HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

気候ロスに立ち向かう。

2024-01-31 07:39:19 | Weblog
 アパレルにとって売上げと気候は相関関係にある。品揃えを四季に合わせるには、1年ほど前から生地を手配し、数ヶ月前には縫製に取りかからなければならない。だが、気候は必ずしも季節通りにはならない。地域にもよるが、九州ではここ20年ほどは総じて冬場の気温が高く、真冬、厳冬という季節感さえなくなりつつある。

 商品を販売する側とすれば「ヘビー」、いわゆる防寒のための重衣料は単価も高く、数字が取れるのでどうしても品揃えを厚くしたい。しかし、冬が寒くなければ、ウールのロングコートや紡毛系のジャケット、肉厚のウールニットなどの売れ行きは悪くなる。結果として在庫を抱えたまま期末が近づくと値下げして捌かなければならず、見切りロスを招いて荒利が低下してしまう。



 もちろん、アパレル各社は手をこまねてきたわけではない。防寒衣料の企画を見直し、コートやジャケットを身頃、袖、ケープ、ライナーなどを分離して構成。最初から取り外したものや取り外しが利くようにしたり。レイヤードな着こなしを想定して素材にライトメードのウールやコットン、ナイロンを使用したり。気温が高めで推移することを前提にした企画やデザインで対応するようになった。例年のデータからして暖冬傾向が続けば防寒アイテムは売れないのだから、仮に寒い日には重ね着で対応して貰えばいいと発想を転換したのである。

 また、季節が冬から春に移行するにつれ、売れる色目は変わっていく。年が明けると、冬場独特の黒、紺、茶、ワインレッドは売れない。お客はセールだからと言って、ダークな色を購入しても着る期間は限られると考えるからだ。サーモンピンクやベージュ、ライトブルーなどのブライトカラーやグレイッシュトーンの方が着回しが効くから、どうしてもそちらに手を伸ばす。これならプロパーでも十分に売れるのだ。

 これにセール抑制がシンクロしている。暖冬で冬物衣料の在庫がセーブされていることで、昨年くらいから冬のセール期間が1週間程度に抑えられている。梅春などの先物をプロパーで販売した方が荒利は稼げると、小売り側も気づき始めた。メーカーが在庫をコントロールする百貨店、1業態10店舗以下のチェーン店やセレクトショップ、そして個店はよほど冬場の商品を外して大量の在庫を抱えない限りは、セールで在庫を消化するやり方を変えてもいいだろう。要は売り切れ御免、プロパー消化へのMD構築である。



 大手はどうか。ザラを展開するインディテックス社は、グローバルSPAとして世界的なキャパで物量を投入している。にも関わらず、アパレルとしての手法は短いトレンドに照準を当て、小ロット多品種のアイテムを投入し、高い消化率と高回転を果たしている。アイテム企画でも価格を抑えながらもトレンドを確実に押さえつつ、ブランドとして高い価値を創造する「インダストリアルSPA」としての性格も併せ持つ。

 昨年冬、筆者はこの手法を目の当たりにした。秋口からウールのパンツを誂えようと、オーダー専門店をいろいろ回る一方、ネット通販でカジュアルに穿けるウール系のバンツを探していた。国内アパレルのものは合繊混紡で、ややルーズなシルエットとどこも似たり寄ったりの企画だった。ダメもとでザラも確かめてみたが、10月末の時点ではコットンか、合繊主体しか企画されていなかった。

 ところが、11月半ばに再度チェックすると、ウール&綿でフレアフィットの「ピンストライプパンツ」が投入されていた。「オリジンズスペシャルコレクション」と銘打たれ、生地はイタリアンウールブレンドとの表示だった。価格は13,590円といたって手頃。店頭に在庫はなく、ネット通販オンリー。「これだ」と思ったが、その時点で当方のサイズ(EU38/JP30)は完売。改めてザラの売り切れ御免商法をまざまざと見せつけられた。


大量在庫・売り減らしは季節変動に脆弱

 一方、一人勝ちしてきたユニクロはどうか。さすがに2023年の暖冬は堪えたようで、23年12月の国内既存店(EC含む)売上高は、前年12月比15.4%減となった。客数も14.6%の大幅減で11月から一転しマイナス。客単価も0.9%減と、22カ月ぶりに前年実績を下回った。要因は気温が高めに推移し、単価が高いダウンコートやジャケットなどの重衣料の販売が振るわなかったからという。ユニクロにとっては季節に反し、“厳冬”となったようだ。

 まあ、12月ひと月の国内売上げだけを見て、ユニクロ失速と断言するつもりはない。また、就任まもない塚越大介新社長の責任を問うのも時期尚早だろう。かつての玉塚元一社長が更迭された時とは時代も状況も違う。ただ、世界に冠たるグローバルSPA、近い将来にグループ年商10兆円達成を目論む以上、地球規模の気候変動と地域特性を前提にしたローカルな商品政策や供給体制を早急に構築しなければならないのは確かだ。ユニクロとしても経営の大本命に位置付けているはずである。

 現に12月の短信発表と同時に、ファーストリテイリングは「実際の気温推移に沿った品揃えにシフトし、気温に関係なく売れるニュース性の高い商品も増やす」「東南アジアなど日本や欧米と気候の異なる国・地域では、現地の生活者のニーズに合った商品構成を強化する」と、ユニクロのMD見直しに言及している。ただ、こうした手法は、長期的なトレンドに照準を当て、大ロット・ローコスト生産を行うユニクロにとっては、ハードルが高い。というか、修正にかなりの時間を要するのではないかと思う。



 まず、地域における平均気温のデータを元に商品の販売エリアを厳密に精査し直す必要がある。そして、エリアごとに求められる商品を想定したMD基準を構築しなければならない。要は赤道に近い東南アジア諸国ではダウンジャケットやウールニット、ヒートテックは必要とされない。逆に中国東北部やロシア、北欧や北米の厳冬地では防寒衣料は必須だが、地域によって暖冬になるケースもあり、一気に売れ残り在庫を抱えることもある。

 現に筆者が在住していた1994年暮れ、95年の冬、96年の年明けのニューヨークはすごく暖冬で、ウールのコートは必要でなかった。また、97年12月のパリ、98年2月のミラノもそれほど寒くはなかった。一方、ニューヨークの百貨店では、年末年始をカリブ海のリゾートで過ごす人たち向けにリネンのウエアも並んでいた。冬場でも気温が高い中国南東部の都市ではダウンジャケットが流行した時、気温に関係なくそれを着る若者がいた。ボトムは短パンで、足元はサンダル姿だったというのにだ。そこまでのファッション嗜好は例外だろうが、地域の気候を予測してMDを構築するのは容易ではないのは確かだろう。

 もっとも、ユニクロ国内の売上げ減の要因は、気温が高めだったことだけなのか。同社は大ロット・ローコスト生産で素材やアイテムを絞り込んでいるため、品揃えがフラットでMDの陳腐化は避けられない。気温が高かったからダウンコートやジャケットが売れなかったのではなく、それらのアイテム自体がすでに飽きられているのではないのか。コラボ商品を投入して活性化しているとはいえ、前シーズンとそれほど変わり映えしない商品では、MDの鮮度が出せるわけがない。

 ユニクロが気温に関係なく売れるニュース性の高い商品を増やすと言うのも、世界的な気温変動が続く中では抜本的な気温対応型の政策はないからではないのか。そもそも、気温に関係なく売れる商品とは、いったい何なのかである。有名デザイナーとコラボしたプレミア感を持つ商品で、コットン主体のTシャツやトレーナーがそうか。あるいは前述したようなコートやジャケットを身頃、袖、ケープなど別々のパーツで構成し、気温によって取り外しが利くようにするものか。それとも中国のシーインに模倣・販売されたバッグ、「ラウンドミニショルダーバッグ」のような衣料以外のアイテムに注力するのか。

 ただ、こうしたアイテムは企画の段階からかなりのクリエイティビティやデザイン力に寄ったり、服そのものの企画にユーティリティを持たせたりと、叡智を絞り作り込んでいかなければならない。それがユニクロに可能かどうかは別にして、気温に関係なく売れる商品を投入すると表明した以上、取り組まなければならないのは確かだ。ニューヨークの企画部門を充実させるとの話もあるので、エリアごとの気温データなどをAIを駆使して分析しながら、各地域ごとでニュース性のあるアイテムを企画して行くのではないか。

 ユニクロは自ら販売する商品を「ライフウエア」と呼んでいる。それは販売する商品を日々の暮らしに必要なパーツ衣料と位置付け低価格で高品質を謳うものだ。そのためにできる限りコストを削減し、素材も製造ラインも絞りこむことで、独自のMDを作り上げ、それがマスマーケットに受け入れられた。しかし、こうした大量生産の工業製品的商品は、市場のトレンドやニーズから遠のけば、一気に売上げが落ちるリスクも抱えている。

 しまむらはかつて、日本列島を緯度で区切った気温変動に合わせ、売れ残った在庫を北上移動させながら消化していく方法をとっていた。理屈としてはユニクロでもできなくはないが、同社規模の店舗数になると物流コストが莫大になるため、現実的ではない。そう考えると、なおさらエリアに即したMDの構築が不可欠になる。だが、それはユニクロが10兆円企業を目指す上では乗りこなければならない高いハードルでもあると言える。


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