映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

天才が信じた正義

2024-11-05 15:24:00 | 新作映画
南総里見八犬伝は何度も映像化されているので、八犬伝の物語自体にそれ程心動かされない
今回の映画の肝は作者の滝沢馬琴が主人公であり、八犬伝が完成するまでの物語が軸になっていると言うことだろう

はっきり言って、八犬伝の本編ストーリーは邪魔だった。ファンタジー要素があった方が映画的な見せ場が増えるし、8人使われている美男子のファンを動員したい下心は理解しているつもりだ
それにしても、今までの八犬伝のどれより陳腐でつまらなかった

役所広司と内野聖陽が馬琴と北斎を演じられては分が悪かろうと同情したいところだけど、それにしても見劣りが過ぎる
夢落ち程度に出て来るならまだしも、ダイジェスト版であの下手な芝居を見せられるのは辛い

あの本編部分をやめて、馬琴の半生が深く描かれていたなら傑作になったんじゃないかな
史実はどうだか知らないけど、鶴屋南北だけじゃなく歌川広重まで絡ませて、当時の天才たちが考えた虚と実に踏み込んだら相当見応えがあっただろう
正義が報われる事を信じて筆を取り続けた馬琴の気高さにも感服した

隠れた名演は馬琴の女房を演じた寺島しのぶだと思う。始終、口汚く亭主と北斎を罵る気風の良さで笑わせてくれたが、今際の際に見せた凛気の表情は流石としか言えない

それにしても、もったいない作品だ



群衆劇の醍醐味

2024-11-03 15:01:00 | 新作映画
13人の刺客を思い出せてくれる痛快な時代劇だった。2時間半は長過ぎると思っていたけど、たるみない演出はそれを感じさせない
巨悪に立ち向かうような勧善懲悪のお話しではないし、そもそも砦に籠る奴等は何かしらの悪事の末に縄をかけられた曲者ばかりだからスカッとした終わり方じゃなかったのがかえって良かった

白石監督の演出は初期の頃に比べると尖った痛さが失せてしまったようだけど、誰にも受け入れやすい安定感が増している

仲野太賀と山田孝之は、らしいキャラを楽しそうに演じてる
意外に良かったのは賊軍紅一点、鞘師里保。深夜テレビドラマの一話で印象的なヒロインを演じてから何となく記憶に残っていた
こういう大作で存在感を示せたのは、これからの彼女にとって大きな意義あること

なるか!第2のバズリ映画に 侍タイムスリッパー

2024-10-15 16:37:00 | 新作映画
「カメラを止めるな」が異例の大ヒットしたのは何年前だったろう。映画館には普段配信やレンタルDVDで映画を観た気になってる人達もやって来て、ある種イベント参加みたいな状況だった
映画好きな人にも愛されて素人受けも狙えるような面白さがあったし、あのチープさは狙って作ることは不可能だから唯一無二の嵌り具合だったのだと思う

この作品の広がりも似たような所があるので、話題になってから随分たった10月中旬に映画館に行ってみた

カメ止めに比べるとかなりちゃんと作られている。アイデアだけで突っ走るような荒さはなく、キチンとプロットを積み重ねた作劇だ
それ故に些かスピード感に難があり、序盤は少々退屈だった。劇中劇が時代劇だから現代とのギャップを見せるお約束も期待していたのに、そこのところは結構さっぱり扱われている

詳しくはご覧くいただきたいけど、因縁の対決のシーンはこの作品の白眉であるからあれを観るだけでも一見の価値あり
ただ、整理しきれてない人物相関図もあり、脚本を第三者目線で改修できたならもっと面白くなったと思う

勢いではカメ止めにはかなわないけれど、丁寧な作り方には好感が持てる
つぎの映画制作の費用に困らないよう、沢山の人に映画館へ行って鑑賞して欲しい

いつまで続くエイリアン?

2024-09-22 18:50:00 | 新作映画
エイリアンと言う言葉は高校生のわたくしにとって、何となく凶々しく響きザラっとした嫌な感覚を残しました

あれは多分高校三年生の夏だったと思います。大学受験のため、幾人かのクラスメイトが夏休みに予備校に通っていて、帰りしなに観たエイリアンがどんなに面白しろかったかを吹聴してました
あの当時、スターウォーズに始まった宇宙SF物が沢山作られていて、その中にある粗悪品の一部だと当初鼻にもかけませんでしたのに

あれから何本作られたのが詳しく知りません。シリーズ4までは間違いなく観てますけど、どんどん密室ホラーの緊迫感が失せてしまい、直近の作品をプライムビデオで鑑賞したら退屈で途中寝てしまいました

今回それでも久しぶりに映画館に行ってみる気になったのは、最初のテイストに戻ったとの情報があったらです
観てから一月以上経ってしまい、薄れてしまった感想を書くのも忍びないのですが、確かに密室ホラーを再現した映画になってました

唯それだけ
結局、近づける事はできてもエイリアンを超える事はできなかったのです
改めてリドリー・スコットの才気を知ることになりました


再配達は控えましょう ラストマイル

2024-09-09 18:54:00 | 新作映画
安定した良作を生み出す脚本家野木亜紀子と気心知れた監督・プロデューサーが、面白い映画を観せたいから知恵を出し合ったんだなとひしひし感じられる力作
サービス精神満杯で、娯楽映画かくあるべしの見本。ただ、ちゃんと社会的なメッセージは分かりやすく折り込むあたり、外連味こてこてで通受けも充分だ

わたくしにとっても仕事は勿論のこと、家庭への配達にも宅配便は欠かせないライフラインになっている。商売柄、大手は元よりこの映画の影の主役である末端の配送業者とも話しをすることがあるから、とても身近な問題だ

若い世代中心になんでもネットで注文して玄関まで届けてもらう時代。お店に行って自分の目で見て触っ感触を信じて買い物する楽しみとかスリルなんて欲していないのかなと思うこともあるけど、定型化されたものを買うには便利なシステムだ

巨大倉庫の中で配送商品を探して蠢めく労働者が、AIに管理された機械の一部に見えてくる
流通される商品が流れて行く様は無機質であるけど、裏に悪意の仮面を付けているような錯覚に陥る
そんな舞台で奮闘するのはやっぱり心の通った人間なんだよと、映画は温かい結末を用意してくれるが嬉しい

とても良く出来たエンタメだ
テレビシリーズの「アンナチュラル」「MIU404」が出しゃばることなく溶け込んでいたのも高ポイント。テレビ局主導の企画ならバランスを欠いて絶対失敗していたろう

この手の作品が一般の観客に受け入れられ大ヒットするのは、映画界にとってとても良いこと
願わくば、公開時期がGWや正月興行などの本気の勝負時であったらな
最近、鳴物入りのハリウッド大作や大スター揃い踏みの話題作を見かけることも減り、ましてやそういった映画に並ぶ家族連れの楽しそうな姿なども見ることはない

最後に教訓として、
再配達の手間はなるべくかけないようします