tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

米国経済と米巨大企業の盛衰

2024年04月15日 20時33分15秒 | 経済

日本製鉄がUSスチールを買収するという、昔なら驚天動地の現実が進行しているというのが、このところ日米で共に問題になっています。

ご承知のように、USスチールは アメリカでは石油王ロックフェラーと並ぶ鉄鋼王アンドリュー・カーネギーがつくって、嘗ては世界最大の鉄鋼会社で、カーネギーホールとともにで世界にその名を知られているところです。

企業の吸収や合併は私企業同士の契約で行われるものですから、USスチールと日本製鉄が合意すればそれで進むというのが法律的な決まりなのでしょうが、現実社会はそうはいきません。

アメリカが第二次大戦後世界の覇権を握り、基軸通貨国としての地位を確立、今日に至るまでその地位を維持している背景には、USスチールをはじめとしたアメリカの大企業の発展によりアメリカ経済を強大にしたからと言えるでしょう。

ところが、今、アメリカの産業経済発展のシンボルでもあったUSスチールが、経済不振に悩む日本の日本製鉄に買収されるという事になっているのです。アメリカ人の中に「許せない」といった感覚があっても当然かもしれません。

という事で、この問題は、国民感情という問題に発展し、ひいてはアメリカの労働運動、更には今回の大統領選挙にまで影響しかねない状況に発展しているようです。

このブログでは今までもコダックと富士フイルムの経営比較GMやGEの蹉跌とアメリカ経済などアメリカの超大企業の盛衰を取り上げてきました。今回はUSスチールの日本製鉄による買収云うという事態の発生です。

というのもUSスチールには昔日の面影はなく、アメリカ経済を支えた嘗ての力も失われると状態になりつつあるからという事でしょう。

世界のトップ企業だったUSスチールの粗鋼生産量は、今や1449万トン、日本製鉄は4437万トン、トップは日本が指導した中国の宝山、いまは宝武鉄鋼集団で1億3264万トンです。日本製鉄は4位、USスチールは27位(世界鉄鋼協会)とのことのようです。

量的の問題は、それぞれの国の事情があるとして(中国の巨大さ)、企業としての体質を最も良く表すと考えられる自己資本比率を古い資料からも拾ってみますと下のようです。

<自己資本比率>  1962年   2023年

USスチール     66.9%    54.5%  

日本製鉄      33.5%        43.7% 

 資料:1962年通産省「世界の企業の経営分析」、2023年「各企業B/S」

国際的に見れば、力を失うUSスチール、何とか踏ん張る日本製鉄、アジア系の鉄鋼企業に挟まれるような立場の両社は技術力が生きる道でしょう。

頼るのは技術力のシナジー効果ではないでしょうか。その点で気になるのは、USスチールの労働組合が反対している事です。

日本的経営から言えば、企業活動は、経営者と従業員で成り立っているのですから、従業員は経営者と同じように現状を理解なければならないのです。

その点の努力、従業員が将来に期待を持てる事、そうした条件を日本製鉄側は、本気で大切にしているのでしょうか。

株主総会で賛成を得る時には、労働組合も、同様に賛成の意思表示をするような共に働く人間を大事にする日本企業の「心」を示してほしかったと思うところです。

それが、最終的な成功を支えるのではないでしょうか。