東京都心の高層ビルの一室に、マンション分譲大手の大京の社員十数人が集められている。人事コンサルティング会社のベクトルへの「出向」を命じられた人たちだ。彼らはそこを「追い出し部屋」と呼ぶ。
「会社全体が追い出し部屋」
「はい。JINS(ジンズ)メガネです」
問い合わせの電話に、低価格を売りにしためがねチェーンの名前で答えると、40歳代の大京社員は、チェーン店でのアルバイトの面接日時について説明した。
朝に出社すると、求人サイトへの応募メールをチェックし、JINSの採用面接の日取りなどを連絡する。夕方まで数十件続けると、くたくたになる。
ほかの人もJINSと同じように、「マツモトキヨシ」や「ブックオフ」「ファミリーマート」を名乗り、パートなどの募集業務を代行する。不慣れなせいで、マツモトキヨシと思って電話をかけてきた相手に別の社名で答えてしまう同僚もいて、不審に思った相手に詰め寄られてあたふたする。そんな様子を見ると、情けなくなってくる。
「嫌がらせとしか思えない。早く会社を辞めろと」
ベクトルへの「出向」が始まって約3カ月がたった。「同僚」は、大京の営業や経理、システム開発など様々な職場から集められた人たちだ。
「皆さんは成果の出ていない方々。これは『気づき』を与える教育出向と考えていただきたい」
3月下旬、ベクトルへの「出向説明会」で、人事担当幹部はそう言った。
だが出向先の実態は違う。「教育なんてウソだ」
■電話営業、教材からマグロまで
出向者の給料は大京が払い、受け入れた営業代行会社などはタダ同然で大京社員を自社のビジネスにつかう。そんな「二人三脚」が社内で知られるようになったのは、大京がオリックス傘下に入り、リーマン・ショックで経営危機に陥った後からという。
「とても売れそうにない商品を売るように言われて」。希望退職への応募の打診を断ったあと、営業代行会社のセレブリックスに出向させられた中年の男性社員はこう振り返る。そこでの仕事も、さまざまな会社の営業代行だった。
長机に出向社員ら約200人が肩がくっつくほどびっしりと座らされた。「お世話になっております。○○と申します」から始まる電話営業の「台本」が渡され、電話を1日200件かけるノルマが課された。
売り込む商品は毎月のように変わった。メールソフトや幼児用の英会話教材、そして「マグロ1匹」。
電話をかけるたびに報告シートに「正」の字で1時間ごとの「コール数」を書かされた。わずかな昼休みをはさんで夕方6時まで座りっぱなしだ。ノルマがちらつくなかで、午後3時ごろからは1時間で「正」の字が、六つ七つと並んだ。
電話での働きかけがぎこちないと、一回り以上も若いセレブリックスの社員に1時間もなじられる。
キャリアを積み重ねてきた中堅社員たちが会社の都合でばっさり切られ、退職を拒めば過酷な業務を強いられて使い捨てられる。これまでの人生が否定され、これからの暮らしも見えない。
「俺たち奴隷かよ」。帰路、何度も線路に飛び込もうと思った。
山本太郎氏 演説 in 王子(北とぴあ14階)| 2013.7.11
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