映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

薬物のこと 毒親のこと 人の二面性のこと コロナのこと あんのこと

2024-06-16 19:09:00 | 新作映画
薬物のこと
幸いなことに、今までの人生で薬物により人生を狂わせた人を知らない
そういった人は持って生まれた心の弱さとかもあるのだろうけど、無知や家庭環境・衆人環境などの後付けによって泥沼にはまっていくのだろう。この映画の主人公である杏も12歳の売春から16歳の薬物摂取という流れを経験している
大人の責任以外の何物でもない

毒親のこと
しばらく前の流行り言葉に「親ガチャ」なるものがあった
子供からすれば親は選ぶことのできない最初の選択肢だ。アタリもあればハズレもあるということなんだろう
学歴を調べた調査では、裕福な家庭に育った子に高学歴な子供が多いことも明らかになっている
最近の映画のネタにも沢山なっているけど、大体の場合毒親は女親だ。そして、彼女達はほとんどシングルマザーで貧困な生活にあえいでいる。動物的な本能は、子を守ることより自分を優先させてしまうのか
男親の無責任さも合わせて、親権ってなんだろうかと考えさせられる
杏が受けた毒親からの仕打ちより、隣人が放置した男の子を必死に守り慈しむ杏の母性の不可思議さに深みを感じる

人の二面性のこと
誰にも色々な素顔はあるので、嫌なヤツも良い人も見方の角度で感じ方は変わる。照らされる表面の見え方だとも言えるわけだが、応対する人によったり場所や時間によっても変わるから、二面どころか無数の顔を使い分けて人は生きているのかもしれない
薬物漬けの生活からサルベージしてくれる刑事が、裏では弱みに付け込んで強姦をしていた
杏にとっては救いの神であり最後の砦になりうる人だったのに、他の人には忌まわしい人物だった。どちらが本当の姿なのかは分からないし、もしかしたら本人にさえ分からないからこその二面性なんだろう

コロナのこと
あの止めようがない閉塞感をつい最近経験したばかりなのに、わたくしたちは既に過去の話として語ろうとしている。皆んながマスクして、そのマスクも不足気味で入手するために四苦八苦していたことを忘れ始めている
街から人が消え、電車も真冬の寒さであっても窓が開けられた。映画館もライブ会場もオリンピックまでもが延期され、せっかく当たっていたバレーボールと陸上のチケットは紙屑になった
杏の職場である介護施設は感染予防にいちばん敏感な場所だった。ほとんど外部の人と接する機会のないデスクワークのわたくしでさえ、出社せず自宅でリモートワークをしていた。あの時、沢山の人が仕事を止められ生きるための糧を失っていったことが、今更ながらこうして知ることとなる

杏のこと
親が両親揃って真っ当な人であったら・・・
普通に学校に通ってクラスメイトにハブられたりすることもあったろうけど、給料という漢字は書けたろうに
親から売春を強要されるなんて地獄を経験することなく、薬物に手を染めるようなことは無かったはずだ
親身になってくれる人や冷たい人も表面的に出会うことはあっても、自分の人生を左右するような裏切りを経験することは無かっただろう。底辺に喘ぐ人々に手を差し伸べられたのは、世の中が平和で余裕があるからに他なく、明日自分の生活も命もどうなるか分からないパンデミック世界では弱いもの力ないものから切り捨てられて行く
杏はそうして死んでいった

わたくしには彼女を助けてあげられる度量はない
ズルくて情けない大人だ


気になったこと
日本のドラマや映画に多いんだけど、「このお話は真実に基づいてます」の御触れ
あれは本当にゲンナリする
映画はすべてフィクション。ドキュメンタリーでさえカメラを通してフィルムに焼き付けられた瞬間、誰かの作意で映像化されるのだ。日本の騙されやすい一部の方が真実ドラマを妄信的にありがたがるのは分かるけど、もうそろそろあの安っぽいテロップは止めよう

テレビドラマで初めて彼女を知った人も、映画女優の河合優実が凄いことを分かってくれたかな
これからも応援してゆく

西片を好きな高木さんが好き

2024-06-02 04:43:00 | 新作映画

好きだって気持ちだけで心がいっぱいになる

好きとかよく分からないけど、ずっと近くに居て欲しいって思う

=(だから、)    結婚して欲しい!


それって、わたくしが少年時代に胸焦がしたイギリスの初恋映画「小さな恋のメロディー」じゃないですか
いい大人になってもそんなプロポーズしてもありなんですね
それでいて二人だけじゃなく、この恋をずっと見守ってきたわたくし達も幸せになれるなんて

原作漫画やアニメ(TVシリーズ、劇場版)のニュアンスを壊さない程度に、実写版で大人になった高木さんと西片のむずキュンを描ききったところにこの作品の成功した理由があると思います
ハッキリ言って映画の前振りとして深夜放送されていたドラマを観る限りでは、あまり期待はできないなと踏んでいたのです。脚本にも今泉監督が絡んでいると聞いていたので、原作やアニメファンから反感買うような事がない程度の質は担保されているくらいだろうと

作劇上の勝因は、高木さんと西片の恋の行方に並行させた中学生カップルの挿話が、優良なスパイスとして効果的な役割を果たしていたことでしょう。あの二人がいてくれたからこそ高木さんも西片も言葉にして思いの丈を語ることができたのですもの。すれ違わなくて良かった、と誰しもが安堵しましたね

勿論、アニメ1期から観ているし、大好きな世界観なので大甘な評価になっていることは自分でも感じているのですが、わたくしこの映画大好きです
中学生時代を隣の席で過ごした二人が大人になっても淡い恋心を持ち続け、それを成就するなんてベタな設定ですが、オリジナルストーリーとは思えない原作との親和性に映画製作者の愛情を感じました


永野芽郁をアイドル女優の一人としてしか認知していない方も多くいらっしゃるでしょう
その認識に間違いはありません。確かに彼女は今日本の映画テレビドラマに欠かせない数字が取れるアイドル女優のトップランナーです。山田洋次のような巨匠に使われることもありますが、基本的にはライトな恋愛映画やドラマで活躍してます
しかし、ほぼデビュー作品と言ってもいい映画「俺物語」のヒロインから一貫して魅力ある演技をしているのです。そして最近の出演作においてかなり印象的な女優になりました
最早、単なるアイドル女優の一人ではなくなったと申し上げましょう

永野芽郁ちゃんの大人に成長した可愛らしさと、高木さんが大人になったらきっとこんな女性になるんだろうなという想像が上手く融合した爽やかな恋愛映画になりました






重すぎる領域外の事実

2024-05-28 19:25:00 | 新作映画
タイトルになったこの直訳の意味が恐ろしい
変な和製英語よりも意味がわかり辛いからより一層不気味だ

美しい庭には子供たちの嬌声が響き、色とりどりの花はこの邸宅に住まう奥さんの丹念なガーデニングの賜物だ
そんな美しい庭にも隣の煙突からは昼夜問わず煙が立ち上り、乾いた銃声と獣の唸り声に似た断末魔が切りなく聞こえる
プールではしゃぐ壁の向こう側では人をモノとして扱う焼却処分が昼夜問わず行われている

奥さんの母親(おばあちゃん)は訪問当初、恵まれた娘の生活を褒めそやすがいつしか人知れず去ってゆく。側からみればそれが真っ当な感覚なのだけど、塀の内側にしか興味のない人にはその異常さは理解できないのだ
昨日までの当たり前を疑わず今日を生きてしまうと、きっと誰しもが明日も同じ一日を生きるのだろう
わたくしもその通りに流されながら生きている

決して長尺な作品ではない。しかし、倍以上に感じるこの憂鬱な感覚
暗視カメラのような映像に女の子が収容所と思われる土手にリンゴを埋めるシーンが何度か登場するのがよく分からなかった。終盤の舞踏会のシーンもわたくしには理解不能。その部分が不満として残る

平穏な家族の何不自由のない日常が淡々と描かれるから、塀の向こうで行われたおぞましい記憶は世界中の誰にも居心地の悪さを植え付ける。日本人には到底考えられない世界かと思いきや、先の大戦中大陸や占領地では多かれ少なかれ似たようなことが行われていたのだろう

そして、今日わたくしの家の壁隔てた隣でも目を覆いたくなるような悲劇が進行しているかもしれない。わたくしが呑気にこんなブログを認めているこの時間に起こっているかもしれないのだ
わたくしも塀の外には何の関心も持たないそんな一人だ


囲碁侍の碁盤斬り

2024-05-25 16:17:00 | 新作映画
囲碁侍の敵討ち
簡単に言えばそんな物語

山田洋次監督が藤沢周平の原作を映画化した「武士の一分」も普段大人しい下級武士が復讐のために鬼と化すお話だった。去年観た「せかいのおきく」の貧乏長屋に住む浪人父娘とも設定は似ているなと気がつく

時代劇も結局は現代に通じる共感部分がないと観客は納得してはくれないので、荒唐無稽なチャンバラ映画は影を潜めてしまったけれど、黒澤明が絶頂期の頃に作った痛快娯楽的なエンターテイメントをみせてくれないものか

まあ誰でもそれなりに楽しめて勧善懲悪めでたしめでたしの映画だったので文句はないけど、白石監督の毒気が感じられなくて物足りなさが残る。清原果耶ちゃんの着物姿は似合っているけど、優等生が計算通りの演技をしました的な予定調和。草彅剛は髭を生やして凄味のある姿より、つるりとした薄味に本来の良さが出ると思う

囲碁が全く分からないので、石を置く瞬間の醍醐味とかがあるんだろうけど、囲碁勝負の時間が多くて少々退屈してしまった



「ミッシング」失くしたものは見つかりますか?

2024-05-19 08:05:00 | 新作映画
1991年の秋、わたくしの住んでいた借家のすぐ前の道を歩いて書道教室に通っていた女子児童が行方不明になった。我が家にも前年娘が生まれたばかりで他人事とは思えず気にしていた。ドラマで見かけるような服装の刑事が訪ねてきて手がかりを探していると玄関口で言った。何にも心当たりがないことに申し訳ない思いをしたまま、あれからもうすぐ33年の年月が過ぎる。当時のあの出来事を思いながらこの映画を観た

母親は久しぶりの息抜きに好きなバンドのライブに行く。娘のお迎えを叔父(母親の弟)に頼んだその日、娘は行方不明になる。街頭でチラシを配り情報提供を呼びかけ、地元テレビ局の報道番組にも頻繁に顔出しして協力を仰ぐ
父親の勤め先でも支援のための見舞金が集められ、人々の善意の中で娘の無事な帰還を願うかたわら、情報収集のためのホームページの書き込み欄には匿名の誹謗中傷が増えていく
確か数年前に山梨の道志村で行方不明になった女の子の事件でも、ネットには心無い書き込みが溢れていたという
この手の輩はいつの世にもいるのだろうし、ある意味想像力の欠如した可哀想な人種なのだけど、事件の渦中にいる人にとっては精神的な凶器だ。言論の自由と誹謗中傷はどのように見極めればいいのかわたくしには分からないけど、そこに悪意しかないものはそれがどんなに正論めいていたとしても取り締まられるべきだ

行方不明になった女の子と最後まで一緒にいた叔父が怪しいと疑われ、地元テレビ局の報道班も彼のインタビューを重ねる。しかし、思わぬ理由でアリバイは証明され、残ったのは虚しい疑心と姉弟の確執だけだ
真実の報道という建前で否応無く破壊されて行く人間関係。垂れ流しの情報とやらはマスコミでもネット空間でもそれほど変わりはしない。結局のところ無責任な物語が行くあてもないまま漂っては消えて行くだけ
残されるのは、帰ってこない娘を案じる家族の痛ましい心情だけ

そんな閉塞感で押しつぶされそうなある日、いつものようにテレビ局の取材を受けていると警察から娘が保護されたとの一報が入る。大急ぎで警察署に向かう夫婦に告げられたのは、いたずら(と言うには余りにも悪質だ)電話だろうとのショッキングな返答。狂ったように泣き崩れる母親が痛ましい
年月は無情にも流れて行き、ルーチンのようにチラシ配りは行われている。娘の時と同じような状況下で誘拐事件が起こり、もしかしたら同一犯かもしれないと緊張感が走るがすぐに解決され誘拐された子は家族のもとに帰る

当初疑われていた叔父が、車の中で姪っ子に対する情を吐露する場面には親族だけに通じ合う愛情が溢れている。小さな車の中にいる傷ついた姉(母親)弟(叔父)にあったわだかまりはこうして消えてゆくのだろう

今日も駅前のロータリーでは夫婦だけでチラシ配りが行われている
引き続き応援してくれる人もいれば、無関心に通り過ぎる人もいる
それが現実
安直なハッピーもアンハッピーも要らない


少し過剰な気もするけど、石原さとみの渾身の演技に感服する
彼女の転換期となるのに相応しい力作となった。イライラしたヒステリックな言葉が石原さとみから発せられると何とも不快でザラザラしたものに感じられる。娘の失踪に負い目を抱いていながら、ネットの中傷含め夫やテレビ局の報道関係者にも疑心暗鬼の感情を抱くメンタルの不安定さを鬼気迫る勢いで演じ切った
虚ろな横顔との対比も映像的には効果的で、今までの石原さとみとは別人を見ることになる
今年の女優賞の目玉になりそうだ

夫役の青木崇高、叔父役森優作、テレビ局報道の中村倫也、それぞれ引き算の演技で石原さとみを盛り立てる
監督の吉田恵輔は過去2作しか観ていないので評価するのは難しいけど、「空白」でも扱った子を失った親の空虚感とマスコミに対する悪感情がこの作品でもダイレクトに投げかけられていたので、家族(親子)を描くことに才を発揮する人なのかもしれない






1991年秋に行方不明になった女の子も今では不惑を超えた年になった。北朝鮮の拉致もひどく辛い事実だが、行方不明になった理由だけははっきりしている。だからって気が休まるわけじゃないけど、理由も分からぬまま33年の月日が経つことの無情さは計り知れない
何らかの解決があることを願うしかない
親はそうして年々年老いてゆく