昭和45年に出版された本の文庫化である。
まさに日本の記録文学の傑作と言ってよい出来であった。
明治29年、昭和8年、昭和35年のチリ地震津波に三陸海岸を襲い、大きな被害をもたらせた津波を描いている。
その津波を、公的な記録と現地の証言、そして、当時の子供達が残した作文集などをまとめることで、生々しくイメージできるのだ。
公式な記録の数字のすさまじさ。多数の体験者の証言を集めることから浮かび上がってくる真実。子供の作文集から読みとれる生々しい体験。
もっとも、恐ろしいと感じたのは、人に都合がよい言い伝えや判断がどれだけ危険かと言うことだ。
「晴天と冬の日に津波はこない」昭和8年の津波は、冬の氷点下の真夜中しかも晴天に襲ってきたのだが、前兆の大地震で目を覚ましていながら、言い伝えを信じ暖かい布団の中にもどった者は死に、停電の暗闇の中、地震で破壊されている狭い道を逃げた者は助かっている。
「地震の後に津波は来る」チリ地震津波は、地球の反対側で起こった地震で発生した。むろん地震は感じず、井戸の枯渇や混濁もなく、砲声のような音も聞こえず、津波の前触れというのは、異常な引き潮だけだった。
この異常を異常を感じるか、他の情報で異常だがたいしたことないと判断するかで生死が分かれてしまう。
津波によって、生きるか死ぬかは紙一重である。