HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

誰かが作ると思ってた。

2017-06-14 05:13:14 | Weblog
 小売店ほどではないが、中小のアパレルメーカーでも、少なからずマネキン会社や空間デザイン業者のお世話になる。在庫をストックするハンガーラック、商品をプレゼンする什器をリースしたり、合同展示会を仕込んだりするからだ。

 単品ではアルス、七彩工芸、吉忠マネキン、合同展では乃村工藝社や丹青社が御用達だった。ただ、メーカーは小売店のように販売演出のVMDやVPにはそれほど関心がない。工場から上がって来た商品は目視で検品すれば、布帛はビニールカバーを付けたまま一時的にハンガーラックに架けておく。それらを取引先店舗からの注文に応じパッキン詰めにして発送するだけだ。

 しかし、ショップでは自社の商品が他社のアイテムと一緒にディスプレイされ、畳んで什器に展開されている。当然、商品を購入したお客さんはいろんなブランドとコーディネートする。だから、レディスの商品であれ、翌シーズンの企画のため「なぜ、商品化できなかったか」「バイヤーの反応が今イチだったか」の原因をチェックし、トップとボトムのバランス、配色、素材合わせなどの再考が欠かせない。そのため、筆者は中古の9号ボディ(トルソー)をマネキン屋さんから譲ってもらい、VOID商品やサンプルを自室でも眺めながら、考えていたこともある。

 そんな経験をしてきたので、今でも自服の収納は業務用ラックを使い、事務所での上着のハンギングも払下げのコーディネートスタンドを愛用している。事務所と言っても都市部のマンションだからスペースは限られるし、それでもなくても資料が増えていく。家賃負担はバカにならず、なるべく省スペースを心がけてはいるが、訪ねてくる人からはいつも「生活感がないよね」と言われる。そのため、オブジェ代わりにまたボディを置いてみようかと考えていた…。



 デザイナーのアトリエにあるような、ピン打ちできる芯地布のトルソーでは面白くない。海外通販を見渡すと、「fil métal」(金属線)を使ったものが目に止まったが、こちらはレディス向けでフェミニンだ。決断できないまま過ごしていた矢先、繊研PLUSに「マネキンを救え! 廃棄トルソーがスピーカーに」という記事が掲載されて、ハッとした。https://senken.co.jp/posts/mannequin-torso-speaker-kaon

 だいぶ前になるが、七彩工芸のスタッフと思いつきで、「トルソーがスピーカーなら、お店に置いてBGMを流せるから、一石二鳥じゃん」と話したことがあったからだ。当時、ショップのBGMは大半が有線放送だった。雑誌アンアンには有名ブランドのプレスルームやコレクションで流す楽曲の紹介コーナーがあり、取引先の中には昼間、夕方、セール時など、お客さんのテンションに合わせて、楽曲を編集したオリジナルテープを制作するこだわり派もいた。

 当時はアナログのステレオが全盛で、居抜きで借りているようなショップには天井にスピーカーが付いていた。BOSEのスピーカーなんかを備え付けているのはわずかで、コンポステレオのものを代用しているところも少なくなかった。中には観葉植物を置いて目立たないようにするなど、涙ぐましい努力をしているお店もあった。

 繊研PLUSの記事では、ブランディングチームThink・Cinq・Lab/シンク・シンク・ラボのアートディレクター、星野孝司氏が「破損や塗装のはがれ、型が古くなったなどの理由で数多くのマネキンが廃棄されている。廃棄にもコストや環境負荷がかかる。再利用して何か新しい提案ができないかと考え、廃棄マネキンをインテリアやエクステリアとして生まれ変わらせようとアイデアを練ってきた」という。



 古くなったトルソーを再活用し、ボディーに穴をあけてバイブレーションスピーカーを内蔵したようだ。外側は生地や革で覆うことで、ショップにも溶け込むようになっている。ボディのフォルムがそのまま生かせるので、お店に置けばオブジェ感覚のスピーカーになるわけだ。

 シンク・シンク・ラボは新しい循環型のライフスタイルを提案しており、これは「マネキンレスキュー」と題したプロジェクトだそうだ。トルソー型スピーカーは量産ではなくて受注販売されるというから、1点ものに近く個性派のショップには演出ツールとしても機能すると思う。かつてマネキン会社と思いつきで語っていたことが、かなりの時を経てカタチになったことが実にうれしい。

 振り返ると、ボディの形状を利用するアートは、昔から多くの芸術家が創作していた。初めてニューヨークを訪れた1980年ごろ、画家の篠原有司男氏のアトリエにおじゃました時、同氏の代名詞となったボクシングペインティングの流れから、ボディ風のオブジェにも触れることができた。今年は絵師、三戒堂水宝氏の福岡展でボディの前半分をカットしてキャンバスに貼付け、カラリングした立体アートを拝見した。水宝氏によると、ボディは東急ハンズで画材として購入できるという。

 美術大学ではトルソーのデッサンが必修になっている。そのフォルムはヌードサイズの原型であるだけでなく、中世、ルネッサンスから続く不変のビーナスラインには高い芸術性が宿っているということだろう。

 そこで、筆者もトルソー型のスピーカーを作れないかと思い始めた。ネットでピックアップしていた金属線のボディ「BUSTE FIL ACIER Buste de présentation en fil acier」を使用するもので、閃いたのは枠線の中にアクリル板を使った透明のスピーカーを内蔵するアイデアである。最近、趣味の家具づくりやインテリア制作がご無沙汰なので、一気に創作意欲が湧いて来たのだ。

 スピーカーのキットは、無線屋さんに行けば売っている。後はアクリル板を箱形に組立てて据え置けばいいし、それをボディーの下から入れて支柱に固定すればでき上がる。 胴体の奥行きに合わせると市販の小型しか入らないかもしれないが、それでも十分だ。まあ、頭の中で考えると簡単に作れるのだが、金属線の間から部品や部材を入れて組立てるとなると、まるでボトルシップ作りのように根気がいるかもしれない。まあ、それはぞれで楽しいのではないかと思う。

 これに自ら企画した服のサンプルを飾って、アートとして楽しむのもいいかもしれない。ただ、事務所でジャズをガンガンかけると、ご近所に迷惑だろうし、自室では家族からクレームが来る可能性はある。だから、ハイアーオクターブ系のヒーリングになるだろうか。それでも、ボリュームは絞らないと行けないだろう。事務所ではセールをやるわけではないから。

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