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いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

赤帽網の先にあるのは?

2017-06-28 06:52:15 | Weblog
 アマゾンジャパンがついに独自の配送ネットワークの構築に動き始めた。注文当日に商品を届ける当日配送サービスを専門に手がける「個人運送事業者」、いわゆる赤帽さんを2020年までに首都圏で1万人確保するとのことだ。

 従来は大手宅配業者に委託していたが、佐川急便は「要求が高い割に対価は安い」と2013年に撤退。ヤマト運輸も昨年来、再配達やドライバー不足の問題が噴出したことで、撤退する方向で動いている。そのため、アマゾンはじめ大手通販事業者にとっては、配送業者をいかに確保するかが懸案事項となっていた。

 アマゾンジャパンは当面、大手運送会社の下請けとして繁忙期に業務が集中しがちな個人運送事業者に対し、「通年で平均的に仕事を出す」という餌で囲い込む構えのようだが、はたして思惑通りにいくのだろうか。配送についてはアスクルも東京、大阪エリアで自社比率を2割まで引き上げている。ヨドバシカメラも当日配送に注力しており、セブンイレブンもはセイノーHDと提携し、コンビニ商品の宅配に乗り出している。

 流通各社にとってはECが増えるにしたがって、配送事業者の確保がますます熾烈を極めていくわけで、アマゾンジャパンがネット通販と同様に配送インフラまで「制圧」できるとは、素人目にはとても思えないのである。

 アパレル業界でもECが伸びるにつれ、小売りを行う企業は猫も杓子も参入している。だが、経営者の多くが配送については外部委託で済ませれば良いという感覚のようで、インフラの疲弊、ドライバーの雇用環境など、それほど深刻に考えていなかったのではないか。さらにEC礼賛の方々も、ネットビジネスにおけるブランディングやマーケティング、サイトデザインでは持論をひけらかされているが、いたってアナログな物流、配送の課題ついては多くが踏み込んでいない。

 しかし、現状はアナログな問題の方が深刻なのだ。アマゾンジャパンが赤帽さんを囲い込むにしても、ネックは「配送料」だと思う。目下、アマゾンジャパンでの配送料金は「注文金額が2,000円に満たなくなった場合には、350円(税込)」「当日指定のお急ぎ便は514円(税込)」がかかる。アマゾンジャパンが発送する書籍及びアマゾンギフト券についての全商品と、アマゾンプレミア&スチューデントの両会員のみ無料だ。

 ただ、この料金がそっくりそのまま配送業者に支払われるわけではないだろう。佐川急便は要求が高い割に対価は安いと撤退したわけだし、ヤマト運輸も再配達が増えて料金的に厳しいから撤退の方向を示している。だから個人運送事業者にとっても、「荷物1個運んで配送単価がいくらになるのか」がいちばん気になるところだが、大手ですらコスト面で折り合わず撤退するのだから、赤帽さんが携わっても料金的にペイするとは思えない。だからと言って、アマゾンが配送料金を値上げするとも考えにくい。

 配送料の問題はさておいても、首都圏では人口を考えると注文は格段に多いだろうし、住宅が密集しているのでエリアごとに管理、ネットワーク化すれば配送効率も上がる。だから、個人宅配事業者を組織する中堅運送事業者や組合などを活用すれば、大手配送事業者の撤退をリカバーできなくはないとの狙いなのだ。

 しかし、問題は地方である。ECを利用するのは「探している商品」「今すぐ必要な商品」を売っている店舗が近隣にないことに加え、それらを買いに行くには都市部まで出かけないといけないなど不便だからである。言い換えると、利用者は広範囲のエリアに点在しているわけで、都市部ほど効率的な配送が実現するとは思えない。とびとびで配送するとなると、時間やガソリン代がかかることが予想され、赤帽さんがアマゾンの配送料の範囲内でペイさせるのは至難の業かもしれないのである。

 そうなると、地方における個人宅配業者の確保は、容易ではないと思う。ちなみに知り合いが個人事業の宅配ドライバーをしているので、この件について訊ねてみた。

 答えは「個人宅配事業者の確保はアマゾンが勝手にメディアを通じて言っているだけでは。まず(赤帽)組合が簡単に応じないと思う。そうなると、東京都内の23区と26市だけで1000台のトラックを確保することも難しくなる」

 「宅配に関する料金や再配達の問題は、大手が下請けに荷物を流し始めた20年ほど前から起こっている。宅配業界ではアマゾンよりもはるか前からの話。仮に首都圏である程度、赤帽が確保できても、地方になると料金的に合わないから、どの組合も乗る気じゃない」

 「アマゾンが自前で配送を行うと言っても、米国企業は所詮、外部に丸投げしかしない。抜本的な解決は未知数だ」だった。

 なるほどである。

 ただ、アマゾンのことだから当然、その辺の課題も想定の範囲内だろう。その証拠に本家は今月16日には米高級スーパーの「ホールフーズマーケットを買収する」ことを発表した。市場関係者は「アマゾンによる既存業界の破壊」と言及したが、筆者は米国でも配送の問題はネックなっているから、スーパーの買収はやはり配送を少しでも減らすための受取拠点の確保が狙いではないかと思う。

 ECが発達している米国では、ローカルでは日本よりはるかに配送エリアが広大だ。だから、ロードサイドや郊外のスーパーまで買い物に行ったついでに受け取ってくれれば、配送の手間が省ける。ドローンが利用可能になったところで、制空権を確保できるはずもなく、注文を捌くために無数のドローを飛ばすことなどどだい無理な話だからだ。アマゾンがそう考えても不思議ではない。

 もちろん、これがスーパー買収の第一の目的ではない。アマゾンはECによって川下の小売りデータをほぼ手中に収めつつある。「誰がいつ何をどれくらい買っている」というビックデータを川中にフィードバックすれば、小売りのMD、品揃えに反映することができる。つまり、できる限り余分な在庫を揃えなく言い訳だ。さらに小売りを飛び越えて、商品の製造者とお客が直接のネットワークを構築できるかもしれない。同社は米国の大量生産、大量消費という旧態依然としたビジネス遺伝子すら変えていこうというのではないか。

 翻って日本に置き換えると、どうだろう。まずは個人宅配事業者をネットワーク化して、「今、誰がどこで配送中」「誰なら商品を受け取れる」「このエリアには誰もいない」などの赤帽さんの配車システム、インフラを構築できるかもしれない。それは何もトラック便だけに止まらない。

 だいぶ前に日経MJが自転車便の「ティーサーブ」を特集していたが、嵩張らない商品や書籍などでは自転車便を大いに活用できると思う。軽いものをトラックに載せる必要はないからだ。さらにそれより大きくて重いものはバイク便、さらに軽トラ、トラック便と容量、重さによって使い分ければいい。アマゾンがそこまで踏み込んでいけば、日本の配送インフラを押さえてしまうかもしれないのだ。まあ、それにしても、配送料金が先に立つことは言うまでもないが。

 日本ではコンビニや駅のロッカーを受取拠点として拡充させるには、スペース的に限界がある。だから、それに変わるものとして流通各社が立て直しに窮しているGMSを再活用できるかもしれない。駅前などに立地していながら、郊外SCに押されてテナントが集まらないのなら、いっそうのことネット通販の受取拠点に貸し出してもいいのではないか。

 今のところ、アマゾンにその動きは無いが、ファッション通販では「色や素材」「サイズ感や着心地」「肌触り」が確認できないことから、購買に二の足を踏んでいるお客がいる点、さらに「返品リスクと再販不能」などの理由を考えると、ゾゾタウンなどが確実に商品を売り切るために乗り出すとも考えられる。

 もっとも、単なる受取拠点だけでなく、注文した商品について現物を確認したり、試着したりできる拠点に進化させるべきだろう。それが本当の意味でEC利用者のCS(カスタマーサティスファクション)になるのではないか。単にECやオムニチャンネルといったビジネス概論ではなく、製造から販売、配送までのフローに中でどんなシステム、ネットワークを構築できるか。高度にデジタル化したビジネスでは、アナログ的な課題の先に問題克服のヒントが見えてくるような気がする。
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