業界人向けのファッション誌「WWD」のタブロイド版8月1日号が「進化するキャリア服を追え!」のタイトルで、働く女性向けのブランドやショップを取り上げている。そこまではいいのだが、サブタイトルに書かれたブランドの顔ぶれを見ると、筆頭にオンワード樫山の「ICB」、次がワールドの「アンタイトル(UNTITLED)」 。東京スタイルの「ナチュラルビューティー(NATURAL BEAUTY)」と続く。まさにNBとの広告タイアップ企画のようで、他にブランドはないのかと思ってしまう。
ICBは当初から世界で売っていくブランドの位置づけで、筆者がNYにいた頃はマンハッタンではビルボードが掲出され、現地でのプロモーションにはかなり力が入っていた。2011年にはネパール出身のプラバル・グルンをチーフデザイナーに起用。彼が航空会社の制服を手掛けたことで、コレクション向けの商品もチラッと紹介されたのを見た。色、デザインとも日本にはない感性で、欧米向けにはかなり力が入っていることを伺わせた。
そうした戦略が作用しているかはわからないが、日本で売れているアイテムは働く女性向けのジャケットスーツのようだ。男性に交じって会議からプレゼン、交渉ごとまでで「できる女」を見せるには、やはり凛々しさを醸し出せるジャケットスタイルなのだろうか。
ただ、あまりにプレーンだとリクルートスーツのように見えてしまう。適度に女性らしさを強調するシルエットを増やしたというから、それが好調な理由なのかもしれない。この秋は工場と素材のグレードを上げた7万円のジャケットやゲストドレスを発売するそうだ。ワールドワイドに活躍するキャリア層を狙うのだろうが、売場が百貨店では少し不釣り合いな感じがしないでもない。
ワールドのアンタイトルも、百貨店のハコで長らく一定のポジションをキープしていた。近年はブランドの陳腐化が激しく、他との差別化が図られていないと感じていた。10年からは女子サッカーなでしこジャパンの公式スーツにもなっていたが、2011年にワールドカップ初優勝で注目が集まり、13年にデザインが刷新されたのは記憶に新しい。資金力がない日本女子サッカー界にとっては朗報だったと思う。
しかし、筆者はブランドのロイヤルティ向上、イメージアップへの貢献ではピンとこなかった。なでしこの選手はごく一部を除き、お世辞にもルックスが良いとは言えない。外国人選手に比べると上背もないし、スポーツ選手特有の筋肉の発達もある。スーツの既成パターンでは少し厳しかったのではないか。佐々木監督以下、勢揃いした選手による広報写真を見ても、 似合っているとは言い難い印象だった。
実際、お客がそれを見てどれほどスーツを購入しようと思ったのか。外国人モデルのプロモ写真を見慣れているお客からすれば、これが自分が着たとしても現実?、私の方が少しはスタイルが良い?と、テンションが下がったのではないか。まあ、ワールド側もそれは認識していたと思うが。
ブランドと人員の大量リストラを断行するワールドにとって、基幹ブランドであるアンタイトルのテコ入れは必至だ。秋冬シーズンからはエグゼクティブ・キャリアをターゲットにしたライン、「エッセンシャルクルー」をスタートするという。東京・松屋銀座の売場を30坪強に拡大し、新ラインもフルラインナップする旗艦店にするようだ。
ブランド存続は既定路線だったとは言え、はたして40代の女性管理職、重役陣がグレードアップしたとの触れ込みで簡単に飛びつくのか、それとも大して変わらないと感じるのか。ワールドが置かれている状況を見ると、いろんな服を着こなしインポートブランドまで知り尽くす真のキャリア層のハートをとらえるのは、懐疑的と見ている。
サンエーインターナショナルが開発し、東京スタイルとの共同株式移転によるホールディングス化で、現在東京スタイルに継承されたナチュラルビューティー。ナチュラルビューティー・ベーシック、Nナチュラルビューティー・ベーシックと派生ブランドが登場していく中で、源流ゆえに一定の顧客層はつかんでいたと思う。ブランド戦略の宿命としてコア客の年齢が上昇するに伴い、予備軍を捉まえるためのスピンオフは不可欠だ。
でも、売り上げ効率に走るために「スタンダード」がなおざりにされている面はそこかしこに見られた。例えば、ナチュラルビューティー・ベーシックはヤング狙いとは言え、中国製の安い商品が売場のワゴンに堆く積まれ、売れ残りが著しい部分を見るにつけ、これでは同じ名前がつく本家のロイヤルティにも影響があるのではと思っていた。
そうした懸念材料をはね除けるように合成皮革エルモザレザーのジャケットは、秋冬の鉄板アイテムになっているようだが、フェイクレザーで本当にキャリア層をつなげ留めていけるのだろうか。アベノミクスの影響で為替が円安に振れ、国内生産を売るための仕掛けにする向きもあるが、海外ブランドの情報が豊富なキャリア層にとって本当に有効な戦術となり得るのか。
ナチュラルビューティーにはブランドの普遍性、時代に流されない上品さがあるとは言っても、目が肥えている彼女たちからすればコンサバとは一線を画するデザイン、生地感や色合いで目新しさも求められるような気がする。
働く女性向けの商品を売るハコ、またそうしたショップをリーシングする器は、駅ビルや百貨店がメーンになる。今回はルミネ有楽町やアトレ恵比寿、西武・そごうを取り上げている。ルミネやアトレは種々雑多な駅乗降客を意識し、これまでカジュアルから雑貨までてんこ盛りだった。でも、場所柄を考えれば銀座や恵比寿の一般OLをターゲットにした方が確実性があり、客単価も上がると戦略を修正したようである。
彼女たちは今は管理職ほどの給与ベースではないから、セレクトショップの仕入れ商品には手が出ないが、そのテイストには近づきたいとの思いを組んだようである。いわゆるトランスキャリア戦略とでも言うのだろうか。彼女たちの中から何割がキャリア層まで昇りつめるかはわからないが、将来のためには青田買いも重要との思いが滲む。
百貨店は前出のアパレルの出店先だから、あとは編集をどう組むかの問題になる。唯一、西武・そごうが登場しているのは、自主開発「リミテッドエディション」をもっているからだろう。このブランドも50代向けからクリエーターバージョン、パンツ、そしてOL向けとバリエーションがある。リリースでは「選び抜かれた素材にトレンドを捉えたデザイン、そしてリーズナブルな価格を実現した」との触れ込みの割りに、商社ODMの域を出ず商品レベルは百貨店PB止まりだった。
この秋には働く女性向けの「リミテッドエディション@オフィス」を刷新するという。百貨店を御用達にしているOLは、スーツも百貨店で購入したいとの要望をもち、品質向上やポケットなどの機能性へのニーズも高いことから、これらを十分に取り入れたリニューアルになるようである。
駅ビルを運営するデベロッパーは物販テナントをリシーングし、ターゲットに沿って、MDを修正してもらえば言い訳だから、アパレルメーカーほどの商品政策は必要ない。フロアにコスメやバッグなどの関連商品を組み合わせれば、比較的回遊性も増し、滞留時間も増える。「服を買おうと思って訪れたけど、バッグや靴を買ってしまった」という衝動買いのお客も出てくる。特別なキャリアゾーンというわけではなく、通勤、街着の延長線でのコンサバテイストであれば十分なのである。
そこで思ったのが「キャリア」の解釈である。筆者が大学を卒業後、アパレルの業界に入って最初に携わったのもキャリアの商品だ。キャリアとは職業的、社会的な経験を積んで、自信と分別を備えた専門職をもつ女性を指す。筆者が業界に入った頃は、マインドエイジで分類すると、ヤング(18〜22歳)、ヤングアダルト(23歳〜29歳)、 アダルト(30歳〜45歳)と呼称が変わり、ヤングアダルトの中で仕事をもつ層をキャリア、花嫁修業中や結婚している層をミッシーやヤングミセスと分けていた。もちろん、アダルトの中にも働いている女性はいるから、そうした層もキャリアゾーンに該当した。
テイストで分類すると、年齢に関係なくコンサバ、コンテンポラリー、アバンギャルド(これがデザインが奇抜だから、キャリア服にはならない)があり、流行に左右されない保守的なコンサバ、流行を適度に取り入れ今の感覚にフィットしたコンテンポラリーにもキャリアはある。さらにクラスターで分ければ、コンサバではキャリアエレガンス、コンテンポラリーではセンシティブ・キャリアが当てはまるだろうか。
また具体的な客層をあげると、コンサバのイメージは丸の内のOLに代表され、コンテンポラリーのシンボルは新宿や渋谷のワーキングウーマンだった。トランスキャリアは直訳するとキャリアを超えるという意味だが、業界の解釈はOLとキャリアの中間を指していたと思う。これは今回のWWDでは言葉こそ出ていないが、アパレルや百貨店もかなり意識しているように見受けられる。一般にはキャリアと言うと、オケージョンで分けた「オフィシャル」のイメージがあるが、マーケットが広がる中でキャリアの概念も拡大してきたと思う。
かつてはキャリアと言えば、コンサバと対極にあるコンテンポラリー色が強かった。イメージされるターゲットも精神的に自立、経済的に自活し、男性に甘えないで生きるカッコいい女性だ。だから、着る服も都会的で大人の雰囲気とエッジの利いたスタイリッシュなデザインが主流。レディスウェアらしいフリルやペプラム、レーシーなどの装飾は一切排除され、シャープなカッティングと直線的なラインが特徴だった。
ところが、こうしたキャリアテイストはいつのまにか、影を潜めてしまった。変わって台頭したのはコンサバの中でのキャリアである。以前にも書いたが、土屋耕一氏が書いたコピー「キャリアウーマンにあたる日本語ってなんでしょう」は、伊勢丹が販売したカルバンクラインの広告で登場した。それは着やすくて自由で飾り立てがないけど美しい。当時はキャリア服を表現するには代表的だった。
その後、ダジャレコピーの名手、真木準氏は百貨店のキャリアを「コンサバけてる」と表現した。おそらく企画会議で担当者が商品のテイストにおいてコンサバを連呼したことが下敷きになったと思う。
百貨店の広告の通り、ずいぶん前からキャリアテイストは、大都市で男に混じってバリバリ働く骨太な仕事中心の女性から、職場ではあくまで女らしく控えめな立場を意識しつつ常に優雅に振る舞う管理職や秘書的な女性に変わって来ている。キャリアウーマンというのは和製英語で、正確にはワーキングウーマン、またはワーキングガールだ。アパレルでは長年、働く女性向けの服をキャリアと称してきたから、そちらの方がしっくり来るのだと思う。個人的にはキャリアと言えば、どうしても着る人を選ぶカッコいい服をイメージしてしまう。
今回のタブロイド版はWWD側の営業が絡んでいるようで、記事広告の企画枠の中でのブランド、業態のラインナップとなったと思われる。百貨店や駅ビル、大手チェーンとそこにリーシングされるNB、オリジナル、PBが対象となっており、タイトルが煽るほどクールな顔ぶれではない。キーワードを見ても「女性らしいシルエット」「着回し可能な」「他人から好感を」「オンオフで働く」「きちんと感」と、無難な路線を行っている。売れることを考えたら、そこに行く着くということだろう。
言い換えれば、これがNBアパレルや百貨店、駅ビル、大手チェーンの限界で、これ以上の進化はないとも言える。数年前からラグジュアリーブランドと国内キャリアブランドの中間に位置する「ドメコン」、いわゆるドメスティックコンテンポラリーにスポットが当たっている。背伸びして高級ブランドを買いたいというキャリア層は少なくなり、身の丈にあった手が届くモデレートなプライスラインで十分だと意識が変化。トップスが2〜3万円、アウターが5〜10万円という買いやすい価格帯になっている。
9月9日、バロックジャパンリミテッドがニューヨークのウエストビレッジに出店する「エンフォルド」はその代表格と言われる。他にはユナイテッドアローズの「アストラッド」、WWDにも登場しているジャパンイマジネーションの「ソフィラ」だろうか。キャリアの定義は仕事をする時のスタイルだけでなく、いろんな服を着て来た層が選り抜くゾーン、ポジショニングでもあると思う。
とすれば、ニューヨークなどのコンテンポラリーブランドと対峙する服でなければならないのではないか。これにコンサバキャリアやキャリアエレガンスは当たらない。その意味で、コンテンポラリーに適度なモード感を加味したエンフォルドは、コシのある生地を使用したエッジの利いたデザインが特徴で、ニューヨークという大都会で勝負したいのはごく自然の成り行きと思う。
2013年に日本に上陸したH&Mの上級ライン「COS」もコンテンポラリーラインだ。クオリティではドメコンよりも1ランク下がるが、適度なモード感があってユーロブランドらしい洗練されたデザインが特徴だ。公式サイトもアイテムそのものをクローズアップするスチルライフが多用され、さながらギャラリーにいるような感覚に陥る。これもキャリアマインドをくすぐるのではないか。
店舗展開はH&Mに比べると、多店舗化が遅れ、全国的な知名度はいまいちだが、価格帯的には値ごろなのでコンサバ、エレガンス系に飽き足りないキャリア層は捉まえると思う。ネットである程度の仕事がこなせるIT関係やデザイナー、イラストレーターなどのクリエイティブキャリアには向きそうだ。筆者が女性なら日常の仕事着には迷わず選ぶ。
ドメコンがモード感を維持するエッジとスパイスのきいたテイスト、色柄、素材、デザインでの差別化、エンフォルドのようなドレスやコートといったキーアイテムにより磨きをかけていけば、進化型キャリアとして一定のマーケットを確保していくと思う。この手のアイテムがもっと増えていってもいいのではないか。
もっとも、それができるのは百貨店系NBではなく、専門店系アパレルの出番かもしれない。WWDの編集サイドもそれを十分にわかった上で、今回は営業絡みで中小アパレルがクライアントにならないため、しょうがなかった面はあるだろう。でも、もう少し掘り下げてくれないと、読者にとってはつまらない。350円でも買う気は失せてしまう。まあ、筆者は買ったが。
ICBは当初から世界で売っていくブランドの位置づけで、筆者がNYにいた頃はマンハッタンではビルボードが掲出され、現地でのプロモーションにはかなり力が入っていた。2011年にはネパール出身のプラバル・グルンをチーフデザイナーに起用。彼が航空会社の制服を手掛けたことで、コレクション向けの商品もチラッと紹介されたのを見た。色、デザインとも日本にはない感性で、欧米向けにはかなり力が入っていることを伺わせた。
そうした戦略が作用しているかはわからないが、日本で売れているアイテムは働く女性向けのジャケットスーツのようだ。男性に交じって会議からプレゼン、交渉ごとまでで「できる女」を見せるには、やはり凛々しさを醸し出せるジャケットスタイルなのだろうか。
ただ、あまりにプレーンだとリクルートスーツのように見えてしまう。適度に女性らしさを強調するシルエットを増やしたというから、それが好調な理由なのかもしれない。この秋は工場と素材のグレードを上げた7万円のジャケットやゲストドレスを発売するそうだ。ワールドワイドに活躍するキャリア層を狙うのだろうが、売場が百貨店では少し不釣り合いな感じがしないでもない。
ワールドのアンタイトルも、百貨店のハコで長らく一定のポジションをキープしていた。近年はブランドの陳腐化が激しく、他との差別化が図られていないと感じていた。10年からは女子サッカーなでしこジャパンの公式スーツにもなっていたが、2011年にワールドカップ初優勝で注目が集まり、13年にデザインが刷新されたのは記憶に新しい。資金力がない日本女子サッカー界にとっては朗報だったと思う。
しかし、筆者はブランドのロイヤルティ向上、イメージアップへの貢献ではピンとこなかった。なでしこの選手はごく一部を除き、お世辞にもルックスが良いとは言えない。外国人選手に比べると上背もないし、スポーツ選手特有の筋肉の発達もある。スーツの既成パターンでは少し厳しかったのではないか。佐々木監督以下、勢揃いした選手による広報写真を見ても、 似合っているとは言い難い印象だった。
実際、お客がそれを見てどれほどスーツを購入しようと思ったのか。外国人モデルのプロモ写真を見慣れているお客からすれば、これが自分が着たとしても現実?、私の方が少しはスタイルが良い?と、テンションが下がったのではないか。まあ、ワールド側もそれは認識していたと思うが。
ブランドと人員の大量リストラを断行するワールドにとって、基幹ブランドであるアンタイトルのテコ入れは必至だ。秋冬シーズンからはエグゼクティブ・キャリアをターゲットにしたライン、「エッセンシャルクルー」をスタートするという。東京・松屋銀座の売場を30坪強に拡大し、新ラインもフルラインナップする旗艦店にするようだ。
ブランド存続は既定路線だったとは言え、はたして40代の女性管理職、重役陣がグレードアップしたとの触れ込みで簡単に飛びつくのか、それとも大して変わらないと感じるのか。ワールドが置かれている状況を見ると、いろんな服を着こなしインポートブランドまで知り尽くす真のキャリア層のハートをとらえるのは、懐疑的と見ている。
サンエーインターナショナルが開発し、東京スタイルとの共同株式移転によるホールディングス化で、現在東京スタイルに継承されたナチュラルビューティー。ナチュラルビューティー・ベーシック、Nナチュラルビューティー・ベーシックと派生ブランドが登場していく中で、源流ゆえに一定の顧客層はつかんでいたと思う。ブランド戦略の宿命としてコア客の年齢が上昇するに伴い、予備軍を捉まえるためのスピンオフは不可欠だ。
でも、売り上げ効率に走るために「スタンダード」がなおざりにされている面はそこかしこに見られた。例えば、ナチュラルビューティー・ベーシックはヤング狙いとは言え、中国製の安い商品が売場のワゴンに堆く積まれ、売れ残りが著しい部分を見るにつけ、これでは同じ名前がつく本家のロイヤルティにも影響があるのではと思っていた。
そうした懸念材料をはね除けるように合成皮革エルモザレザーのジャケットは、秋冬の鉄板アイテムになっているようだが、フェイクレザーで本当にキャリア層をつなげ留めていけるのだろうか。アベノミクスの影響で為替が円安に振れ、国内生産を売るための仕掛けにする向きもあるが、海外ブランドの情報が豊富なキャリア層にとって本当に有効な戦術となり得るのか。
ナチュラルビューティーにはブランドの普遍性、時代に流されない上品さがあるとは言っても、目が肥えている彼女たちからすればコンサバとは一線を画するデザイン、生地感や色合いで目新しさも求められるような気がする。
働く女性向けの商品を売るハコ、またそうしたショップをリーシングする器は、駅ビルや百貨店がメーンになる。今回はルミネ有楽町やアトレ恵比寿、西武・そごうを取り上げている。ルミネやアトレは種々雑多な駅乗降客を意識し、これまでカジュアルから雑貨までてんこ盛りだった。でも、場所柄を考えれば銀座や恵比寿の一般OLをターゲットにした方が確実性があり、客単価も上がると戦略を修正したようである。
彼女たちは今は管理職ほどの給与ベースではないから、セレクトショップの仕入れ商品には手が出ないが、そのテイストには近づきたいとの思いを組んだようである。いわゆるトランスキャリア戦略とでも言うのだろうか。彼女たちの中から何割がキャリア層まで昇りつめるかはわからないが、将来のためには青田買いも重要との思いが滲む。
百貨店は前出のアパレルの出店先だから、あとは編集をどう組むかの問題になる。唯一、西武・そごうが登場しているのは、自主開発「リミテッドエディション」をもっているからだろう。このブランドも50代向けからクリエーターバージョン、パンツ、そしてOL向けとバリエーションがある。リリースでは「選び抜かれた素材にトレンドを捉えたデザイン、そしてリーズナブルな価格を実現した」との触れ込みの割りに、商社ODMの域を出ず商品レベルは百貨店PB止まりだった。
この秋には働く女性向けの「リミテッドエディション@オフィス」を刷新するという。百貨店を御用達にしているOLは、スーツも百貨店で購入したいとの要望をもち、品質向上やポケットなどの機能性へのニーズも高いことから、これらを十分に取り入れたリニューアルになるようである。
駅ビルを運営するデベロッパーは物販テナントをリシーングし、ターゲットに沿って、MDを修正してもらえば言い訳だから、アパレルメーカーほどの商品政策は必要ない。フロアにコスメやバッグなどの関連商品を組み合わせれば、比較的回遊性も増し、滞留時間も増える。「服を買おうと思って訪れたけど、バッグや靴を買ってしまった」という衝動買いのお客も出てくる。特別なキャリアゾーンというわけではなく、通勤、街着の延長線でのコンサバテイストであれば十分なのである。
そこで思ったのが「キャリア」の解釈である。筆者が大学を卒業後、アパレルの業界に入って最初に携わったのもキャリアの商品だ。キャリアとは職業的、社会的な経験を積んで、自信と分別を備えた専門職をもつ女性を指す。筆者が業界に入った頃は、マインドエイジで分類すると、ヤング(18〜22歳)、ヤングアダルト(23歳〜29歳)、 アダルト(30歳〜45歳)と呼称が変わり、ヤングアダルトの中で仕事をもつ層をキャリア、花嫁修業中や結婚している層をミッシーやヤングミセスと分けていた。もちろん、アダルトの中にも働いている女性はいるから、そうした層もキャリアゾーンに該当した。
テイストで分類すると、年齢に関係なくコンサバ、コンテンポラリー、アバンギャルド(これがデザインが奇抜だから、キャリア服にはならない)があり、流行に左右されない保守的なコンサバ、流行を適度に取り入れ今の感覚にフィットしたコンテンポラリーにもキャリアはある。さらにクラスターで分ければ、コンサバではキャリアエレガンス、コンテンポラリーではセンシティブ・キャリアが当てはまるだろうか。
また具体的な客層をあげると、コンサバのイメージは丸の内のOLに代表され、コンテンポラリーのシンボルは新宿や渋谷のワーキングウーマンだった。トランスキャリアは直訳するとキャリアを超えるという意味だが、業界の解釈はOLとキャリアの中間を指していたと思う。これは今回のWWDでは言葉こそ出ていないが、アパレルや百貨店もかなり意識しているように見受けられる。一般にはキャリアと言うと、オケージョンで分けた「オフィシャル」のイメージがあるが、マーケットが広がる中でキャリアの概念も拡大してきたと思う。
かつてはキャリアと言えば、コンサバと対極にあるコンテンポラリー色が強かった。イメージされるターゲットも精神的に自立、経済的に自活し、男性に甘えないで生きるカッコいい女性だ。だから、着る服も都会的で大人の雰囲気とエッジの利いたスタイリッシュなデザインが主流。レディスウェアらしいフリルやペプラム、レーシーなどの装飾は一切排除され、シャープなカッティングと直線的なラインが特徴だった。
ところが、こうしたキャリアテイストはいつのまにか、影を潜めてしまった。変わって台頭したのはコンサバの中でのキャリアである。以前にも書いたが、土屋耕一氏が書いたコピー「キャリアウーマンにあたる日本語ってなんでしょう」は、伊勢丹が販売したカルバンクラインの広告で登場した。それは着やすくて自由で飾り立てがないけど美しい。当時はキャリア服を表現するには代表的だった。
その後、ダジャレコピーの名手、真木準氏は百貨店のキャリアを「コンサバけてる」と表現した。おそらく企画会議で担当者が商品のテイストにおいてコンサバを連呼したことが下敷きになったと思う。
百貨店の広告の通り、ずいぶん前からキャリアテイストは、大都市で男に混じってバリバリ働く骨太な仕事中心の女性から、職場ではあくまで女らしく控えめな立場を意識しつつ常に優雅に振る舞う管理職や秘書的な女性に変わって来ている。キャリアウーマンというのは和製英語で、正確にはワーキングウーマン、またはワーキングガールだ。アパレルでは長年、働く女性向けの服をキャリアと称してきたから、そちらの方がしっくり来るのだと思う。個人的にはキャリアと言えば、どうしても着る人を選ぶカッコいい服をイメージしてしまう。
今回のタブロイド版はWWD側の営業が絡んでいるようで、記事広告の企画枠の中でのブランド、業態のラインナップとなったと思われる。百貨店や駅ビル、大手チェーンとそこにリーシングされるNB、オリジナル、PBが対象となっており、タイトルが煽るほどクールな顔ぶれではない。キーワードを見ても「女性らしいシルエット」「着回し可能な」「他人から好感を」「オンオフで働く」「きちんと感」と、無難な路線を行っている。売れることを考えたら、そこに行く着くということだろう。
言い換えれば、これがNBアパレルや百貨店、駅ビル、大手チェーンの限界で、これ以上の進化はないとも言える。数年前からラグジュアリーブランドと国内キャリアブランドの中間に位置する「ドメコン」、いわゆるドメスティックコンテンポラリーにスポットが当たっている。背伸びして高級ブランドを買いたいというキャリア層は少なくなり、身の丈にあった手が届くモデレートなプライスラインで十分だと意識が変化。トップスが2〜3万円、アウターが5〜10万円という買いやすい価格帯になっている。
9月9日、バロックジャパンリミテッドがニューヨークのウエストビレッジに出店する「エンフォルド」はその代表格と言われる。他にはユナイテッドアローズの「アストラッド」、WWDにも登場しているジャパンイマジネーションの「ソフィラ」だろうか。キャリアの定義は仕事をする時のスタイルだけでなく、いろんな服を着て来た層が選り抜くゾーン、ポジショニングでもあると思う。
とすれば、ニューヨークなどのコンテンポラリーブランドと対峙する服でなければならないのではないか。これにコンサバキャリアやキャリアエレガンスは当たらない。その意味で、コンテンポラリーに適度なモード感を加味したエンフォルドは、コシのある生地を使用したエッジの利いたデザインが特徴で、ニューヨークという大都会で勝負したいのはごく自然の成り行きと思う。
2013年に日本に上陸したH&Mの上級ライン「COS」もコンテンポラリーラインだ。クオリティではドメコンよりも1ランク下がるが、適度なモード感があってユーロブランドらしい洗練されたデザインが特徴だ。公式サイトもアイテムそのものをクローズアップするスチルライフが多用され、さながらギャラリーにいるような感覚に陥る。これもキャリアマインドをくすぐるのではないか。
店舗展開はH&Mに比べると、多店舗化が遅れ、全国的な知名度はいまいちだが、価格帯的には値ごろなのでコンサバ、エレガンス系に飽き足りないキャリア層は捉まえると思う。ネットである程度の仕事がこなせるIT関係やデザイナー、イラストレーターなどのクリエイティブキャリアには向きそうだ。筆者が女性なら日常の仕事着には迷わず選ぶ。
ドメコンがモード感を維持するエッジとスパイスのきいたテイスト、色柄、素材、デザインでの差別化、エンフォルドのようなドレスやコートといったキーアイテムにより磨きをかけていけば、進化型キャリアとして一定のマーケットを確保していくと思う。この手のアイテムがもっと増えていってもいいのではないか。
もっとも、それができるのは百貨店系NBではなく、専門店系アパレルの出番かもしれない。WWDの編集サイドもそれを十分にわかった上で、今回は営業絡みで中小アパレルがクライアントにならないため、しょうがなかった面はあるだろう。でも、もう少し掘り下げてくれないと、読者にとってはつまらない。350円でも買う気は失せてしまう。まあ、筆者は買ったが。