政府・自民党は3日、平成25年度の防衛関係予算について、自衛官定員の拡充などのため概算要求から1千億円規模の上積みを図る方針を固めた。安倍晋三首相はすでに「防衛計画の大綱」(防衛大綱)と「中期防衛力整備計画」(中期防)を見直す方針を表明しているが、防衛予算の上積みにあたり、民主党政権下で22年に策定された現行の防衛大綱と23年度から5年間の中期防は当面、凍結する考え。新たな防衛大綱、中期防は、今夏以降に見直し作業を本格化させ、今年中にまとめる方針だ。
複数の政府関係者によると、防衛大綱と中期防は、閣議決定による凍結を検討している。その上で、25年度予算編成にあたって、自民、公明両党の連立政権合意である「領土・領海・領空の保全を図るため、必要な防衛・海上保安予算を確保する」との方針に従い、柔軟な予算確保を図る。
防衛省は25年度予算の防衛関係費として、24年度予算比602億円減の4兆5851億円を概算要求している。政府・自民党はこれに1千億円程度を上積みし、政権転落前の4兆7千億円規模に回復させることを目指す。
具体的には、前年度比1220人減となっている陸上自衛隊の定員削減計画の見直し、尖閣周辺で中国機の領空侵犯に対処しているF15戦闘機の近代化改修の拡充などを検討する。
おおむね10年間の防衛力の在り方を規定する防衛大綱は、冷戦期の昭和51年に最初のものが策定され、現行で4回目。中期防は防衛大綱に基づき、5年間で整備する主要装備の数や経費の総額を示す。
民主党の菅直人政権は現行の防衛大綱、中期防の策定にあたり、中国の海洋活動の活発化を「地域・国際社会の懸念事項」と明記、「動的防衛力」の構築を掲げて、沖縄など南西方面での海・空戦力の強化や離島への沿岸監視部隊の配置を盛り込んだ。
ただ、一方で陸自の定員を15万5千人から15万4千人に減員、5年間の経費総額も前中期防から削減する計画とした。
これに対し、自民党は衆院選の政権公約で「防衛大綱、中期防を見直し、自衛隊の人員、装備、予算を拡充する」と主張。首相は12月26日の内閣発足にあたり、小野寺五典防衛相に対し「防衛大綱と中期防を見直し、自衛隊の態勢強化に取り組んでほしい」と指示していた。
特集社説2012年12月20日(木)生活保護費削減へ 真っ先に切り捨てていいのか
「『自助』『自立』を第一に、『共助』と『公助』を組み合わせ、弱い立場の人にはしっかりと援助の手を差し伸べる」―そんな公約を掲げた自民党の政権復帰で、生活保護費の給付水準が引き下げられる見通しとなった。
安倍晋三自民党総裁が「いの一番」に取り組むのは景気対策。本年度補正予算は公共事業拡大を中心に10兆円規模の大盤振る舞いを目指すが、当然財源は乏しい。かき集めても確保できるのは5兆円程度とされ、不足分は「国債の追加発行」―つまり借金と、衆院選の公約で「10%引き下げ」と明記した生活保護費の削減、公務員の人件費縮減などにまず着手するという。
景気対策と、100兆円を超え膨らみ続ける社会保障費の抑制は、どの政権にとっても重要な課題には違いない。ただ、非正規労働者が35%を超えるなど雇用の不安定化が進み、少子高齢化で将来に不安を抱える今の社会情勢に照らせば、「自立」の名の下に「最後の安全網」である生活保護費を真っ先にターゲットにして、公共事業に注ぎ込む手法には懸念を禁じ得ない。
景気対策の効果が波及し、生活保護の受給者層に届くまでには長い時間、大きな時差がある。政権が変わっても、間をつなぐ息の長い支援を途切れさせてはならない。
生活保護費の不正受給防止など「適正化」には異論はないが、それだけで受給者増の根本にある貧困問題が解決するわけではない。保護費増を「隠れたばらまき」(自民党生活保護プロジェクトチームの世耕弘成座長)とみるのでなく、抑制し難い今の社会の仕組みをどう変えていくか、また社会保障費や他の支出で削減できる部分がもっとないのかどうかも含め、議論を深めてもらいたい。
生活保護受給者は9月に213万人を超え、過去最多。保護費も年々増えて、12年度予算では国と地方を合わせて約3兆7千億円(うち国費2兆8千億円)に上る。
自民党は「適正化によって数千億円削減できる」と主張し、保護費の8千億円カットを掲げた。数年かけて段階的に減額し、「手当より仕事」を基本に就労支援を強化する案を検討している。しかし実際、受給者の世帯別では65歳以上の高齢者世帯が全体の4割を超える。先に手当を減らして「仕事を」と言っても、そう簡単なことではない。
前回政権交代の一因となった年金問題も、解決の道筋は見えないまま。社会保障制度全体の絵を急いで描き直さなければ、多くの人が制度の谷間にこぼれ落ちる。「自助」ばかりを強調するのではなく適切な「公助」によって安全網を厚く、多重にし、結果として受給者が減っていく社会を再構築してもらいたい。 (愛媛新聞)
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