映画は見世物だから、誰も見たことのない宇宙の果てを覗かせてくれたり、超人的なアクションの連続の中でも擦り傷くらいで生き残れる疑似体験だってできる
史実に基づいた偉人の半生に酔ったり、現実の辛い状況に身を割かれる思いを共有するのも映画体験の素晴らしさなんだろう
それら数多の中でも、今日観た小さな家族のお話が一番心を揺さぶるのは何故だろう
評論家筋ではとても評価の高い監督、石井裕也監督作品
個人的には阪本作品ほどではないにしろあまり相性がよろしくない。先だって鑑賞した「月」もわたくしが観たいものとはちょっと違っていた
あんまり作家が置かれた環境とかに興味はないのだけど、石井監督は小さな頃に母親を亡くしているらしい。そう言われてみれば、過去作もそうだけど母親に対してのわだかまりが強いことに気がつく
今回の作品も消えた女(連れ合いに愛想を尽かして出奔した母親)が重要な題材になっている。画像どころか声さえも聞くことはないのに、消えた女の存在は兄妹とその父親には深く重い
映画監督になりたくて奮闘する末っ子を松岡茉優が重く軽く自在に演じてる
直情的に長男の池松壮亮がキレるのも上手さゆえの面白味があって良い
次男が聖職についているのに家族の前では弱みをさらけ出してお酒を飲んだり暴力に手を出そうとする下りには笑えた。この役は若葉竜也しかできないと思わせるところも憎いキャスティングだ
そしてなんと言っても、佐藤浩市の父親が秀逸だ。意味もわからないまま娘に指図されオロオロする父親像に、笑いの中にも哀愁を感じさせるところは流石(今年は佐藤浩市だらけだ)
家族ではないけど窪田正孝のスパイスは絶妙なブレンド具合だ。前半部分は松岡茉優絡みの不思議ちゃんキャラだったけど、上記の家族の中に加わると撮影カメラを操る第三者の目を通して、他所の家族が醸し出す可笑し味を引き出していくのに貢献している
兄妹が罵り合う茶の間でのシーンなどはその良い例で、肉親の家族だけでやるなら醜いだけの喧嘩も第三者を置くとなんだか睦まじい兄妹喧嘩で笑えるのだ
死期が迫った父親の心残りは息子娘を抱きしめられなかったこと
死後、兄妹が海べりで父の想いを抱きしめようとして集まる。そこで第三者の目で語られる
イナズマが轟く停電の夜、酔い潰れた父親をみんなで運んだ際、布団の上に抱きかかえながら倒れ込むことで家族はハグしていたことに気がつくのだ
愛にイナズマ
粋な題名の回収
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4f/90/56af6859c444425507db858ddb061db9.jpg?1700864611)
コロナの時代背景を取り込んでいたことも忘れないように記しておこう
飲食業への助成金とかアベノマスクへの皮肉とかも強烈だった
また、映像業界の閉鎖的な批判もしつこく描かれていて、楽屋落ちな話なのかもしれないが今後の題材にしてくれると嬉しい
年末近くになって、今年一番の予感がする作品に出会えたことを喜びたい