天才細菌学者曾根次郎が作り上げた関東軍防疫給水部が行った細菌兵器の開発と使用。
それに伴う人体実験、得られた貴重なデータ、それを巡るアメリカとソ連の動きを描いた問題作です。
題材が、スキャンダラスなため普通の作家なら、好奇な目で読んでしまうが、吉村昭の筆は、その淡々な語り口により、より真実に迫ってくる迫力があります。
曾根は、その知識と独創的な発想により、どんな汚染された水でも清浄化する給水器を発明し、その功績で急速に力を付けていきます。
海外視察により、細菌を兵器につかえることを知り、その製造に力を尽くすことになります。
そして、開発に地の利を発揮できる満州へ赴任。スパイや匪賊などの死刑囚を利用した生体実験を繰り返します。
ネズミや蚤を飼育し、ペストやチフス、壊疽などの病原菌を培養し、様々な細菌兵器を開発します。
それを実戦で使用して実験的な成果を上げることに成功した曾根はそれらを量産、日本は世界一の細菌兵器保有国になるのです。
ドーリットルによる東京初空襲、風船爆弾の開発など様々な事象がからみ、歴史の裏部隊で活動する給水部。
終戦直前に満州になだれ込むソ連軍から秘密を守るため、跡形もなく破壊される実験施設。
そして逃亡する給水部隊。
戦後、データを得ようと暗躍する米国とソ連の諜報部と物語はづづきます。
そして、曾根次郎の死去まで語られることになります。
本当の狂気は理性が無くなったときではなく、理性だけになったときだ。と言う言葉をそのまま行く物語となっています。