いやいや僕ちゃんの天才の片鱗を見せればそれで止めようと思ってたんだけど、なにやらこれを入れてくれっていったようなリクエストまで出てきたりして。
とにかく陽気な狼はおだてられると煙突の上の上まで登っちゃう。
困った性格はどうしても直らない。後で落っこっても知らないから。
翌朝、狸に起された。
「いつまで寝てるんだ、もうお天道様は上まできてるぞ。テレパシーの訓練をやるんじゃなかったのか」って頭の中でがんがんと声が響いてくる。
眠り足らない目をしょぼしょぼさせながら家をでると、二匹の狸が玄関のところで待っている。
「ごめん、ちょっと寝過ごした。昨日があんまり楽しかったから」
「いや、実を言うと、わしももう少し寝たかったんじゃけど、ワイフがな、そのスーパーというところを見てみたいってせがむモンじゃから」って起したときの声の割には低姿勢。
「お前は俺から物を教わるんじゃから、わしは、お前の師匠じゃな。師匠の言うことはちゃんと聞かなきゃ。それにワイフが言うには何か教わるのにただってことはないだろうとな、まあ、こういうんじゃよ」
「なるほど、どこの世界でもメスは計算高い。そうじゃないと子供を育てられないモンな。しかたない。でもその格好では行けないよ」
「人間に化けりゃいいだろう。こいつにも化けさせるから」
「ふん、それならいいけど」
「じゃ、ちょっと待っててくれ」
「いいよ。こちらも仕度するから」
ということで、顔を洗い、仕度して、出てみて驚いた。
古狸は茶色の紬の着物に黒い帯、ワイフ狸は単衣。あっけに取られて、
「なに。それ」って聞くと、
「ワイフが着物を着てみたいというから、こっちもそれに合わせたんじゃがいかんかなあ」って自信なさそうにいう。
「いや、別にいいけど、その辺のスーパーに買い物に行くのに、ちょっと大げさすぎない。それにこっちはジャージにTシャツだよ」っていうと、
ワイフ狸が、「運転手ならそれでもいいでしょう」ってうそぶきながら嬉しそうに着物の袖を見ている。
狸でいるときにはしょぼしょぼ狸だけど、人間に化けるとこの古狸なんでこんなに腹が出てくるんだろう。どうみても信楽の狸ジャンか、おれ嫌だなこんなのと一緒に出歩くのはと思ったけど、仕方がない。
「まあ、いいや。とにかく乗って」って車に押し込み、下のスーパーまで買い物に出かけた。
スーパーでのワイフ狸のはしゃぎようったらなかった。美登里だってはしゃいだけど、こうまでじゃなかったなと思ったけど、どこかのコギャルに金を持たせてブランドショップに連れて行ったのと同じような効果。
幸いスーパーではいくら買われても、破産するほどのものは置いていないので、助かったけど。メスはメス。世界のどこに行っても、人間でも動物でも変りようがないんだなってしみじみオスの悲哀を感じた。
モーパッサンだったけ、文章作法を覚えようとしたらオス猫をさそうメス猫の動作を観察して文章に書けって言ったのは。それがしみじみと理解できた。
助かったのは古狸も最初は目を輝かせていたけど、しばらくしてワイフ狸のはしゃぎようをみて、しょぼしょぼしだして、もう二度と連れてこないだろうと思われたことくらいだったかな。
まあ、それから車で岬の町のあちこちを案内して、やっと放免されて家にたどり着いたときには古狸も私もグタグタの状態だった。
「今日のレッスンは取りやめ、明日にしような」って古狸からメッセージが頭に届いて、うんうんとうなづいて、そのまま昼寝に直行。ベッドにバタンと倒れこんだ。
しばらくして、古狸の声がした。
「起きてるか」
「疲れすぎて眠れない」
「ありがとうな。いい人間に出会ったって感謝している。
あいつは今度が初産だから怖いんだよ。おれが代わってやることはできないしな。
それにあいつに俺の子を産んで欲しいし。
女にとって、お産って生死をかけたもんだからな。
昨日、今日みたいに、あんなに子供みたいにはしゃぎまわった彼女を見たことがないんだよ。
さっき「これで決心ができた。死んでも満足だわ。
あなたとこんなに楽しい思い出を作れたんだから」
って言いながら眠ったよ」
「そうか、よかったな」
枕から頭を上げて外を見ると、十六夜の月がそらに上がって、虫の声がジーンと胸にまで響いてきた。
ということで、今日はこれまで。
「お疲れねぇ」ってどこかから美登里の声が聞こえてきた。
04/30/2006 21:49:11
とにかく陽気な狼はおだてられると煙突の上の上まで登っちゃう。
困った性格はどうしても直らない。後で落っこっても知らないから。
翌朝、狸に起された。
「いつまで寝てるんだ、もうお天道様は上まできてるぞ。テレパシーの訓練をやるんじゃなかったのか」って頭の中でがんがんと声が響いてくる。
眠り足らない目をしょぼしょぼさせながら家をでると、二匹の狸が玄関のところで待っている。
「ごめん、ちょっと寝過ごした。昨日があんまり楽しかったから」
「いや、実を言うと、わしももう少し寝たかったんじゃけど、ワイフがな、そのスーパーというところを見てみたいってせがむモンじゃから」って起したときの声の割には低姿勢。
「お前は俺から物を教わるんじゃから、わしは、お前の師匠じゃな。師匠の言うことはちゃんと聞かなきゃ。それにワイフが言うには何か教わるのにただってことはないだろうとな、まあ、こういうんじゃよ」
「なるほど、どこの世界でもメスは計算高い。そうじゃないと子供を育てられないモンな。しかたない。でもその格好では行けないよ」
「人間に化けりゃいいだろう。こいつにも化けさせるから」
「ふん、それならいいけど」
「じゃ、ちょっと待っててくれ」
「いいよ。こちらも仕度するから」
ということで、顔を洗い、仕度して、出てみて驚いた。
古狸は茶色の紬の着物に黒い帯、ワイフ狸は単衣。あっけに取られて、
「なに。それ」って聞くと、
「ワイフが着物を着てみたいというから、こっちもそれに合わせたんじゃがいかんかなあ」って自信なさそうにいう。
「いや、別にいいけど、その辺のスーパーに買い物に行くのに、ちょっと大げさすぎない。それにこっちはジャージにTシャツだよ」っていうと、
ワイフ狸が、「運転手ならそれでもいいでしょう」ってうそぶきながら嬉しそうに着物の袖を見ている。
狸でいるときにはしょぼしょぼ狸だけど、人間に化けるとこの古狸なんでこんなに腹が出てくるんだろう。どうみても信楽の狸ジャンか、おれ嫌だなこんなのと一緒に出歩くのはと思ったけど、仕方がない。
「まあ、いいや。とにかく乗って」って車に押し込み、下のスーパーまで買い物に出かけた。
スーパーでのワイフ狸のはしゃぎようったらなかった。美登里だってはしゃいだけど、こうまでじゃなかったなと思ったけど、どこかのコギャルに金を持たせてブランドショップに連れて行ったのと同じような効果。
幸いスーパーではいくら買われても、破産するほどのものは置いていないので、助かったけど。メスはメス。世界のどこに行っても、人間でも動物でも変りようがないんだなってしみじみオスの悲哀を感じた。
モーパッサンだったけ、文章作法を覚えようとしたらオス猫をさそうメス猫の動作を観察して文章に書けって言ったのは。それがしみじみと理解できた。
助かったのは古狸も最初は目を輝かせていたけど、しばらくしてワイフ狸のはしゃぎようをみて、しょぼしょぼしだして、もう二度と連れてこないだろうと思われたことくらいだったかな。
まあ、それから車で岬の町のあちこちを案内して、やっと放免されて家にたどり着いたときには古狸も私もグタグタの状態だった。
「今日のレッスンは取りやめ、明日にしような」って古狸からメッセージが頭に届いて、うんうんとうなづいて、そのまま昼寝に直行。ベッドにバタンと倒れこんだ。
しばらくして、古狸の声がした。
「起きてるか」
「疲れすぎて眠れない」
「ありがとうな。いい人間に出会ったって感謝している。
あいつは今度が初産だから怖いんだよ。おれが代わってやることはできないしな。
それにあいつに俺の子を産んで欲しいし。
女にとって、お産って生死をかけたもんだからな。
昨日、今日みたいに、あんなに子供みたいにはしゃぎまわった彼女を見たことがないんだよ。
さっき「これで決心ができた。死んでも満足だわ。
あなたとこんなに楽しい思い出を作れたんだから」
って言いながら眠ったよ」
「そうか、よかったな」
枕から頭を上げて外を見ると、十六夜の月がそらに上がって、虫の声がジーンと胸にまで響いてきた。
ということで、今日はこれまで。
「お疲れねぇ」ってどこかから美登里の声が聞こえてきた。
04/30/2006 21:49:11