電車でのベビーカー、邪魔? 理解求めるポスター波紋
【仲村和代、北林晃治】電車やバスの中でベビーカーは「邪魔者」なのか。首都圏の鉄道会社などが昨年作ったベビーカーへの理解を求めるポスターに批判が寄せられたという。少子化の時代。乳幼児を連れたママも、まわりの乗客も、気持ちよく利用するにはどうしたらいいのだろう。
東京都板橋区の萩原あやさん(38)は、1歳10カ月の息子を連れて時々電車に乗る。駅まで徒歩15分。以前は抱っこひもだったが、体重が10キロを超え、腰に限界が来て、ベビーカーを使うようになった。
着替えなどが詰まった重い荷物を持ち、息子を抱きあげてベビーカーをたたむのは重労働だ。病院の予約がラッシュ時と重なった時はあきらめてタクシーを使い、1万円近く出費した。
働いていた時は「混んでる車両にベビーカーなんて非常識」と思っていたが、子育てを始めて母親の苦労が分かった。「大きな荷物があるなど、迷惑をかけることは誰でもある。お互い様の気持ちで見守りあえればいいのに」
首都圏の鉄道会社と東京都が昨年、「赤ちゃんを守るのは、みんなの思いやりです。」と記したベビーカー利用に理解を求めるポスターを駅に張り出したところ、ベビーカーに批判的な声が多く寄せられたという。
朝日新聞社会部のツイッター(@Asahi_Shakai)を通じ、公共交通機関でのベビーカー利用について意見を募ると、「たたんで乗ると危険」「重くて大変」という子育て世代からの切実な声が多数寄せられた。
4歳の娘がいる女性は「車内でたたむと、抱っこしながら大きな荷物を持ってベビーカーを支えなければならずツラかった。そして乗客の冷たい視線」。
5カ月の子どもの母親は「混雑時は乗り過ごすし、混雑する時間帯は抱っこひもでの移動を心がけている」。小学生の娘2人の母親は以前「バスの車内でちょっと動いただけで、そんなもの持ってくるからだと運転手に怒鳴られた」。
一方、「ぶつけても謝らない」「閉まりかけたドアに突っ込んできた」など、ベビーカー利用者のマナー違反を指摘する声も。
高校生の子供がいる女性は「空のベビーカーを広げたままの人も。乗せないなら畳んで欲しかった」。
子育て経験のある女性は「私の年代では乗り物ではおんぶか抱っこ。本当に大変でしたが、そんなものと思っていました」。
車いすを利用しているという女性は、エレベーターがベビーカーでいっぱいで乗れず、何十分も待った経験があるという。「子育てが大変なのはわかるけど、車いすはたためない。状況によって譲り合えるといいのに」という。
首都圏や関西の鉄道各社がベビーカーを広げて乗ることを認めたのは1999年頃。ただ、多くの会社は「混雑時は配慮を」などとしていて、はっきりしたルールがあるわけではない。
ベビーカーも変化している。メーカーなど21社からなるベビーカー安全協議会によると、かつての主流は「軽量」「コンパクト」。しかし、海外製が普及し始めた5年ほど前から、乗り心地や安定感を重視し、がっちりしたフレームや衝撃を吸収するエアタイヤを備えた機種も増え、「大型化」が進む。
国内大手メーカーのアップリカとコンビは、02年に電車のドアにベビーカーの前輪が挟まれる事故が相次いだことを受け、はさまりが感知されやすいよう車輪の幅を広げる改良をした。
ただ、メーカー側はたたまずに乗ることを推奨しているわけではない。アップリカは取り扱い説明書の注意事項に「電車の中で使用することを目的として設計されたものではありません」と明記、ストッパーをかけるよう呼びかけている。コンビの担当者も「車内での利用はあくまで自己責任の範囲で」とする。
公共交通機関でのマナーに詳しい谷口綾子・筑波大講師(システム情報工学)は、「子育て環境が劇的に変化し、世代や人によって受け止め方に大きな差がある」と指摘する。20~30年前まではおんぶや抱っこが当たり前で、外出も子ども優先だった世代。ところが現在は、母親の孤立が問題となり、外出も奨励されるようになった。
谷口さんは、不快に思う一因は「何を考えているかわからないこと」にあると分析する。「利用者が『お騒がせしてすみません』と添えたり、周りの人が見守るだけじゃなく『荷物持ちましょうか』と声をかけたりするだけで場は和む。上からのルールだけでなく、雰囲気作りも大切です」