去年タイミングが合わず見逃した作品を観に行った。
評判通り、あからさまなお涙頂戴映画では無いのに涙は止めどない。
昨今、親子の間で鬼畜まがいの事件を耳にするけど、この映画を観るとこんな親子の情愛、こんな家族のあり方もありなんだと思わせてくれる。詳しく語ってしまうと感動のポイントを失わせてしまうから省くけど、生き物はその環境の中で大切なものに出会い育て育てられていくもんなんだと改めて思い知る。
宮沢りえは等身大のお母ちゃんを全力で演じた。わたくしは「紙の月」の方が演者として優秀かなとは思うけど、気持ち寄り添えるのは圧倒的に二人の娘の母親で風呂屋の女将さんだ。個人的には死なせなくとも良かったんじゃないかなと思っている。限られた時間だから娘へ伝えるべき事を伝えたんだろうし、家族を取り戻そうとしたんだろうけど、シュチュエーションは安直に死を前提にして欲しくなかった。日本映画の悪い癖だ。生き別れた母親に会いに行く下りも蛇足感を拭えない。母親が会おうとしない理由も定かに描かれなかったし、中途半端でリズムを狂わす挿話だった。
ラストシーンをそのまま、湯を沸かすほどの熱い愛と捉えて良いのか(燃える窯の火にタイトルが出たので)。湯に浸かる新しい家族の姿に強い意志を感じる。エネルギーを与えるのがお母ちゃんの火だとすると、その愛は限りなく熱い。
杉咲花が良かった。
前から上手だと思っていたが、独特の声としゃべり方があまり好きではなく敬遠してた。この作品では宮沢りえに負けない全力演技で観るものの心を震わせる。イジメ(高校生でもあんな幼稚な事するのだろうか)に耐えられず負けてしまいそうになるが、お母ちゃんの強烈な叱咤激励もあり克服する強さも持っている。ここ一番での下着姿がこう使われたのかと、脚本の巧妙さに感心もした。自らの出自を受け入れるシーンには涙が止まらなかった。お母ちゃん亡き後も、お母ちゃんの遺伝子を一番強く受け継いで強く生きて行くだろうと、晴れ晴れしい気持ちにさせてくれる好演だった。
昔で言うところの二番館に当たるのだろうか。名古屋市星ヶ丘にある三越屋上の映画館。68席しかない小屋だけど、ほぼ満員だった。今時珍しい映写機、椅子も狭く小さい、なんだか懐かしい。もう暫くでこの手の映画館日本から消えて無くなるんだろう。仕方ないけど、寂しい。(でも、そんな映画館に無理して通うかって聞かれると・・・)
もう一つ感じたのは、三越の映画館に来る客層はシネコンで見かけるそれとは全然違うこと。物分かりの悪そうなオバチャンが多い。ロビーの自販機前で時間待ちしていたのだけど、お茶一つ買うのに一々面倒臭いリアクションしている。モギリの係員は慣れたものでサバサバ捌いていたのが面白かった。こんな所でも映画は観られているんだ。