HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

冬なのに春が売れる。

2025-01-22 10:20:30 | Weblog
 一昨年、昨年と12月は冬らしくなった。おかげでウールのセーターやパンツを自宅の衣装ケースから引っ張り出した。暖冬で10年ほど身につけなかったので、虫干しにもちょうどいい。その中で、偶然にも見つけたのが40年前に父親へのクリスマスプレゼントで購入したCalvin Kleinの縄あみのカーディガンだ。


 父親は寒がりだったから、冬になるとずっと着ていたようだ。家人がきちんと防虫対策をしていたので、虫食いひとつなく状態はすごく良い。色はニューヨークブランドらしく微妙な色を撚って出したアースカラー。昨今のグローバルSPAには出せない絶妙な色合いだ。手持ちの衣服では、ファッション専門店のマルセルがイタリアのメーカーに別注したジップセーター、ニューヨークで購入したアルマーニAXのセーターを超える最長記録の代物。しばらく自分が着ることにするが、改めてオンワード樫山のハイレベルのものづくりには脱帽である。

 筆者が住む福岡の寒さは1月中は続くだろう。ただ、各ブランドやストアは冬のセールに入っており、ラインナップされているのは売れ残り在庫だ。また、福岡の日差しは日に日に明るくなって、黒や茶、紺といったダークな色合いでは重たく感じる。だから、どうしても購入には二の足を踏む。プロパー、セールを問わず、新規で買うならブライトカラーが良いのだが、多くのお客も同じように思っているようで、ネット通販ではMなどの売れ筋サイズは完売が多いというのが今年の印象だ。

 もちろん、寒冷地の方々は年が明けても防寒衣料は不可欠だ。九州の人間とは感覚が違いのもわかる。そこで、2024年秋冬のメンズアイテムの中で、「売れ筋サイズ」が「完売」もしくは「欠品」しているものの中から、25年1月初旬でもこれは「買いだな」と思うアイテムをピックアップしてみた。その一例が以下である。



◯セーター ウール90%、カシミヤ10%
毛の縮れを伸ばす圧延仕上げで、肌触りを良くした。
気温が上がり始める時、インナーに着やすいラウンドネック。

◯セーター コットン95%、カシミア5%
コットンにカシミアを混紡し、柔らかさ、心地よさに加え、保温性を実現。
ファンネルネックで防寒、ジップで被りやすさを追求。

◯セーター コットン100%
秋の初霜に向けた企画。ジッパーを開けて着用することも可能。
通気性、軽量性に優れるので、春向けにもいい。

 ◯シャツジャケット ウール100%
ドレスシャツとインサレーションジャケットのいいとこ取り。
防寒のために薄手のセーターの上に重ね着できるオーバーシャツ仕様。

 他にもコートやパンツを探したが、冬物の売れ残りがほとんどだ。中でも、コートはダーク系のカラー、ウールが主体なので、この時期には購入を考えてしまう。厚手のコットンギャバを使用したブライトカラーのロングコートがあればプロパーでも買いなのだが、イメージ通りのものは企画されていない。パンツもウールとコットンを半々ぐらいにしたものが理想だが、こちらもブライトカラーは定番のコーディロイか、薄手のチノ、あとはジョガーパンツばかりで、この時期にちょうどいいアイテムが見つからない。



 逆に冬場のブライトカラーは動きが鈍いのかと思いきや、価格次第では12月中にプロパーで完売したものもあった。その一つがZARAの「テクニカルフード付きジャケット」だ。色はオフホワイト。表面は撥水性をもつテクニカルキルティング素材のポリエステル100%。デザインはハイネックで、調節可能なフード付き。サイドストレッチ素材で調節可能な裾、スナップボタン付きプラケットコンシールジップアップフロントで、防寒性をもつ。これだけの機能を持ちながら、価格が2万円もしなかった。完売したのは価格が手頃だったこともあるが、カラーやデザインの面で気候に関係なく欲しいと思わせた点もあるのではないか。

 仮に本家のマッキントッシュが企画するなら、表地は厚手のコットンにゴム引きにするようなところを、ZARAはポリエステルにして価格を抑えた点もファストファッションならではで納得いく。年明けに同系のカラー、デザイン、素材でスピンオフのアイテムが発売されるかもと期待していたら、何とcoming soonの告知でほぼ同じ仕様のジャケットが再販される。昨冬にブライトカラーがプロパーで完売したくらいだから、春先ならもっと売れるだろうと踏んだのか。最速・最短でマーケットに対応し、圧倒的な価値創造をできるインダストリアルSPAのZARAだからこそできることだ。


気候激変で悩まされる冬場のMD

 昨年の末だったか、某テレビ局の情報番組が「年末セールと新春セール、どっちで買うのがお得か」というテーマで、商品カテゴリー別の購入メリットを紹介していた。そこで、衣料品は「新春セールの方がお得」だった。理由はメーカー側が「季節商材は2月中に売り切りたい」、「12月よりも1月をより安く販売するから」だった。動きの悪い商品はまずマークダウンして様子を見ながら、それでも売れなければセールにかけるのだから、当然と言えば当然だ。ただ、セールにかかる商品にはそれなりの理由があることも確かなのだ。

 消費者の立場なら何でも言える。だが、メーカーは生地の手配からデザイン、縫製まで計画しなければならない。大変なことも理解しているつもりだ。ただ、これだけ暖冬が続いているのだから、秋冬物の企画を抜本的に見直さなければならないのではないか。特に2024年の冬は12月の頭でもアウターがいらない好天、高気温の日が続いた。もちろん、秋冬物が全く必要ないというわけではない。素材、色を見直し企画を変えて年末から年明け、梅春までプロパーで引っ張れるものにシフトした方がいいのではないかということである。

 秋冬物は春夏に比べると、単価が高く収益のアップに期待できる。そのため、メーカー側も肉厚のヘビー商材に注力するのはわかる。ただ、こう気候が異常に推移してしまうと、シーズン商品が消化できなければ現金化を優先するあまりマークダウンやセールにかけざるを得ない。だが、それはプロパーでは売れていない商品だということ。お客の側も暖冬で着る機会がないから購入を控えるわけだし、12月に入ると尚更セール待ちになってしまう。それでも、年が明けて日に日に春らしくなるとダーク系の色や厚手のオーバーコートは着る機会は限られるので、プライスダウンでも購入にはなかなか結びつかないと思う。

 12月後半のセールを見ると、各メーカー、各ブランドとも割引されているのは、外した素材、色、企画がほとんどのように見える。業界でも投入時期の見直しが叫ばれ始めている。2024年の夏は猛暑だった。そのため、セール期間を短縮したり、着る期間が長い盛夏向けをプロパーで販売するなど、修正したところもあった。それでも、セール期間中にどんなプロパー企画の商品を投入するか。また、いくらで売るのかなどで、メーカー側にも迷いがあるように感じた。

 夏と違って冬のセールは、ブラックフライデーに始まりクリスマス、初売りとシーズンを通して長丁場で仕掛けが続く。言い換えると、気温が高めに推移する中では買いたくなる商品がなければ、ただダラダラしてシーズンが過ぎていくような感じさえする。1月、2月には中軽衣料の新商品を投入する必要があると言われるが、秋冬物を外したのであればその後に企画する商品はなおさら難しくなるのではないか。「また外したらどうなのか」「本当に鮮度アップできるのか」と、不安がつきまとうからだ。



 ならば、思い切って厳冬素材や冬色の比率を抑えても良いのではないか。大手アパレルで難しいなら、中小は大胆に大手がやらないようなMDにシフトするのどうか。11月から2月末までを冬季とした場合、色(ダーク系)や素材(厚手・ウール100%)のアイテムは2割、ブライト系、中厚、コットンウール混紡、カシミア、コットン100%(厚手)は8割とし、冬季シーズンを引っ張るというものだ。ある意味、ドラスティックなやり方かもしれないが、そのくらい覚悟を決めたMDに見直さなければ、市場は反応しないのではないかと思う。

 2025年1月初旬で完売したものやサイズ切れしているものから判断すると、条件はカラー、素材、アイテムである。カラーは明るめのホフホワイトや生成り、サンドベージュ、ペールブラウンなどだ。素材はウールとコットンの混紡などで、ウールのバランスを抑えたもの。それをカシミア混にするなら保温力とコストを加味して5%混紡くらいでもいい。そして、1月、2月の新商品はコットンの比率を上げていけばいい。アイテムは単品のニットやパンツ。軽めのハーフコートやフード付きのジャケット。レザーなら思い切ってホワイト系やブライトカラーもありだろう。

 アパレル業界はかつて顧客向けに12月に春夏コレクションを開催して受注を取ったり、店頭でもクリスマス明けから「梅春向け」の商材を少しずつ展開していた。ただ、これだけ冬物商戦が不発に終わり、尚且つ短くなっていることを考えると、前倒しというかシーズン一環で堂々と展開してもいいのではないか。そして、純然たる冬物より「春色、暖冬素材を長く着よう」という少し行き過ぎたくらいの売り方の方がお客には響くかもしれない。実際、筆者が見る限りでは、2025年1月初旬の段階で、春色の冬物で完売しているものは意外に多い。かなりの消費者がそう感じているという証左だ。

 夏から続く猛暑、高気温、暖冬を想定したプロパー販売に耐えうる商品企画とMD構築。そのためにはカラー、素材、アイテムがキーになるからから、価格はどんなバランスでどう設定するか。もちろん、デザインはいうまでもないのだが。シーズン商品が完全に変わったと思わせるようなものの登場に期待したい。


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