田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『アラジン』

2019-05-28 06:09:54 | 新作映画を見てみた


 「千夜一夜物語」の「アラジンと魔法のランプ」を原案に、自分の居場所を探す貧しい青年アラジンと、自由に憧れる王女ジャスミン、そしてランプの魔人ジー二―の運命を描いたディズニーのアニメーション映画『アラジン』(92)が27年ぶりに実写映画化された。アラジン役にメナ・マスード、ジャスミン役にナオミ・スコット。

 興味は、実写化した甲斐があるものに仕上がっているのか? アクション系のガイ・リッチー監督の手腕は? ジーニー役をアニメ版のロビン・ウィリアムズに代わってウィル・スミスが演じたが…といったところにあった。
 
 結果、CGを多用した派手なアクションと魔術の描写、エキゾチックなロケーションにリッチー監督らしさが感じられてなかなか面白く仕上がっていた。また、本来はラッパーでもあるスミスが歌う「フレンド・ライク・ミー」は、さすがに乗りがいい。というよりも、アニメ版のウィリアムズが目立ち過ぎて、主役のアラジンとジャスミンがすっかりかすんでいたのと同様に、今回もスミスの独壇場になっていた。

 アラン・メンケン作曲の挿入歌の配列は「ア・ホール・ニュー・ワールド」をはじめ、オリジナルと変わりはないが、今回はジャスミン(スコット)が歌う新曲「スピーチレス」が追加された。

そして「王は男でなくともよい」「女性にとって結婚が最良の方法ではない」というニュアンスを含んだこの曲にこそ、オリジナルのアニメ版から27年という歳月を経た故の、女性の生き方の変化が象徴されている。いわばこの曲が今回の核なのだ。
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『昼下りの決斗』

2019-05-27 14:08:27 | 映画いろいろ
『昼下りの決斗』(62)(1981.3.16.)



 サム・ペキンパー監督初期の正統西部劇。淡々としていながら、老境に入った2人のガンマン(ランドルフ・スコット、ジョエル・マックリー)の悲哀を見事に描いている。

 老眼鏡をかけて契約書を読む場面、馬に乗ってリューマチで腰が痛いと嘆く場面など、おかしいというよりも哀れという表現がぴったりの2人。とはいえ、ラストはその2人が敵をやっつけて…かと思ったら、何とマックリーは弾を3発も撃ち込まれ、誇りとともに死んでいくのだ。まるでペキンパーが、スコットとマックリーという西部劇のスターに、あるいは老いて去っていくガンマンに贈った鎮魂歌のようでもある。

 ペキンパーは、この映画や『砂漠の流れ者』(70)『ジュニア・ボナー』(72)のような優しさや情感にあふれた映画を撮った半面、『ワイルドバンチ』(69)『わらの犬』(71)『ゲッタウェイ』(72)など、激しいバイオレンス描写も得意とした。そこに彼の二面性が表れていると言ったら、うがち過ぎかな。

 ウォーレン・オーツ、L・Q・ジョーンズ、ジョン・デイビス・チャンドラー、R・G・アームストロングといった、いわゆる“ペキンパー一家”と呼ばれる連中の若き日の姿が見られたのも楽しかった。

『サム・ペキンパー 情熱と美学』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/96a0cab264ba3d53e14786426865d915
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“これぞ高倉健”というイメージを作り上げた降旗康男

2019-05-27 09:26:34 | 映画いろいろ

 降旗康男監督が亡くなった。降旗監督といえば、やはり高倉健とのコンビ作が思い出される。健さんの映画人生後半の“これぞ高倉健”というイメージは、2人の見事な共同作業によって作られたものだと思う。

『任侠映画のスターたち』(2015) 健さんの新たな足跡

 

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『映画の森』「2019年5月の映画」

2019-05-27 07:12:51 | 映画の森
共同通信社が発行する週刊誌『Kyoudo Weekly』(共同ウイークリー)5月27日号で、『映画の森』と題したコラムページに「5月の映画」として5本を紹介。独断と偏見による五つ星満点で評価した。

完結編にふさわしい内容『アベンジャーズ エンドゲーム』☆☆☆☆
結婚50年の老夫婦の行く末は…『「初恋 お父さん、チビがいなくなりました」』☆☆☆
実際の犯人たちが劇中に登場『アメリカン・アニマルズ』☆☆☆
ミュージカルとゾンビが融合『アナと世界の終わり』 ☆☆
認知症の父と家族との7年間『長いお別れ』☆☆☆

クリックすると拡大します↓
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『クレイジー・ハート』スコット・クーパー

2019-05-26 12:45:14 | 映画いろいろ
『クレイジー・ハート』(09)(2010.6.18.日比谷シャンテ)



 ジェフ・ブリッジスが、アル中で落ち目のカントリーシンガーを演じて念願のアカデミー主演男優賞を得た映画。茫々たる岩山の広がるアリゾナの風景が映されるオープニングは、それだけで主人公の孤独や、旅の暮らしを想像させる。まるで西部劇の流れ者を見るようで一気に引き込まれる。監督は俳優出身のスコット・クーパー。

 かっては売れっ子だったが、今は旅から旅のドサ回り。もはや半ば人生を諦めかけているが、ミュージシャンとしての意地もあり、燃えかすが残っている。舞台が日本ならさしずめドサ回りの演歌歌手といったところか。そんな男を、歌やギター演奏も含めてブリッジスが好演している。

 父のロイド、兄のボーに囲まれて育った彼は、サラブレッド俳優だから、どんな汚れ役を演じても、そのどこかに品の良さを感じさせるところがある。そこが彼の長所でもあり、短所でもあるのだが、そのために今までは過小評価されてきたところもある。今回の役はそんな彼の個性が十分に生かされており、アカデミー賞はアル中や難病ものには甘いという点を差し引いても受賞は妥当かと思わせてくれる。

 ところでこの映画は、ミッキー・ローク主演の『レスラー』(08)と驚くほど似ている。主人公は老境を向かえつつある孤独な男。かつての栄光、ドサ回り、人生への悔い、最後の恋、仕事へのこだわり、再起への思いという構図がそっくりだ。これは、男が男として生きにくい今の時代だからこそ、その反作用としてこうした映画が生まれてくるということなのだろうか。

 また、ブリッジスもさることながら、かつての弟子を演じたコリン・ファレルが意外な好演を見せる。今は立場が逆転した両者だが、それでもきちんと相手に敬意を払っているところに好感が持てる。これも先輩・後輩について男が勝手に抱く理想像なのかもしれないが。
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『Hostiles』→『荒野の誓い』

2019-05-26 08:08:57 | 新作映画を見てみた

(原題)『Hostiles=(敵対)』→『荒野の誓い』(9月6日公開)



 やっと日本公開が決まった西部劇の新作だが製作は2017年。監督は『クレイジー・ハート』(09)『ブラック・スキャンダル』(15)『ファーナス/訣別の朝』(13)と、骨太でニューシネマっぽい映画を撮ってきたスコット・クーパー。撮影は『スポットライト 世紀のスクープ』(15)などのマサノブ・タカヤナギ。『ジェロニモ』(93)に主演したウェス・ステュディが再びインディアンの族長役で存在感を示す。ニューシネマからの名脇役スコット・ウィルソンの遺作でもある。

 1892年、ニューメキシコ州。インディアン戦争で名を上げた騎兵隊大尉ジョセフ・ブロッカー(クリスチャン・ベイル)は、退役前の最後の任務として、少数の部下と共に、かつての宿敵で、死期が迫ったシャイアン族の族長イエロー・ホーク(ステュディ)とその家族を、部族の所有地があるモンタナ州へ護送することになる。途中、コマンチ族の襲撃で家族を失ったロザリー・クエイド(ロザムンド・パイク)も旅に加わる。さまざまな困難に襲われる中、彼らは互いの協力なくしては生き残れないことに気付くが…。

 ファーストシーンでインディアン、白人、それぞれの残虐性や暴力性を見せ、この映画が善悪を超越したところで展開していくことを予感させる。ここら辺りがやはり今風の西部劇だ。また、銃の音がリアルで思わずドキッとさせられるのも、今の時代の西部劇の立場を象徴しているように感じた。ロードムービーの中に広がる西部の風景が見どころではあるが、テーマが暗過ぎて、最後にすっきりしない気持ちが残るのは否めない。ベールの悩む姿もいささか食傷気味なところがある。

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【ほぼ週刊映画コラム】『アナと世界の終わり』

2019-05-25 16:43:50 | ほぼ週刊映画コラム
エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

青春コメディー+ミュージカル+ゾンビ=
『アナと世界の終わり』



詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1189623
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『自由を我等に』

2019-05-25 10:28:51 | 映画いろいろ
『自由を我等に』(31)(1982.4.16.)



 今回、この映画を見直してみて気付いたのは、チャップリンの『モダン・タイムス』(36)はもとより、スタンリー・クレイマーの『おかしなおかしなおかしな世界』(63)など、後年の、金に絡んだ風刺喜劇映画全般に影響を与えている、ということだった。

 最初に見た時は、この映画が『モダン・タイムス』より5年も前に作られていたことに驚き、チャップリンの映画作りの姿勢に疑問を持たされたりもしたのだが、改めて見てみると、何のことはない、二つの映画は似て非なるものだったのだ。

 確かに、オートメーションによって機械と化した人間の姿を描いている点は同じだが、明らかな違いはラストシーンに象徴されていると思う。『モダン・タイムス』が貧しいながらも愛し合っている恋人たちの再出発を見せるのに対して、この映画は男友だち同士の再出発を見せる。しかも、その片割れは一度はブルジョワになったという皮肉を含んでいるのだ。これは、クレールとチャップリンの育ちの違い、女性観の違い、あるいは作風の違いを端的に表しているとも思える。

 つまり、2人の優れた映画作家が、時代を先取った題材を、同時期に同じような方法で描いてみたら、似て非なるものが出来上がったということ。同種の題材に対して、2人の感性が違った反応を示したのだ。それが分かっていたからこそ、盗作問題が起きた時、クレールは一笑に付したのだろう。
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『禁じられた遊び』

2019-05-24 18:01:33 | 1950年代小型パンフレット

『禁じられた遊び』(52)



 ルネ・クレマン監督による反戦映画の名作だが、トリュフォーら、ヌーベルバーグの一派からは否定されたという。

『シネマアベニュー 文化の泉』心から感動できる映画とめぐり逢おう(2012)


『ヨーロッパ映画∞』(2003)

パンフレット(53・外国映画社(Foreign Picture News))の主な内容
解説/物語/監督ルネ・クレマン/鋭い感覚詩情豊かな異色作(原安佑)/この映画に寄られた讃辞の数々/この映画に主演する二人の子役を選ぶまで(ルネ・クレマン)

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『映画はどんどん新しくなってゆく』(植草甚一スクラップ・ブック)

2019-05-24 11:02:51 | ブックレビュー
 我が、JJ氏復習の旅は、ヌーベルバーグからアンダーグランドシネマまでを語った本書でひとまず終了。



 ところで、この本にもある通り、植草さんはヌーベルバーグを手放しで認めている。それを読みながら、『20世紀映画のすべて』という本を編集した際、植草さんとほぼ同年齢で、親しい友人同士でもあった淀川長治先生に「ヌーベルバーグやニューシネマをどう思いますか」と聞いたことを思い出した。

 先生は「みんな悪くはないけれど、時代に乗った作品ばかりだね。映画の歴史に残る作品ではない。その時代の空気はそれぞれ見事につかんでいたけど、一過性のものだった」と答え、「では、映画史に残る名作の条件とは?」と重ねて問うと、「名作の条件とは、みんなを喜ばせてなおかつ作品の質が高いことです。勝手なことを言わないこと。どんな人が見ても喜ぶようなもの。それが名作の条件です」と答えた。

 で、何が言いたいのかというと、ヌーベルバーグとは別に、例えば、先生は西部劇が大好きだったが、植草さんは嫌っていたという大きな違いもある。先生は割と好みがはっきりしていて、自分と趣向の違う人は敬遠するところがあった。だから、2人が親しかったというのはちょっと不思議な感じがすると思ったのだ。
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