映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

女流監督の先走り ナミビアの砂漠

2024-09-07 15:05:00 | 新作映画
今年一番の女優をあげるなら、河合優実で反論の余地は無かろう。映画好きのなかでは2年遅いとの声もあろうが、良い役者が正当に評価され名声を得ることは喜ぶべきこと

河合優実が惚れこんでタッグを組んだという山中監督をまるで知らないので、この作品だけで評価するつもりはない
一言だけ言わせてもらうならば、合わなかったって事だろうか
過去にも女流監督作品にありがちな、自分の狭い半径を描いた映画が苦手だと書いたけど、まさしくそのタイプ
映画好きな友人二人とも同じ意見だったから、オジサンには理解不能な世界なのかしら?

その描写が必要だとは思えなかったけど、河合優実のすべすべした無垢な裸体は神々しかった

山田尚子が伝えたい「きみの色」

2024-08-31 15:13:00 | 新作映画
いつの間にか京都アニメーションを離れていたのか
あの忌まわしい事件以降、京アニで作品を作り続けるのは難しかったのだろうか
アニメーションの場合スタジオの色は如実に表に出るから、京アニの山田尚子が好きだった人にはショックだろう

「けいおん!」「たまこラブストーリー」はテレビシリーズの延長を描かざるを得なかったので、作家主体の作品としては「聲の形」「リズと青い鳥」に続く3作目としてカウントすべきだと思う今回の新作について感じたことを書く

結果として、京アニを離れ一層作家性が際立ったと思う
繊細で透き通るような美しい京アニ作画風も継承しつつ、キャラクターは漫画チックなものから距離を置き写実的になった。前作前々作の雰囲気を踏襲しながらも、登場人物の苦悩や希望が一層身近であり共感しやすい

監督の出自でもある音楽(バンド活動)がけいおんの緩さとは違う角度で主軸になる
多分、監督がやってたバンドはこっちの方に近いのかな。ポップな感じよりマニアックな音が鳴っていた
それでいてライブのシーンは学園祭(のようなもの)で感動的に演奏されるところは心得た演出だ

バンドを組んだ三人の終わりつつある十代のひと時が主に描かれる
ミッション系の学校に通い4人部屋の寮生活を送っている主人公の女の子は、身の回りの人が発色して見える。それなのに、自分の色がどんな色なのかは分からない
主人公と同じ学校に通っていたのに退学して古本屋で働きながらギターを抱える少女は、家族に学校を辞めたことを言えないまま自分が何者かを見つけられない日々を過ごしている
古本屋でギターを弾いている少女に導かれるようにバンドを組むことになった男の子は、音楽を愛しながらも離島の家業(医者)を継ぐべく進学のために予備校にも通う

自分が発する色ってどんな色なんだろう
大人になってしまうと、どうでもいいように思い気にもしないそんな事にこだわる季節を切り取っていて鮮烈だ
自分の色を他人はどの様に捉え感じているのだろう
きっとその事に悩み萎縮し極力無色透明になろうと必死になっている子供たちが多いのじゃないのかしら
山田尚子はそんな子たちに声高じゃないけど、自分の好きな色で生きていきなさいと囁いているようだ



新米記者 トロッ子

2024-08-24 19:07:00 | 新作映画

曰く、
日本映画ってスケール小さいし、暗い映画ばっかだよな
曰く、
アイドル映画を観にきている人って、ドルヲタのキモい人ばっかでしょ

そんな偏見、たいして映画を観てもいない外野の方々の狭い了見ですが、そのミスリードによって面白い映画が結構封印されてきました。わたくし読む本、聞く音楽、当然映画も好き嫌いはありますが、先入観で判断しないよう気をつけています
それは素晴らしい出会いのチャンスを自ら逃してしまうかもしれないからです

7月からの映画日照りで、随分映画館から足が遠のいていました
2ヶ月ぶりに観た映画は、「アルプススタンド・・・」のような世界観を期待してのことでした
そして、監督が「恋は光」の小林啓一であることが決め手です
1時間半ちょっと超えるくらいの小品だし気楽に楽しめればとの思惑もありました
はい、思惑通り
大発見と言えるような出会いではありませんが、清々しい青春映画の一品でした

主役の女の子は櫻坂46のアイドルのようですが、わたくし全く存じ上げません
どうでもいいことでしょうが、わたくしお嬢様っぽい乃木坂の方が好きです
アイドルだから可愛い子なんでしょうが、タイプじゃないので本気で応援できませんでした
その点、文芸部のお姉さまを久間田琳加が艶っぽく演じていて、好きな女優なので嬉しかったです
もうひとり、新聞部の部長を演じた髙石あかりは予告でやってた「ベイビーわりきゅーれ」の主役なんですね。これから伸びてきそうな気配を感じました







薬物のこと 毒親のこと 人の二面性のこと コロナのこと あんのこと

2024-06-16 19:09:00 | 新作映画
薬物のこと
幸いなことに、今までの人生で薬物により人生を狂わせた人を知らない
そういった人は持って生まれた心の弱さとかもあるのだろうけど、無知や家庭環境・衆人環境などの後付けによって泥沼にはまっていくのだろう。この映画の主人公である杏も12歳の売春から16歳の薬物摂取という流れを経験している
大人の責任以外の何物でもない

毒親のこと
しばらく前の流行り言葉に「親ガチャ」なるものがあった
子供からすれば親は選ぶことのできない最初の選択肢だ。アタリもあればハズレもあるということなんだろう
学歴を調べた調査では、裕福な家庭に育った子に高学歴な子供が多いことも明らかになっている
最近の映画のネタにも沢山なっているけど、大体の場合毒親は女親だ。そして、彼女達はほとんどシングルマザーで貧困な生活にあえいでいる。動物的な本能は、子を守ることより自分を優先させてしまうのか
男親の無責任さも合わせて、親権ってなんだろうかと考えさせられる
杏が受けた毒親からの仕打ちより、隣人が放置した男の子を必死に守り慈しむ杏の母性の不可思議さに深みを感じる

人の二面性のこと
誰にも色々な素顔はあるので、嫌なヤツも良い人も見方の角度で感じ方は変わる。照らされる表面の見え方だとも言えるわけだが、応対する人によったり場所や時間によっても変わるから、二面どころか無数の顔を使い分けて人は生きているのかもしれない
薬物漬けの生活からサルベージしてくれる刑事が、裏では弱みに付け込んで強姦をしていた
杏にとっては救いの神であり最後の砦になりうる人だったのに、他の人には忌まわしい人物だった。どちらが本当の姿なのかは分からないし、もしかしたら本人にさえ分からないからこその二面性なんだろう

コロナのこと
あの止めようがない閉塞感をつい最近経験したばかりなのに、わたくしたちは既に過去の話として語ろうとしている。皆んながマスクして、そのマスクも不足気味で入手するために四苦八苦していたことを忘れ始めている
街から人が消え、電車も真冬の寒さであっても窓が開けられた。映画館もライブ会場もオリンピックまでもが延期され、せっかく当たっていたバレーボールと陸上のチケットは紙屑になった
杏の職場である介護施設は感染予防にいちばん敏感な場所だった。ほとんど外部の人と接する機会のないデスクワークのわたくしでさえ、出社せず自宅でリモートワークをしていた。あの時、沢山の人が仕事を止められ生きるための糧を失っていったことが、今更ながらこうして知ることとなる

杏のこと
親が両親揃って真っ当な人であったら・・・
普通に学校に通ってクラスメイトにハブられたりすることもあったろうけど、給料という漢字は書けたろうに
親から売春を強要されるなんて地獄を経験することなく、薬物に手を染めるようなことは無かったはずだ
親身になってくれる人や冷たい人も表面的に出会うことはあっても、自分の人生を左右するような裏切りを経験することは無かっただろう。底辺に喘ぐ人々に手を差し伸べられたのは、世の中が平和で余裕があるからに他なく、明日自分の生活も命もどうなるか分からないパンデミック世界では弱いもの力ないものから切り捨てられて行く
杏はそうして死んでいった

わたくしには彼女を助けてあげられる度量はない
ズルくて情けない大人だ


気になったこと
日本のドラマや映画に多いんだけど、「このお話は真実に基づいてます」の御触れ
あれは本当にゲンナリする
映画はすべてフィクション。ドキュメンタリーでさえカメラを通してフィルムに焼き付けられた瞬間、誰かの作意で映像化されるのだ。日本の騙されやすい一部の方が真実ドラマを妄信的にありがたがるのは分かるけど、もうそろそろあの安っぽいテロップは止めよう

テレビドラマで初めて彼女を知った人も、映画女優の河合優実が凄いことを分かってくれたかな
これからも応援してゆく

西片を好きな高木さんが好き

2024-06-02 04:43:00 | 新作映画

好きだって気持ちだけで心がいっぱいになる

好きとかよく分からないけど、ずっと近くに居て欲しいって思う

=(だから、)    結婚して欲しい!


それって、わたくしが少年時代に胸焦がしたイギリスの初恋映画「小さな恋のメロディー」じゃないですか
いい大人になってもそんなプロポーズしてもありなんですね
それでいて二人だけじゃなく、この恋をずっと見守ってきたわたくし達も幸せになれるなんて

原作漫画やアニメ(TVシリーズ、劇場版)のニュアンスを壊さない程度に、実写版で大人になった高木さんと西片のむずキュンを描ききったところにこの作品の成功した理由があると思います
ハッキリ言って映画の前振りとして深夜放送されていたドラマを観る限りでは、あまり期待はできないなと踏んでいたのです。脚本にも今泉監督が絡んでいると聞いていたので、原作やアニメファンから反感買うような事がない程度の質は担保されているくらいだろうと

作劇上の勝因は、高木さんと西片の恋の行方に並行させた中学生カップルの挿話が、優良なスパイスとして効果的な役割を果たしていたことでしょう。あの二人がいてくれたからこそ高木さんも西片も言葉にして思いの丈を語ることができたのですもの。すれ違わなくて良かった、と誰しもが安堵しましたね

勿論、アニメ1期から観ているし、大好きな世界観なので大甘な評価になっていることは自分でも感じているのですが、わたくしこの映画大好きです
中学生時代を隣の席で過ごした二人が大人になっても淡い恋心を持ち続け、それを成就するなんてベタな設定ですが、オリジナルストーリーとは思えない原作との親和性に映画製作者の愛情を感じました


永野芽郁をアイドル女優の一人としてしか認知していない方も多くいらっしゃるでしょう
その認識に間違いはありません。確かに彼女は今日本の映画テレビドラマに欠かせない数字が取れるアイドル女優のトップランナーです。山田洋次のような巨匠に使われることもありますが、基本的にはライトな恋愛映画やドラマで活躍してます
しかし、ほぼデビュー作品と言ってもいい映画「俺物語」のヒロインから一貫して魅力ある演技をしているのです。そして最近の出演作においてかなり印象的な女優になりました
最早、単なるアイドル女優の一人ではなくなったと申し上げましょう

永野芽郁ちゃんの大人に成長した可愛らしさと、高木さんが大人になったらきっとこんな女性になるんだろうなという想像が上手く融合した爽やかな恋愛映画になりました