わたくし達が学生だった頃から下北沢は古着と芝居の街だった。小田急線に乗って新宿まで映画を観に行く途中何度も通り過ぎた街。アンダーグランドの演劇被れや個性的な見た目を主張したい若者が多く集まり、80年代のサブカルチャーを凝縮していた街だった。安い呑み処も多くあったから、新宿からの帰り何度か彷徨う様に街を歩いたけど、わたくしには馴染めなかった。
そんな街で生きている40年後の若者たちの物語。
知っている街角が再現された訳じゃないのに、イメージ通りの懐かしさそのものだったから、自分の友達がいるような感覚で2時間過ごしてしまった。
揺れ動く心の一瞬は捉えやすく、物語にするのは作る方も観る方も感情移入しやすい。しかし現実はそんなに単純ではなく、好きだった彼女の心は離れていき不器用に生きるしかない古着屋の彼は下北沢の街に埋もれる。学生映画の撮影に参加したり、古本屋で古書を物色したりする姿は紛れもなくわたくしの青春時代そのものだった。
離れていった彼女が戻ってきて彼の日常は幸せそうに見える。そのままエンディングだからきっとこれで良いんだ。
古着屋の彼を取り巻く四人の女性たちがみんな魅力的だった。一度別れても彼の良さに気づき戻ってきた彼女は、強さと真実に対する素直な肯定を身につけた。学生映画の女子監督は損な役回りだったけど、好きであることに妥協しない硬さを見せた。学生映画の衣装担当スタッフだった娘は、古着屋の彼と一夜過ごしても男と女の関係にはならなかった。あのグレーな位置関係はとても羨ましい。そして古本屋で働く女の子が、亡くなった店主に抱えている想いを癒しながら生きている姿に共感してしまう。
最後、誰もが古着屋の彼に淡い恋心を抱くように、主人公の彼はこの街の上で漂いながらも優しく真面目にしっかりと生きている。それが一番大切な事だと観ているわたくしたちも気づく。