tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

やらせの儀式

2019-02-19 22:56:46 | 人々

柄杓ですくった茶を天に、爱する祖国の地に、そして客人を歓迎するために四方に捧げる。
前もって調べておいた古いモンゴルの朝の儀式。朝、母親が沸かしたお茶を天地・四方にささげる儀式だ。ドキュメンタリーにはもってこいのビジュアル。
通訳のプージェーにはこの写真をものにしたいと伝えておいた。

実際に撮影となると、いろんな困難に遭遇した。
例えば、絞った牛乳。絞りたてを天地・四方にささげるのだが、ゲル滞在中の乳絞りはいつも決まって暗くなってから。
真っ暗な中で、おばあちゃんがしぼったばかりの牛乳をささげる。これが、スピードライトを当てての写真では、雰囲気がぶちこわし。

また、朝、一番先に起きるのは、おばあちゃんではなくおじいちゃんだった。外がまだ真っ暗な5時ぐらいに起き出して、ストーブに火を入れる。ゲルの主のみしかできない火入れ。
いつも、このタイミングでぼくも起き出し、ゲルの外へ出てワンコとともに未明の風景写真を撮る。

モンゴルの明け方は遅く、7時ごろ。おばあちゃんが火がおこったストーブで鍋いっぱいのスーテーツァイをつくる。
嫁入り道具として持参したいう年季の入った茶の袋に入った黒茶の磚茶(たんちゃ団茶)の塊を、ステンレス製のラチェット(なぜか)で砕く。
ぐらぐら沸き立つ鍋に、黒茶と牛乳を加え、塩を加えて煮出す。このモンゴル式のミルクティ「スーテーツァイ」は、最も一般的な饮み物のひとつだ。
とっ沸しないように注意してお茶の完成。本当は外に出て、四方の神へささげる儀式をするのだが、なんせ、まだ外は真っ暗なマイナス30℃の世界。
ゲルの扉を少し開け、入り口から外へ向かってスーテーツァイの奉納。写真の構図としてはぜんぜんよろしくない。

それでも、ツァガンサル(白い月)のはじめのスーテーツァイは、日が昇ってからその儀式をしてくれた。
というのも、ぼくが写真を撮れずに困ってることを通訳のプージェーが伝えてくれたから。おばあちゃんは、撮影の準備ができたらいつでもしてあげるよと。
・・・真実を伝えるはずの写真は、多分にこんなことになりがち。

日が昇って、ツァガンサルのスーテーツァイができて、おばあちゃんがポットを抱えて外に出る。孫のメンクバトがつきそう。
おばあちゃんと孫でモンゴルの古い儀式。いい絵だ。
・・・と写真を撮ってたら、プージェーがゲルから出てきて写真の邪魔とばかりに孫をカメラの視野から追い出してしまった。
こんなこともある。思わぬ「やらせ」に苦笑してしまう。ドキュメント写真って、いったいいくつの真実を焼き付けられるものなのだろう。