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てらまち・ねっと



 安倍首相が目指す「集団的自衛権」は、自民党の中の反対論を押さえこみつつ強引に進められる。
 公明との協議も、「政権離脱」の不安を逆手に利用して強引に進めている、という人もいる。
 国内はもちろん、近隣国からも反対の声が出ている。

 そんな、現状の幾つかを記録しておく。
 報道の見出しを見るだけでも、雰囲気が伝わってくる。

●解釈改憲に危機感 59地方議会が意見書/東京 4月7日
●安倍首相が目指す「集団的自衛権」、近隣国からも反対の声/ロイター 4月 08日
●自民・石破氏 地球の裏「排除せず」 集団的自衛権 限定論と相反/東京 4月6日
●自公幹事長、“集団的自衛権”で認識に差/日テレ 4/9
●集団的自衛権、自公の論議、法廷闘争の様相/産経 4.8
●渡辺氏辞任、静かな波紋 首相は戦略練り直しも 野党再編は複雑化/産経 4.8
●特集ワイド:絶滅危惧種?自民ハト派の意地 タカ派幅きかす安倍政権、だからこそ聞きたい/毎日 04月08日

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 ●解釈改憲に危機感 59地方議会が意見書
        東京 2014年4月7日
 札幌市など少なくとも五十九の市町村議会が昨年九月以降、集団的自衛権の行使を認める解釈改憲に反対するか、慎重な対応を求める意見書を可決し、政府や国会に提出したことが分かった。意見書に法的な拘束力はないものの、国民に身近な地方議会で動きがさらに広がれば、解釈改憲に意欲を示す安倍晋三首相にプレッシャーとなる可能性がある。 (関口克己)

 意見書を可決した市町村議会は長野県の二十七市町村が最も多く、北海道から福岡県まで及んでいる。本紙が三月末時点の状況を調べた。意見書が国会に届き始めたのは昨年九月。首相が行使容認派とされる小松一郎氏を内閣法制局長官に起用した直後だ。
 九月二十七日に可決された福岡県太宰府市議会の意見書は「参院選での与党の勝利を背景に、集団的自衛権の行使を憲法解釈の変更によって容認しようという動きが急速に強まっている」と指摘。国民が求めているのは景気回復であり、解釈改憲は「民意との間にねじれがあることを自覚するべきだ」と主張した。

 青森市議会も同じ日に可決された意見書で、改憲せずに行使を認めれば「憲法九条の有名無実化を決定づける」と強調した。
 意見書の三分の二に当たる約四十件は二~三月に可決された。集団的自衛権の行使容認をにらんだ国家安全保障会議(日本版NSC)設置法や特定秘密保護法が成立した後だ。北海道本別(ほんべつ)町議会は、行使容認は「海外で戦争できる国づくりの第一歩」と批判。東京都小金井市議会も「民主政治の前提である立憲主義を否定する」と訴えた。愛知県扶桑(ふそう)町議会は「日本が攻撃されていなくても武力で協力する集団的自衛権の行使容認は、日本を戦争への道に引き込む」と危機感を示した。

 新潟市議会は「国民的議論なしに憲法解釈の変更がなされないよう強く要望する」と要請。自民党所属の議員が加わる複数の保守会派も賛成した。保守会派の議員は「地方議会にもイデオロギーの違いはあるが、おかしいものはおかしいと思い、野党と足並みをそろえた。安倍政権の動きは、市民の常識では認められないという意思表示だ」と話した。

全国の市町村数(五日現在)は千七百十八。
<地方議会の意見書> 地方自治法99条に基づき、自治体の議会が公益に関する問題への意見を示す手段として、国会や政府に提出する。議員が案を提出し、本会議で可決した後、議長名で提出する。法律上は提出を受けた機関がその意見に従ったり、回答したりする拘束力はない。
(東京新聞)

●安倍首相が目指す「集団的自衛権」、近隣国からも反対の声
           ロイター 2014年 4月 08日
    
 日本が集団的自衛権を行使できない立場を維持する方がよいとする各国の回答者の割合(上から中国、日本、韓国/単位:%)
 日本が集団的自衛権を行使できない立場を維持する方がよいとする各国の回答者の割合(上から中国、日本、韓国/単位:%)
 安倍晋三首相は、日本の軍事力、つまり自衛隊にもっと大きな役割を与えようと試みており、米国の国防長官からはあらためてお墨付きを得たところだ。だが、自衛隊による「集団的自衛権」の行使を容認しようとする同首相の構想は今後、厳しい道を歩む公算が大きい。日本国内にも東アジアの周辺国にも根強い反対意見があるためだ。

 日本の有力紙、朝日新聞が7日に発表した世論調査結果によると、日本の集団的自衛権について行使できない立場を維持する方がよいとの回答は、中国で回答者の95%、韓国では85%に達した。集団的自衛権を行使できないとする解釈は、第2次世界大戦での敗北以降、日本の自衛隊の任務を最も厳密な意味での自衛に限定している制約要因となっている。

 日本は集団的自衛の権利を持っているが、長年の政府の憲法解釈により、この権利の行使を禁止している。

 日本国内でさえ、集団的自衛権を行使できないとの立場を維持すべきだとの回答が全体の63%に達した。このため政府の解釈を変更しようとする安倍首相にとってかなり厄介なことになりそうだ。安倍首相は、日本の平和主義憲法を再解釈し、たとえ日本に対する攻撃でなくとも、米国など同盟国が攻撃を受けた場合、自衛隊による援護を可能にしようとしている。

Reuters 自衛隊記念日に行われた中央観閲式(13年10月27日、朝霞訓練場)
 日本政府筋によれば、米国のヘーゲル国防長官は6日、東京を訪問した際、日本政府による集団的自衛権の解釈変更に向けた「取り組みを歓迎」したという。

 朝日新聞の世論調査は2、3両月に実施され、日本では2000人強、中国と韓国ではそれぞれ1000人強が質問状に回答した。

 日本と近隣諸国との間では領土や戦時中の行動に関する解釈をめぐって緊張が続いており、今回の調査結果は、日本と近隣国の間に疑問や嫌悪感が鬱積(うっせき)していることを浮き彫りにしている。

 日本に対してどう感じているかの設問には、日本が嫌いだと答えた回答者は中国で全体の74%、韓国で67%に達した。一方、日本では、中国が嫌いだとの回答は全体の51%、韓国が嫌いだとの回答は34%だった。

 戦時中のいわゆる「歴史問題」をめぐっては全く対照的な回答だった。韓国では歴史問題は未決着との回答が97%、中国では88%に達した。これに対し、日本では、決着済みとの回答が48%で、未決着との回答は47%だった。

●自民・石破氏 地球の裏「排除せず」 集団的自衛権 限定論と相反
     東京 2014年4月6日
 自民党の石破茂幹事長は五日の民放テレビ番組で、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使を容認した場合の自衛隊の活動範囲に地理的な制限を設けるべきではないとの考えを示した。同党の高村正彦副総裁は活動範囲について日本近海を例示し、行使を必要最小限にとどめる「限定容認論」を唱え、行使容認に慎重な公明党の理解を得ようとしているが、石破氏は活動範囲が際限なく広がっていく可能性を認めた。
 石破氏は民放番組で、集団的自衛権を行使する場合の自衛隊の活動について「地球の裏側まで行くことは普通は考えられないが、日本に対して非常に重大な影響を与える事態と評価されれば、完全に排除はしない」と明言。「近くでも行使しないことはある」とも述べた。
 石破氏は番組後、記者団に「活動範囲は事案の性質で判断すべきで、地理的な概念に制約されるものではない」と強調した。

 高村氏は、砂川事件の最高裁判決(一九五九年)が日本の自衛に関し「自国の存立を全うするために必要な措置をとり得る」との憲法解釈を示したことを根拠に、限定的なら集団的自衛権の行使は認められると主張している。

 三月三十一日の党会合で、行使が認められる地理的範囲で日本近海を警戒中の米艦船が第三国から攻撃を受ける事例を挙げ「米国がどこかの国に攻められた場合、自衛隊が米国にまで行って守ることは必要最小限とは言えない」と指摘。「具体的に何が必要最小限に当たるのか(を決めるの)が極めて重要だ」と求め、政府の判断で活動範囲を決められると受け取れる石破氏の発言とは相反する。
 高村氏は三日に公明党の山口那津男代表と会談。こうした考えを説明し、行使容認に理解を求めたが、山口氏は慎重姿勢を崩さなかった。
 限定容認でも、政府が憲法九条を尊重して行使を禁じてきた解釈が崩れるためで、石破氏の発言で公明党がさらに態度を硬化させる可能性もある。

●自公幹事長、“集団的自衛権”で認識に差
          日テレ 4/9 NEWS24
 自民党の石破幹事長と公明党の井上幹事長は8日夜、BS日テレの「深層ニュース」に出演し、集団的自衛権の行使容認をめぐり議論したが、認識の差が浮き彫りになった。

 両幹事長は番組の中で、「中東・ペルシャ湾での機雷除去」を行う場合、集団的自衛権の行使容認が必要となるか主張を述べ合った。

 自民党・石破幹事長「それ(機雷除去)が可能であるとすれば、やはり根拠規定をきちんと作って、それが集団的自衛権の行使と評価されるような場合であったとしても、根拠規定を置くべきじゃないかということ」

 公明党・井上幹事長「いろんなケースが考えられる。ただ、そのことだけのために集団的自衛権を認めなきゃだめですねという議論の立て方は、私はちょっと本末転倒しているんじゃないかと」

 公明党の井上幹事長はこのように述べ、個別の事例ごとに、いまの憲法解釈の範囲内で対応できるかどうかをまず検討していくべきとの見解を示し、集団的自衛権の行使容認に慎重な考えをにじませた。

 一方、石破幹事長は、集団的自衛権の行使に地理的制約を加えることについて、「法律に書き込むのは難しい」と述べ、改めて否定的な認識を示した。

●集団的自衛権、自公の論議、法廷闘争の様相
      産経 014.4.8
 安倍晋三首相主導の憲法解釈の見直しによる集団的自衛権の行使容認に向けた動きが活発化している。政府は、「日本近隣の有事」「機雷掃海」「対米支援」の3事例について「日本の安全に深刻な影響を及ぼす事態」に該当するとして限定的に行使を容認する方針を固めた。

 自民党と事前調整した上で、5月に有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の報告書をまとめる方針。自民党内には必要最小限度で行使を認める「限定容認論」への支持が広がっており、今後は行使容認に慎重姿勢の公明党への説得工作がカギとなりそうだ。(SANKEI EXPRESS)

 行使容認の対象とするのは(1)日本周辺の有事で米国が集団的自衛権を行使している際に、米軍への攻撃排除や攻撃国に武器供給する船舶への立ち入り検査を行う(2)機雷で封鎖されたシーレーン(海上交通路)の掃海活動(3)米国が攻撃を受け同盟国と自衛権を行使している状況下で、攻撃した国に武器供給する船舶を日本に回航する-の3つのケース。

 たとえば、エネルギーの大半を輸入に頼っている日本にとって、シーレーンが機雷などで封鎖されれば、国民生活に深刻な打撃を与えるが、現在の憲法解釈では戦闘行為としてまかれている機雷を除去することは集団的自衛権の行使に当たるとしてできないことになっている。

 朝鮮半島有事での対米支援などと加え、こうした事態は現行の政府の憲法解釈で認められている「必要最小限度」の自衛権に含まれると判断し、対象を限って集団的自衛権の行使を認めるわけだ。

 一方で、他国の領土での集団的自衛権の行使については、公明党などの強い反発が予想されるため原則的に見送り、行使を領海や公海に限定して容認する方向となった。

 政府が当初予定していた法制懇の報告時期が当初の4月から5月以降にずれ込んだのは、自民党側の強い意向が働いたためだ。党には党内議論を法制懇の報告書にできるかぎり反映させたい思惑がある。党と法制懇が両輪となって限定容認方針を首相に示すことで、閣議決定に向けた環境整備が進む公算だ。

安倍首相の次のハードルは慎重姿勢を崩さない公明党との論戦だ。

 自民党の高村正彦副総裁と公明党の山口那津男代表は3日、東京都内で会談し、憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認問題をめぐる協議をスタートさせた。安倍首相が2日、公明党との調整を急ぐよう高村氏に指示したからだ。

 自民党幹部によると、会談は約2時間行われ、高村氏は「国の存立のため必要最小限度の範囲内なら、集団的自衛権は認められる」と限定的に集団的自衛権を認める自民党の基本方針を説明。
 しかし、山口氏は首を縦には振らず、丁寧な議論を求めた。

 「限定容認論」を主導する高村氏は党内の取りまとめに自信を持っている。ただ、11月に想定される沖縄県知事選や来年春の統一地方選を見据えれば、行使容認の決断を遅らせたくないのが本音だ。とはいえ、議論を急げば、公明党の態度を硬化させる懸念もある。

 高村氏は1959年の砂川事件の最高裁判決に依拠して、集団的自衛権の限定的行使は可能と主張。判決が党内で大勢を占める「限定的容認論」の支柱になっている。一方、山口氏はこの判決について、「集団的自衛権を視野に入れていない」と反論。これに対し、高村氏は「国連憲章で個別的あるいは集団的自衛権が認められている中で、全く視野に入っていなかったとは考えられない」と再反論。両者は弁護士出身で弁が立つだけに、限定容認論の是非を巡る議論はさながら白熱する法廷闘争のようになりそうだ。(比護義則

●渡辺氏辞任、静かな波紋 首相は戦略練り直しも 野党再編は複雑化
       産経 2014.4.8
 みんなの党の渡辺喜美代表の辞任表明は、集団的自衛権の行使容認に向けた安倍晋三首相の戦略にも影響を与えそうだ。首相は行使容認に理解を示す渡辺氏との共闘を模索するが、渡辺氏の発言力低下は避けられず、行使容認に慎重な公明党の影響力が強まる可能性がある。一方、野党再編をめぐる動きも複雑化し始めている。(坂井広志、水内茂幸)

 自民党の石破茂幹事長は7日の記者会見で「集団的自衛権の問題ではみんなの党の浅尾慶一郎幹事長が極めて正確に理解している」と述べ、同党との協力関係継続に期待感を示した。政府高官も「(渡辺氏は)いったん出直すということだろう。(騒動は)いずれ沈静化する」と語った。

 首相は集団的自衛権行使容認に前向きなみんなや日本維新の会を「責任野党」と位置づけ、連携を模索することで、秋の臨時国会での関連法案の審議に臨む青写真を描いていた。渡辺氏らとの連携を、行使容認に消極的な公明党への牽制(けんせい)カードにする狙いがあった。

 集団的自衛権をめぐる自公両党の協議が3日に始まった矢先の渡辺氏の辞任表明。首相らの思惑を公明サイドは重々承知しており、山口那津男代表は7日、記者団に「渡辺氏には説明責任を尽くすことが求められる」と述べ、逆に渡辺氏を牽制。そして自公関係について「幅広い合意形成を目指す基本姿勢に変わりはない」と強調した。

●特集ワイド:絶滅危惧種?自民ハト派の意地 タカ派幅きかす安倍政権、だからこそ聞きたい
         毎日新聞 2014年04月08日
 ◇村上・元行革担当相「決起促すつもり」

 ◇丹羽・元厚相「歴史の針戻す人いる」

 「ハトも鳴かずば撃たれまい」ということか。安倍晋三政権の下、ハト派の存在感が限りなく薄い。集団的自衛権を巡る議論も、限定的行使容認でまとまりそうな勢いだ。意見すべきときにしない国会議員は、その義務を果たしていると言えるのか。「絶滅危惧種」と皮肉られるハト派の「意地」を聞きに行った。【吉井理記】

 注目の「主役」の姿がどこにもない。

 3月31日、東京・永田町の自民党本部大会議室。議員約160人が参加した勉強会「安全保障法制整備推進本部」(本部長・石破茂幹事長)の初会合でのこと。集団的自衛権の行使を認めるための憲法解釈変更に強く異を唱えてきた村上誠一郎元行革担当相がいないのだ。出席者の間に静かな驚きが広がった。

 これまでも特定秘密保護法を「安倍首相の趣味」と切り捨て、憲法解釈変更にも異を唱えてきただけに、この日の会合も村上氏が激しい批判を浴びせる場面が予想されていた。わざわざ「村上氏は欠席した」と報じる新聞もあったほどだ。

 「何でかって? 決まってるじゃねえか。最初から『行使容認』の八百長会合に何の意味があるんだよ」。村上氏に真意をただすと思わぬ怒声が返ってきた。

 勉強会で講師を務めたのは高村正彦副総裁だ。憲法解釈の変更に前向きで、この日も「必要な自衛措置」に言及した1959年の最高裁判決(砂川判決)を引きながら「必要最小限度の行使容認は可能だ」と持論を展開。目立った異論は出ず、むしろ高村氏の発言への賛意が相次いだのだ。

 勉強会の日、村上氏は8日発売の月刊誌「世界」に掲載されるインタビュー記事の校訂に追われていた。この中で、安倍氏が目指す憲法解釈変更を「政権が代わるたびに解釈が変われば憲法は空文化し、法治国家として成り立たない」と改めて批判している。「勉強会とうたいながら、なぜ解釈変更バンザイの高村氏を講師にするのか。憲法解釈を考えるなら歴代の内閣法制局長官を呼ぶべきで、そのうえで皆で考えよう、というのなら俺も出るさ。何より『こんな勉強会はおかしい』と出席者から声が上がらないのが一番おかしいよ」

 ただ「私も村上先生と考えは同じ」とささやいてくる党内の議員は少なくないという。「そこに期待しているよ。声を上げにくい事情は分かる。若手や中堅は選挙区に十分な地盤がないし、カネだって昔は派閥に頼れたが政治資金のハードルが上がって、今じゃ党執行部が握っている。だけど良心を失ったら政治家はおしまいだろ。彼らに記事のコピーを配って『決起』を促すつもりさ」

 それでも表面的には、村上氏らごく一部だけが安倍首相や党執行部にかみついているのが実態だ。

 こんな話がある。昨年秋から今年にかけて、特定秘密保護法や集団的自衛権問題で危機感を強めた社民党前党首の福島瑞穂参院議員が宏池会(岸田派)など自民党リベラル系の議員を訪ね歩き「反安倍路線」で共闘を呼びかけたが、誰もまともに取り合おうとはしなかったという。ある中堅議員は「本格的な共闘はあり得ないとしても、福島さんの気持ちは分からなくもない。ただ、支持率の高い今の安倍首相を批判するのは難しい」と言葉少なだ。

 その宏池会。戦後のある時期には最大派閥だったこともあるハト派の牙城は、今や衆参合わせて議員40人余りと最盛期の半分以下。タカ派とされる清和政策研究会(町村派)が最大勢力を誇りわが世の春を謳歌(おうか)しているのと対照的だ。

 最長老の丹羽雄哉元厚相が重い口を開いた。

 「ハト派が衰退したというより、タカ派的な勇ましいことを言った方が迫力あるし、注目されるのでしょう。好戦的なものを求める雰囲気が国内の一部にありますから」。最近、ある議員から「北朝鮮拉致被害者の救出のために自衛隊を出動させるのは個別的自衛権の範囲内」との“見解”を聞かされあぜんとした。

 丹羽氏自身は「米国との集団的自衛権の行使を最小限だけ認めるのはやむを得ない」と言う。だが、その立ち位置は、党内の右派勢力とは異なる。「仮に集団的自衛権を少しだけ認めるにしてもより一層、周辺諸国と仲良くする外交努力が欠かせない。なのに歴史の針を戻し、外交を危うくする人が首相周辺にいる。戦前回帰的なイケイケドンドンの雰囲気を感じてしまって。最近の風潮はとても心配です」。名指しこそ避けたが「河野談話」見直しを訴えた衛藤晟一首相補佐官らのことだ。

 安倍首相が目指す憲法改正についても「堂々と戦争ができる国になる。あえてその道を選ばないのも知恵ではないか」と言うのだ。

 意外にも「自民党きってのタカ派」と目されたOBが安倍政権を危ぶんでいた。玉沢徳一郎元防衛庁長官(76)。安倍首相と同じ町村派に属し、イラクに派遣される自衛隊出発式で「皇国の興廃この一戦にあり」と叫んで物議を醸したこともある。

 その玉沢氏、集団的自衛権の行使容認に異を唱え、靖国参拝や首相側近らの歴史認識も厳しく批判していると聞き、会いに行った。開口一番「俺はタカだタカだと言われているが、単純なタカじゃない」と鼻息が荒い。「憲法解釈は権力者が変えるべきものじゃない。そもそも成文憲法に書いてある以上のことをやるのは独裁国家と同じ」。玉沢氏は9条を改正して自衛隊の存在を明記し、そのうえで集団的自衛権を最低限だけ認めるべきだとの立場。一見、安倍政権の方向と同じだが「俺は戦争を知っている。ここが違うんだ」と断言する。

 玉沢氏には幼い頃ながらも戦争の記憶がある。地元・岩手の鉱山では強制徴用された朝鮮人労働者が虐待を受けていたことを覚えている。父親が戦死した級友も多い。

 「かつて日本が外国で何をしたか、外国からどういう目で見られているのか、戦争を知らない安倍首相周辺は分かっているのか。戦前を美化するような発言が首相周辺からポンポン出てくるようじゃ危なくて改憲なんかさせられないし、ましてや集団的自衛権行使なんかとんでもないよ」

 丹羽氏が付け加える。「私だって戦前回帰のような動きが出てくれば、体を張ってでも止めますよ。私の周りにいる議員も気持ちは同じ。今は政権への異論は目立たないが、『風』が変われば発言する人はきっと増えてきますよ」

 自然界でもタカばかりが増えてしまえば生態系は崩れる。ハトの少ない政界はやっぱりおかしい。

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