田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『白い巨塔』

2019-05-24 09:08:53 | 映画いろいろ
 テレ朝で放送中の岡田准一主演のドラマ「白い巨塔」がなかなか面白い。山崎豊子の原作発売からすでに半世紀余りがたっているのに、医学界の暗部を告発するという原作の骨子が今でも通用するという普遍性はある意味恐ろしい。また原作は、財前の上昇志向の裏にある貧しい育ち故の屈折や弱さ、理想家故に融通が利かない里見の限界も描き、単純に財前を悪役、里見を善役としていないところに深みがある。だからこそ、時代を越えてこうして何度もドラマ化されるのだろう。

映画版『白い巨塔』(66)(1992.3.26.)



 浪速大学医学部を舞台に、上昇志向の固まりである財前五郎(田宮二郎)と、正義派で理想家肌の里見脩二(田村高廣)という対照的な主人公を中心に、さまざまな思惑を持った医師とは名ばかりの“妖怪たち”を登場させる群像劇として、医学界の暗部を告発する。山崎豊子の原作、監督の山本薩夫、脚色の橋本忍、多彩なキャストたちが皆素晴らしい。

 ただ、この映画の場合、同じく田宮二郎主演の同名テレビドラマ(78~79、総監督:小林俊一、脚色・鈴木尚之、音楽・渡辺岳夫、里見役・山本學)の方を先に見ており、しかもそれはとても上質なもので、最後が田宮自身の自殺と重なった衝撃もあった分、どうしてもドラマのイメージを思い浮かべながら見てしまったところがあった。

 だから、悪役の財前が教授になり、正義派の里見が大学を追われるという、この映画の救いのないラストの後で、財前自身が病に倒れるというさらなる悲劇が起きることを知っているので、映画の終わりが尻切れトンボのように見えてしまったのは否めない。

 ただ、最近、偶然大映の映画を続けて見たもので、大映という映画会社が持っていた独特の暗いカラーと、所属スターの田宮二郎という適役を得てこその映画だという気もした。当時の東宝や松竹、東映からはこうした映画が生まれなかったのも当然なのだ。

 それにしても、もはや“聖職”などという言葉は死語だとしても、こうした医学界の腐敗は直接人の生死に関わる問題だし、いざという時、われわれはこうした“妖怪たち”に命を預けざるを得ないのかと思うとゾッとさせられる。

 そう考えると、いかにも社会派監督の山本薩夫らしい告発、問題提起映画だということもできるが、先に再見した『皇帝のいない八月』(78)同様、ここまで体制や権力、組織側の嫌らしさを魅力的に描けるということは、実は山本には、こうしたものに対する、かわいさ余って憎さ百倍的なところがあったのではないかと思ってしまった。

 山本の映画の多くは、反権力という思想が根本に流れていたが、作られた映画は皆力強く、鋭く時代を捉え、社会問題を提起した。何より、主義や思想云々は別にして、一本の映画として見ても見応えのある良作が多かった。つまり、告発劇でありながら、同時にエンターテインメントとしての面白さも持っていたのだ。その点が、彼の映画群を希有なものにしている。

『薩チャン 正ちゃん~戦後民主的独立プロ奮闘記~』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/b3e14e5e71a75ce42c0c9c18cf31d296
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『嘆きの天使』

2019-05-23 07:19:32 | 映画いろいろ
『嘆きの天使』(30)(1981.12.2.東急名画座)



 『モロッコ』(30)『間諜X27』(31)はテレビで見たが、マレーネ・ディートリッヒの出演映画をスクリーンで見たのは今回が初めてのこと。そして、スクリーンに映し出されたモノクロのディートリッヒは実に美しかった。否、美しいというよりも、そこには魔性を感じさせる妖しい魅力があった。いわゆるファムファタール(運命の女)というやつで、まさにこの映画にはぴったりだった。

 厳格な教師(エミール・ヤニングス)が若い踊り子に惚れて、奈落の底まで落ちていくというスキャンダラスな話に加えて、自慢の脚線美を強調する網タイツ姿のディートリッヒがすさまじい。これが30年代に作られていたとは驚きである。

 この映画は、ディートリッヒが監督のジョセフ・フォンスタンバーグとともに、ドイツ時代に撮ったものだが、なるほどこの後、ハリウッドに招かれただけのことはあると感じさせられた。今、80年代を生きる二十歳そこそこの俺が見てもそう感じるのだから、製作当時にこの映画を見た人々にとっては、ショッキングですらあったのではないかと推察する。

 そして、たとえ、この映画を現代流にアレンジしてリメークしたとしても、決してオリジナルを超えることはできないだろう。あの時代、ディートリッヒ、モノクロ画面があってこその『嘆きの天使』なのだから。名作と呼ばれる映画は、作られた時代を象徴しながら、同時に年月を越えて現代にも響くものを持っているのだ。
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『天井桟敷の人々』

2019-05-22 18:39:47 | 1950年代小型パンフレット

『天井桟敷の人々』(45)(1981.12.1.スバル座)



 入場料金が半額になる、年に一度の映画の日にマルセル・カルネ監督の『天井桟敷の人々』を再見。以前、NHKで放送された時は「犯罪大通り」と「白い男」の前後編として2週にわたって放送されたので、全体のイメージが散漫になったところがあったのだが、この3時間余りの大作は、やはり映画館で満員の観客と一緒に、時に笑いながら、あるいは感動しながら見るべきものであった。

 1820年代、パリの犯罪大通りを舞台に、女芸人ガランス(アルレッティ)と、彼女を取り巻く俳優のフレデリック(ピエール・ブラッスール)、伯爵(ルイ・サルー)、白塗り芸人のバチスト(ジャン・ルイ・バロー)の関係に焦点を当てながら物語は進んでいく。

 まず、戦時中に作られたにもかかわらず、そのスケールの大きさに目を見張らされる。そして、多彩な登場人物を配して、芸術を志す者に愛を絡めて描く魅力的なストーリー、時折見られるユーモア、バローの見事なパントマイム、対照的な女の魅力を発散するアルレッティとマリア・カザレス…。

 カルネの確かな演出、ジャック・プレベールの見事な脚本、優れた映像、美術、音楽、演技の総合体として、芸術の頂点の一つのに達した映画がここにあるという感じがした。

 再見の上に立ち見で、おまけに予定もあったので、前半だけ見て帰るつもりでいたのに、見事に引き込まれ、結局予定を変えて最後まで見てしまった。

【今の一言】この映画は、今見たらもっと心にしみるかもしれない、という気がする。見直してみるかな。

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『勝手にしやがれ』

2019-05-22 10:26:21 | 1950年代小型パンフレット

『勝手にしやがれ』(59)(1981.11.26.八重洲スター座 併映はトリュフォーの『アメリカの夜』)



 フランスが生んだ映画の新しい波=ヌーベルバーグの代表作とされ、映画の常識を変えたとも言われるこの映画をやっと見た。

 矢継ぎ早に繰り出されるセリフ、モンタージュを排除した長撮りなどは、今では珍しくもないが、この映画が作られた頃は、さぞや同業者や観客を驚かせたことだろうとは思う。また、イタリアのネオリアリズムとは違った形の、街中での隠し撮りが独特の雰囲気を醸し出しているし、ジャン・ポール・ベルモンド(若い!)とジーン・セバーグ(きれいだ!)の演技も自然でさり気なく、特に奇をてらった様子もない。

 ところが、ゴダールが邦題通りに「勝手にしやがれ」ってな感じで撮ったわけでもないのだろうが、こちらが映画に入り込む前に、映画自体がどんどん先に進んでいってしまう感じがして、原題通りに「息切れ」がして疲れてしまった。

 もともとゴダールの映画は観念的で分かりにくいものが多い。そう考えれば、社会に反抗しながら悪事を重ねる男と、何となく彼とくっついている女というありふれた人物設定とストーリーを持つこの映画は比較的分かりやすいもののはずだ。ではなぜ疲れを感じたのか。

 それは恐らくテンポの問題なのだろう。特に、フランス語ということもあるが、セリフのテンポについていけなかった気がする。何の意味もないような、それでいて何かをにおわすようなセリフを、こうも矢継ぎ早に繰り出されると、見ながら嫌な気持ちになってくる。

 また、名ラストシーンと言われる、警官に撃たれて街中をよたよたと走っていくベルモンドを追った長撮りにしても、客席のあちこちから笑い声が聞こえたし、俺自身も、感動もしなかったし、すごさも感じなかった。これは、もはやヌーベルバーグも古い波になったということなのか。それとも、俺にはこの映画が理解できなかった結果なのか。

【今の一言】などと、約40年前の自分は書いているが、要するに、ゴタールの映画は性に合わないというだけなのだ。

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『いい映画を見に行こう』『ぼくの大好きな俳優たち』『シネマディクトJの誕生』(植草甚一スクラップ・ブック)

2019-05-22 08:40:10 | ブックレビュー
ちょっと中毒気味になってきた『植草甚一スクラップ・ブック』。印象に残ったものを列記してみる。



『いい映画を見に行こう』(再読)
一九二〇年代のアメリカとエンターテインメント
フォークナーとハリウッド
「赤い風車」の色彩監督エリオット・エリソフォンのこと
ヴェルヌとディズニーが出会うとき
アメリカ的な映画の見かたについて(ポーリン・ケール)
小説家と映画
名作とその背景

『ぼくの大好きな俳優たち』(再読)
忍耐と努力でジャンヌ・モローは認められた
マストロヤンニ、あるいは演技の底流について
ジャン・ギャバンの手記
ローレンス・オリヴィエの小さな伝記
ゲイリー・クーパーの成仏だがねえ
エロールは四十三万ドルの喧嘩をやったのさ
エーリッヒ・フォン・シュトロハイムの映画生活をとおして
クロース・アップの演技者ジェームズ・メースン

『シネマディクトJの誕生』
「ミネソタの娘」と定石の活用
「大いなる幻影」の偉大さ
クレールの「沈黙は金」とタチの「祭の日」を見て
ワイラーの「我等の生涯の最良の年」
イギリス映画の現状
「靴みがき」にはすっかり感動してしまった
チャーリー・チャップリン(「殺人狂時代」「伯爵夫人」)
黒沢明(「羅生門」)
ベルイマンがアメリカで騒がれたとき
ストックホルムでの寒い日に「沈黙」
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『ラッシュ/プライドと友情』

2019-05-21 13:11:59 | 映画いろいろ
 元F1王者のニキ・ラウダが亡くなった。彼とジェームス・ハントとのライバル関係を描いたロン・ハワード監督の『ラッシュ/プライドと友情』(13)はなかなか見応えのある映画だった。



【ほぼ週刊映画コラム】男くささに満ちた骨太なドラマ『ラッシュ/プライドと友情』
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/335604

【インタビュー】ロン・ハワード
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1153362
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『マクリントック』

2019-05-21 10:58:11 | 映画いろいろ
『マクリントック』(63)



 西部の大地主マクリントック(ジョン・ウェイン)のもとに、2年前に家出した妻のキャサリン(モーリン・オハラ)が戻ってくる。 だが、勝気なキャサリンは夫ばかりでなく、周囲の人々をも振り回していく。

 シェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』を基にしたコメディ映画。監督はジョン・フォード一家の名優ビクター・マクラグレンの息子で、『静かなる男』(52)では助監督を務めたアンドリュー・V・マクラグレン。ウェインとの最初のコンビ作となったが、いささか冗漫な描写が目立つ。

ウェインは『ドノバン珊瑚礁』(63)ではエリザベス・アレンの尻をたたいていたが、この映画では最後にオハラの尻をたたいて一件落着。今では考えられないようなのどかな描写だ。ウェインとオハラは映画では夫婦役を演じたが、男と女としては水と油で、私生活では“親友”で通したという。それを知っていたわけではないが、この映画を最初に見た中学時代の自分は、勝気なオハラよりも家政婦役のイボンヌ・デ・カーロの方に好感を持った覚えがある。

 ちなみに妻は、所属する西部劇同好会ウエスタン・ユニオンの記念誌「よみがえる西部魂」の中で、マクリントックの「女は本当に起こっていることとは違うことに目くじらを立てる」という言葉を、名セリフに選んでいた。



アンドリュー・V・マクラグレン逝く
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/dec8eae48def02d380f208157a371d03

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『あの胸にもういちど』

2019-05-21 09:42:42 | 映画いろいろ
『あの胸にもういちど』(68)(2010.10.23.アラン・ドロン生誕75周年映画祭:新宿K's CINEMA )



 わが映画記録帳を紐解くと、この映画を初めて見たのはまだ中学生だった1974年11月6日の水曜ロードショーとある。朝もやの中、夫と暮らすフランスの片田舎から愛人のいるドイツに向けてバイクでひた走るヒロイン(マリアンヌ・フェイスフル)。彼女の現在と回想を交差させた何だか分かりにくい映画という印象が残っていたのだが、何と細部までばっちり覚えていた。これはエッチな場面見たさに集中して見ていたからなのだろうか…。テレビではヌードシーンを誤魔化すために花瓶が映っていた記憶がある。
 
 アラン・ドロン映画祭の一本なのに、当のドロンは脇役で、全編がフェイスフルの不思議な魅力で彩られている。今回見直してみて、映像的にも凝っていて音楽もなかなかいいとは思ったが、やはりジャック・カーディフは、監督としてストーリーを物語るよりもカメラマンとして誌的なイメージを紡いでいた方が良かったのではないかという気がした。
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アラン・ドロンに「名誉パルムドール」

2019-05-20 17:21:08 | 映画いろいろ

 カンヌ国際映画祭でアラン・ドロンに「名誉パルムドール」が贈られたが、米国の女性の人権擁護団体などが「過去に女性に暴力を振るったことを公言したり、同性愛に差別的な発言をしたりしている」などとして抗議しているという。これに対して主催者側が「ノーベル平和賞ではなく、俳優としての功績に与えるもの」と反論したらしいが、これはごもっとも。もともと俳優に品行方正などを求めても無駄なこと、というか、普通の人ではないからスターなのだ。



 特にドロンの場合は、昔とからいろいろと黒いうわさが後を絶たなかったが、その危うさが、逆に役柄との重なりや、俳優としての魅力にもつながっていたのだから、今さら彼に“いい人”を求めても仕方がないのだ。特別ドロンのファンというわけではないが、こんなふうに批判が出たら、演技賞なんて誰にも授与できなくなるのではないかと思った。


『違いのわかる映画館』vol.02 新宿K's CINEMA アラン・ドロン生誕75周年映画祭https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/3c533d0cadc613e16a0df94391ea7b5b


『ル・ジタン』(75)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/056a162a14eb74d6884ef3f5b479dd41

『暗黒街のふたり』(73)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/3b8a070bcbd63b0be6d9d6fbc31f5f1c

『あまい囁き』(72)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/2eb7d34aafe4c4af31071afb32e91fd1

『レッド・サン』(71)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/469e977ed783889db23eb4f6859c1dc8

『地下室のメロディー』(63)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f236c35f8aa2fd8d3f92153b786f73c0

『生きる歓び』(61)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/cdda6998432d01589b0f747e03b1aa3d

『太陽がいっぱい』(60)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/d99f98184f88ad18b0db44f37e379796

 

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マリンスタジアム『ゴジラvsメカゴジラ』

2019-05-20 10:32:09 | 雄二旅日記

 天気が良かったので、ZOZOマリンスタジアムに千葉ロッテマリーンズと東北楽天ゴールデンイーグルスの試合を見にいった。



 楽天の先発は広島から移籍した福井だったが、相変わらずの制球難でフォアボールを連発して自滅。嗚呼。ロッテの先発石川の出来も良くなかったので、結果的には打撃戦となり、5本のホームラン(浅村、ウィーラー、鈴木、レアード(2本))を見ることができた。いい天気の中、潮風に吹かれながら見る野球は格別だった。

 マリーンズについては、オリオンズ時代に本拠地を仙台、川崎と渡り歩きジプシー球団と呼ばれた頃を知っているだけに、今はすっかり千葉になじんだようで、よかったなと思う。駅前のマリーンズストアのショーウインドーにはオリオンズ時代の写真やグッズ、選手のサインが飾られていた。

 ところで、マリンスタジアムといえば、幕張周辺が舞台となった『ゴジラvsメカゴジラ』(93)ではラドンが飛来し、ゴジラに壊されていた。同じく野球場としては、『ガメラ大怪獣空中決戦』(95)で、ギャオスをおびき出し、ガメラに壊される場所として福岡ドームが登場したことを思い出す。さて、ハリウッド版の新作『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の出来はいかに。

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