
妻の病気や義兄の血管手術ばど、心配事はいくつかあった。幸いなことに京都の孫へ誕生祝を送れば年が越せる。
思い返すと、「世界でひとつの作品を作ろう」と誘われ、月2回の陶芸教室へ仲間入りして1年。この新しい出会いは、子どもころの土いじりに似た無心の楽しみを思い出す。
ろくろの上の粘土。両手を使って形を作るが思い通りならない。イメージとは違った形ができる。何度もやり直す。持ち帰った作品に「いいじゃないですか」と妻の感想。そこでちょっと苦心したところを話す。
初めて出合った陶芸の仲間は定年退職者が多い。でも、粘土をこねる生き生きとした姿は年齢より若い。話題共通の世代とのワイワイがやがやは気持ちが和む。作品作りとは別の楽しみも知った。
粘土には、人を結びつける磁力のような不思議な力が練りこまれている。ろくろを回しながら、そんなことを思う。
1年目最後の作品は、来る年の招福を願い干支に挑戦する。心和む陶芸仲間に出会えたことに感謝しながら、精いっぱいこねた粘土からどんな丑が誕生するか。妻も楽しみにしている。
(2008年12月24日 朝日新聞 「声」 掲載)
(写真:これまでの作品のいくつか)