"I've Never Been to Me" (Ron Miller, Ken Hirsch)
Charleneが歌った「愛はかげろうのように 作詞:Ron Miller, Ken Hirsch/ 作曲:Ron Miller, Ken Hirsch」
昨日のブログに書いたように、映画「プリシラ(The Adventures of Priscilla, Queen of the Desert.)」でGloria Gaynorの「I Will Survive」とともにフューチャーされている曲だ。この曲、何度聴いても泣けてしまう。
切ない歌だ。 '82年に全米3位の大ヒットとなったこの曲は、様々なコンピに収録され、'80年代半ばにはポーラ化粧品のCMに使われたり、日本では椎名恵に「LOVE IS ALL」としてカバーされた。最近は、パナソニックのDVカメラのCMに使われた。また、映画「恋愛適齢期(原題:SOMETHING'S GOTTA GIVE)」でも使われている。
いろいろ考えたが、この曲の題名"I've never been to me" の訳がしっくりこない。そもそも、歌詞や題名につじつまの合う意味を求めるのは野暮なことなのかも知れない。曲のさびの部分は”I've been to paradise but I've never been to me”だから、"been to"の繰り返しである。直訳すれば「パラダイスに行ったことはあるけど、自分自身に行ったことは無い」???
無理に意訳して「自分自身を見つめ直した事がない」としても、この曲の持つ絶望的な孤独感が伝わらないような気がする。やはり、「あるべき自分自身になれなかった」とすべきなのだろうか?いずれにしても、自分を見失っていたことを表す。
ジョージアだって、カリフォルニアだって、どこへでも逃げって行ったわ
説教師(立派な人?)を誘惑して、太陽の下で愛を交わしたりもしたわ
('68にダスティ・スプリングフィールドの歌ったプリーチャーマン(説教師)との関係が?)
でも、もっと自由になりたくて、住み慣れた場所や優しい人たちのところから何度も逃げ出したの
パラダイスには行ったけど、そうあるべき自分自身にはなれなかったの
Oh, I've been to Georgia and California and anywhere I could run
I took the hand of a preacher man and we made love in the sun
But I ran out of places and friendly faces because I had to be free
I've been to paradise but I've never been to me
ネットで調べてみたが、この歌を歌ったシャーリーン(Charlene Marilynn D'Angeloborn 1 June, 1950, Hollywood, California)
とともに、この歌自体が謎の多い曲である。シャーリーン自身は、1歳の時に重い病気にかかり、長い病床での孤独な子供時代を過ごしたらしい。16歳で退学、17歳で結婚、子供が生まれたが麻薬に溺れ離婚してしまう。また彼女の音楽的才能は認められる事無く、すさんだ生活を送っていたらしい。'76年に彼女がこの曲をフューチャーした最初のアルバムを出した時、彼女はレコードプロデューサーのLarry Duncanと結婚しており、シャーリーンのフルネームはCharlene Duncanだった。ようやくこの曲に火が付いて'82年にアルバムを再リリースした時は、英国人のJeff Oliverと結婚してCharlene Oliverとなっていた。 彼女はその後も何枚かのアルバムを出しているが、その後はヒットチャートをにぎわすことはなかった。現在、WEB上の彼女のオフィシャルサイトは閉じらたままだ。
もともとのこの曲
http://www.songfacts.com/detail.php?id=3026
から引用すれば、Ken Hirschが作った元歌は男の視点で書かれていた。それをRon MillerがCharleneのために書き直したとのこと。 歌詞に出てくる"I've been to crying for unborn children" (生まれなかった子供を思って泣いていた)の部分は、中絶を意味しているのではない。欲しくても子供ができなかったことを意味したものらしい。しかし、一般的にはこの部分は”中絶した”として解釈されているようである。そして、この曲のさびの部分の後に、「今は(この歳で)一人」という歌詞へ続く。この歌にはセリフの挿入部分があるが、シャーリーンの1977年にリリースされた最初のアルバムでは、いったん削除されている。そして、1982年に思いもかけずに大ヒットした時に、セリフが入ったバージョンが再リリースされた。
この曲には、このようにいろんなバックグラウンドがあって、世界的な大ヒットにつながっている。ところで、元歌の男の視点で書かれた曲は、どんな内容だったのだろう。虚構に満ちた避暑地の社交界にあこがれる娘への言葉?それにしては、きれいすぎるメロディラインのイメージが合わない。あるいは、限界まで踊らされ続けたエリートサラリーマンの言葉?赤い靴を運良く脱ぐことができても、時すでに遅し?作者のKen Hirschにメールして聞いてみようと思ったが、手を尽くして調べたものの連絡先が判らずじまいであった。
上のリンクによれば、'75年に封切された映画「JAWS」のロバート・ショーのキャラからインスピレーションを得て歌詞が書かれたという。ロバート・ショーは、JAWSで鮫を獲る請負業の男を演じている。その漁師はパール・ハーバーをふり返り、「原爆を運んだ船で日本の魚雷攻撃に遭って沈没し、1昼夜にわたり海の中で1000名の兵士のほとんどが次々に鮫に襲われる絶望的な恐怖の体験をした」と語っている。それ以来、漁師はひどく覚めた目で人生を見ているのだ。だから、最初の歌詞は、'70年代初期の行き過ぎた女性解放運動に対して、”自由を求めすぎることの代償は大きい”ことを警告するような覚めた内容だったのではと思うがどうだろうか?歌詞がよりマイルドな内容に変わって、時代も行き過ぎた運動の反動もあってそれを受け入れられるようになったと書けば、世界中の女性を敵にまわすことになるかもしれないが・・・。
パラダイスの部分を大学院に、ニースやギリシャをパリやニューヨークの国際会議に変えることで、いったい何人の博士達が涙にむせぶことだろう。<聞けよ、学生達。今はフリーターに身をやつしているけど・・・。私には平凡な生活を送る勇気が(さえ)なかった。>
この曲は、歌詞自体の大きな変遷がそれ自身の厚みを増しているのかもしれない。誰しも人は人生の分岐点を振り返り、選択しなかった人生に想いを馳せるものなのだろう。
歌の途中に入るセリフ
Hey, you know what paradise is?
It's a lie, a fantasy we create about people and places as we'd like them to be
But you know what truth is?
It's that little baby you're holding, it's that man you fought with this morning
The same one you're going to make love with tonight
That's truth, that's love
『ねえ、パラダイスってなんだかわかる?
それは、いろんな人や場所が、そうなって欲しいようにと私たちが創り上げた幻想、うそ
でも、何が真実なのか知ってる?
それはあなたが抱いている小さな赤ん坊 それはあなたが今朝ケンカした男
同じ男と今夜あなたは愛し合う
それが真実、それが愛』
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