってきた会席料理にお茶を取り入れた新しい和食体験を提供しようとオープンした。



 このレストランが契機となり、1899 HOTEL TOKYOは2018年、国内外のより多くの人たちに「お茶のあるライフスタイルと出会って欲しい」との想いから開業した。まさにお茶をテーマにしたコンセプチャルなホテルと言える。施設や設備、サービスが自分に合うかどうかは、実際に泊まってみなければわからない。ただ、コーヒーよりお茶、洋食より和食が好きな筆者に合わないわけがないと思った。結果的に自分には☆☆のホテルとなった。

 このコラムでホテルを取り上げるのは、アパレルを含めたあらゆる業態で発想や視点を変えないと、市場、お客さんが動かなくなっていることがある。特にホテルなどの宿泊施設を取り巻く環境は、アパレル専門店以上に激変している。単にビジネスで宿泊するだけならファスト&チープでもいいが、外国人をはじめとして団体旅行から個人旅行にシフトしている状況では、求められるニーズも多様化している。

 宿泊施設そのもので文化や日本のおもてなしを満喫したい。体験や学習など観光以外の一面を宿泊とともに楽しみたい。隠れた日本の魅力を再発見したい-ネオ・ディスカバージャパン等など。だから、ホテル側もソフトもハードもそうしたニーズに合わせたものを提供する必要がある。まさに「日本茶」は、外国人旅行客の関心の対象になる。日本人にとっても、内装を茶室に通じるもので統一すれば、旅の疲れを癒せる寛ぎの空間となる。また、お茶が持つアロマ効果をボディソープやシャンプーなどアメニティグッズに使うこともできる。1899 HOTEL TOKYOではまさにそれらを実践していた。




 食事はお茶を取り入れたレストランを運営していれば、それをカジュアル化させるなどお手のものだろう。1899 HOTEL TOKYOの朝食では、静岡産抹茶を使用しふんわりと焼き上げた「抹茶パン」や茶葉を練りこんだ「お茶ソーセージ」、碾茶が香る「グリルチキン碾茶塩」などのメニューが揃っていた。外国人はもとより日本人にもお茶の魅力が食事を通して発見できるのは、旅行ならではの楽しみと言えるのではないか。



 日本茶について言えば、ちょうどニューヨークから戻った20数年前、仕事を通じて京都本店から暖簾分けした北九州・小倉の茶舗「辻利」の辻利之さんと知り合った。当時はライフスタイルの変化から日本人のお茶離れが激しく、茶舗を取り巻く環境は非常に厳しくなっていた。辻さんはそうした状況を憂い、一人暮らしでも簡単に日本茶が飲める急須と湯呑みの一体型茶器を開発。並行して自店に抹茶ソフトクリームが食べられる「カフェ」も併設した。

 地元のグラフィックデザイナーの協力の元、辻利のブランドデザインを構築し、女子高生が辻利でお茶することを「つじる」呼び合うローカルトレンドも作り上げた。現在は子息に経営を譲っているが、2010年からは台湾をはじめとしてシンガポールなど9か国に20店もの抹茶カフェを展開し、日本でしか味わえなかった本物の味を現地ローカル化に成功。コンセプトを前面に打ち出し、日本茶の世界に斬新な志向を取り入れれば、活性化できることを内外で証明している。


小売りが商品をどうデザインし展開するか

 2000年前後だったか。ファッション業界で「ライフスタイルショップ」が注目された。取り扱う商品やサービスを雑貨や飲食にまで拡大し、幅広い客層を集客する狙いだった。無印良品を筆頭にコムサストアが追随、現在では「スタジオクリップ」などが展開されている。しかし、衣料から雑貨、食品まで何でも揃うものの、特にこれが欲しいというものではないことから、ターゲットがぶれ始めているのも確かだ。

 ファッション業態は時代と共に変化するのは避けられない。1980年代までは商品単体の価値を高めてブランドで仕掛け、それらにそった店づくりを行えば、1点単価の高い商品が売れて高収益を上げることができた。アパレルだけに限らず、商品の原価率を高め、高い売価をつけられるようなビジネスモデルだ。しかし、1990年代に入ると、バブル景気が崩壊し市場が次第に成熟して高粗利、高収益ビジネスが限定的になったのように言われた。

 では、本当にそうなのか。確かにDCブランドブームは去ったが、代わってセレクトショップが台頭し、バイヤー垂涎のブランドにはお客がつき、新たなマーケットを開拓した。異業種でもスターバックスコーヒーは単価は高くても集客できたし、コンビニも利便性を求めるお客は割高でも利用している。こうした業態は平成不況の中でも順調に伸びていった。

 単に高価なだけなら市場は広がらないが、この商品にこのサービス、このバランスならお金を払ってもいいというお客はまだまだ開拓できる。アパレルや雑貨についても、あるテーマで切り取り、コンセプトを際立たせることで、新たなショップを作り上げる。そして、その業態に見合う販売スタイルや人材を当てれば、高額な商品でも売れる余地は十分にある。それが小売りに一番求められる活性化のメソッドだ。ただ、市場が縮小している地方ではそれが非常に難しい面もある。

 セレクトショップのビームスが1998年にオープンした「BEAMS JAPAN」。店名の通り、同社が培ってきた独自の審美眼をもとに全国から魅力ある商品を集め発信拠点とするもの。日本のこだわりから生まれたモノ・ヒト・コトは食から銘品、ファッション、コラボレーション、カルチャー、アート、クラフトまでと多種多様で、BEAMS JAPANはそれらを繋げる場所とも位置付けられる。このような業態は地方の活性化でも参考になるのではないか。



 今年3月から9月までの半年間には、京都の西本願寺にビームス “チームジャパン” ストアとして「ビームス ジャパン 西本願寺」を出店。店内から本堂がのぞめるお茶所の一角で限定商品や地域に根ざす銘品を揃えた。西本願寺限定のTシャツ、お寺カラーの藤色をベースに内側に西本願寺のネームを入れたカード&コインウォレット、西本願寺オリジナルカレーや小豆粥は、まさにビームスのキュレーション力とデザイン思想がなせる逸品と言える。




 また、ビームスは牛乳石鹼共進社とのコラボレーションでも、銭湯の楽しみを伝えるプロジェクト「銭湯のススメ。」第3弾を11月17日から関西で初めて実施。「銭湯のススメウエスト」と銘打ったキャンペーンでは、大阪府内の153の銭湯にはグラフィックアーティストのクックさんによるイラストを使ったのれんを飾り、11月17日からこれらの銭湯をめぐると石鹸ケースや手ぬぐいが当たるスタンプラリーも開催する。

 クック氏のイラストをデザインに用いた湯おけ、キャップ、オレンジ箱の石鹸の銭湯グッズ、スウェットのシャツ、パンツなどのアパレル雑貨全9種が揃い、新宿、渋谷、京都のビームスジャパン、ビームス梅田、自社ECで販売している。

 街の銭湯は日本の文化でありながら家風呂や温泉、大型の入浴施設との狭間で、衰退の一途を辿っている。これまでにも地元の大学などが地域貢献の活動としてPRに取り組んだ例はあるが、ビームスが絡めばイメージングや商品づくりで新しい銭湯像を打ち出せる。牛乳石鹸としても業務向けの商品を違った切り口で展開できるので、新たな市場開拓に期待が持てる。

 日本のものづくりは素晴らしい。しかし、従来のままでは閉塞した市場ではなかなか通用しない。そこに新たな息吹をもたらすのがビームズのようなブランドデザインの開発力を持つ企業。ものづくりはメーカーの仕事だと頑ななままでは、活性化は遠のくばかりだ。また、小売りも仕入れて利益を乗せ売るだけのスタイルでは、価格競争に飲み込まれてしまう。

 市場、お客さんを動かすなら、物づくりにも売り方にも新しい発想や視点が必要になる。商品を売る小売り側が商品をいかにデザインするか。そして、コンセプトを前面に打ち出し、斬新な志向を取り入れるか。あの頃には戻らないと言うのは簡単だ。やろうとしない人間の言い訳にも映る。そうではなくて、「新しい商品と仕掛けで市場を切り開こう」というポジティブなやる気が前に進ませるのである。
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