
ずいぶんと昔から私は終の棲家を探していた。
もちろん伊豆やその他の有名地も探した。確かにこれらの場所には素敵な家、設備などが完備し、温泉も入っているところもあり、景色も素晴しいところがあった。おまけにバブル崩壊後の値崩れでそれが夢ではないこともあった。
でもこれらの場所はシーズンには交通渋滞で辿りつくまでに何時間もかかり。オフになると店も管理事務所を閉まってしまい、朝ごはんを食べようにも車で30分以上もかけて街まで出かけなければならないそんな場所ばかりだった。
業者や友人からの情報であちこち走り回りながら何年か経ったある日、千葉の不動産屋からこれはどうでしょうかと二つの物件がもたらされてきた。一つは内房の屋敷で書院造の築山を持つ庭と、運転手用の部屋の着いたガレージ、物置などがある素晴しいものだった。海は見えないけど、歩いて1分。
本当に喉から手が出そうだったけど、ふとこの家を買ったら、家人に全ての用を言いつけ、私は一日中床の間を背に背筋をぴんと立てて座り、高尚な本を読む、そのような生活が求められるのではないだろうか。そして毎日業者に家や庭の整備を頼んでその家の格式を守ることに汲々としなければならないのじゃないだろうかそんな思いに駆られてしまった。
だから泣く泣くこのうちは諦めた。
もう一つが、今の岬。
オリジナルでは一階は陶芸かガラスのアトリエになっていたらしい広いスペース。2階にリビングと寝室が二つ。台所もプロ用の機材が入っている。結構こだわりのある人が設計したような作り。そして何よりも決定的だったのは檜の風呂。そして風呂の窓には八重桜が触れるように枝を延ばしている。
思っているほどには庭が広くなくそれで躊躇していたけど、友人がこんなところでは
草刈が大変。何時も居るわけではないので、来るたびに草刈だけで終わってしまうよって忠告してくれて、それもそうかと思い直した。
3方ががけになっていて、崖には木が生い茂っており、他のうちが立つこともない。
ってことでここが私の終の棲家。
ここの一角には他に4軒のうちがあるが3軒は私がこちらを買って以来、もう数年になるが一度もきたことがない。持ち主を探して、友達を紹介すれば年に数万でも貸してくれるかもしれない。だって今もだれも使わないので荒れてきているから。でも私はあえてそれをしない。
風の音、虫と鳥の声以外は何も聞こえないこの静寂と緑に包まれた棲家と環境に私は十分満足しているから。
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