明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(48)国内原発の大半、安全対策に難点

2011年04月16日 12時40分00秒 | 明日に向けて4月1日~30日
守田です。(20110416 12:40)

朝日新聞が注目すべき記事を載せています。
今回の福島での事故を受けて、国内各地の原発に安全対策を問い合わせた
ところ、その大半で長期電源喪失事故への想定がないことなど、安全設計上の
問題が多数あることが分かったという内容です。

つまり今、私たちの国は、現在進行形のフクシマという事態以外にも、大変な
危機を抱えていることが浮き彫りになっています。当面、もっとも危険なのは
浜岡原発でしょうが、しかし他の大半の原発も、大地震や大津波が起これば
すぐに危機に陥ってしまうのです。危機は浜岡だけにあるのではありません。

この点からも、全ての原発を早急に止めることが急がれます。
同時に、フクシマの事態は、運転を止めていても、燃料棒がある限り、原発が
なお大きな危険性をはらんでいることを明らかにしています。
このため、津波対策、燃料棒の可能な限りの安全管理と、その厳重な監視
体制を作りだすことも急務です。

おそらく、そのためにたいへんな額の予算が必要になるでしょう。原子力発電が
本当は、天文学的なコストを要するものであることが、一気に表面化してくると
思います。しかしそのコスト、運転ではなくて、廃炉にして、
極めて難しい安全管理に移行していくコストを、私たちの社会は払い続けなけ
ればなりません。原子力発電を推進してきた企業などが中心的に担う以外ない
でしょうが、ともあれ、安全のためには、脱原発の道を急ぐ以外、選択の道は
ないと思います。(この点はまた詳しく論じたいと思います)


こうした私たちの国の混乱、現在進行形で、ゆっくりと、長く、大量に続く、
福島原発からの大量の放射能漏れを前にして、ドイツは、いち早く原子力
発電の運転期間の短縮を決定しました。

メルケル首相は、「我々はみな、できる限り早く核エネルギーから脱却し、
(風力などの)再生可能エネルギーへと乗り換えたいと考えている」と
声明しています。人間としての当然の本能に素直に従った英知を感じます。

またそれは私たちの悶絶の苦しみを、正しく受け止めてくれている声明で
あるとも思えますが、今、連続する放射能漏れに、もっとも苦しんでいる
私たちの国の中でこそ、こうした英知が輝かねばならないと思います。

今日の午後3時半から、大阪中之島公園にて、緊急の「原発いらん!関西行動」
が呼び掛けられています。僕もこれから出かけます。
1人での多くの人が、私たちの命と、未来世代を守るために、声をあげるべき
ときです。

**************************
国内原発の大半、安全対策に難点 長期電源喪失想定など
2011年4月16日3時7分 朝日新聞

 東京電力福島第一原発の事故をめぐり、朝日新聞が全国の10電力会社
などに安全対策に関する調査を実施したところ、大半が事故前、長期間の
電源喪失など第一原発レベルの事故に対応する態勢をとっていなかった
ことが分かった。第一原発で被害を拡大させた疑いがある安全設計上の
問題を同様に抱える原発が多数あったことも判明。各電力では、津波対策
などに乗り出している。

 調査対象は、国内の17商業用原発で54基の原子炉を運転する計10
電力と、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)を運転する日本原子力研究
開発機構。福島第一原発事故前の(1)炉心溶融などの過酷事故の想定や
訓練(2)全電源喪失時のバックアップ態勢(3)非常用ディーゼル発電機や
海水ポンプの設置状態――について調べた。

 (1)では、10電力のうち東京、東北、中部各電力など7社と同機構が
事故の際、非常用バッテリーが動く5~8時間で外部電源などが復旧すると
想定。第一原発事故で起きたような数日間にわたる長期全電源喪失への
対策や訓練はなかった。

 (2)では、福島第一原発事故の前は、関西電力を除く9社と同機構は、
原発内や付近に、外部電源などの喪失に備えた電源車を配備していなかった。

 また、(3)では、福島第一原発で、非常用ディーゼル発電機が水密性の
高い原子炉建屋内に設置されていなかったことや、海水ポンプが建屋内に
収容されていなかったことが、津波を受けた後の電源喪失事故に至った
主要な原因ではないかと東電内で指摘されている。これらの点について、
四国電力伊方原発(愛媛県)や九州電力川内原発(鹿児島県)など12カ所の
計31基で、ディーゼル発電機が原子炉建屋ではなく、タービン建屋内
などに設置されていた。海水ポンプも、関西電力美浜原発(福井県)や
九州電力玄海原発(佐賀県)など11カ所の計34基で、屋外にほぼむき
出しの状態で置かれていた。

 各電力は事故後、(1)については長期間の電源喪失を想定した緊急訓練を
実施。(2)の電源車も急きょ配備を進めている。(3)については、「想定した
津波より高い位置にあり、安全性に問題はない」(関西電力)との見方も
あるが、非常用ディーゼル発電機が置かれた建屋の扉を水密性の高い
ものに取りかえたり、海水ポンプの周囲に防護壁を設置するなどの対策が
進められている。(中村信義、舟橋宏太)
http://www.asahi.com/national/update/0416/TKY201104150581.html

ドイツ、原発運転期間を短縮へ 福島事故で方針転換
2011年4月16日6時59分

 ドイツのメルケル首相は15日、野党・社会民主党も含む国内16州の
州首相らと今後のエネルギー政策について協議し、国内の原子力発電所の
運転期間を短くすることで合意した。6月17日までに法改正を目指す。
具体的な短縮期間は決まっていない。

 首相は協議後の会見で、「我々はみな、できる限り早く核エネルギーから
脱却し、(風力などの)再生可能エネルギーへと乗り換えたいと考えている」と
述べた。ドイツには17基の原発があり、これまでの計画では、最長2040年
過ぎまで稼働させる方針だった。

 メルケル政権は昨年、原発の運転期間を平均で12年間延長する原子力法
の改正をしたばかりだったが、福島第一原子力発電所の事故を受けて
方針転換。今回の協議で、超党派で「脱原発」を急ぐ考えをさらに明確にした。
(ベルリン=松井健)
http://www.asahi.com/international/update/0416/TKY201104160089.html
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明日に向けて(47)私たちは悔い改めます(キリスト者の声明より)

2011年04月16日 11時30分00秒 | 明日に向けて4月1日~30日
守田です。(20110416 11:30)

日本キリスト教協議会が、菅直人内閣総理大臣に宛てて声明を発表しました。
大変、素晴らしい内容ですので、みなさんにお読みいただきたいと思い、
転送させていだきます。

これほど短い文章の中に、大切なことがみな書きこまれていると思えます。
それはこの方たちが、どれほどこの問題を深く考えられてこられたのかを
象徴していると思います。

にもかかわらず、この方たちは、原発を止められなかったことについて
「私たちは悔い改めます」と書いています。僕もこの方たちとともに
「抗議し」「悔い改め」「要望したい」と思います・・・。
なお、私にこれを送ってくれた友人の言葉も添えておきます。

***********
流すのではなく、ぜひ、立ちどまって読んでほしいと思いました。

要望と併記して綴られる悔恨の念。
この立ち位置なくしての再出発はあり得ない。
ワタシ自身、そう考えどおしの毎日ですが、それをどんな言葉に乗せるのか、どんな
言葉で伝えるのか。と。
ここに、これからの道筋が記されていると思いました。

はあ。涙が出ます。まっとうなコトバが、まっすぐ胸に沁み込んでいきます。

***********************

福島第一原子力発電所事故に関する日本キリスト教協議会声明
2011年4月11日 日本キリスト教協議会 議長 輿石勇


2011年3月11日に起きた東北太平洋沖地震と津波によつて、東京電力福島
第一原子力発電所で取り返しのつかない事故が起き、また現在も続いています。
人類で初めて原子爆弾による被害を受け原子力の猛威を自ら体験したゆえに、
脱原発社会を目指すはずの日本に住むキリスト者として、脱原発という方針を
掲げている日本キリスト教協議会(31のキリスト教教団。団体のネットワーク)は
改めて以下のように自らの信仰的立場を明らかにします。

わたしたちは抗議します。
原発震災や事故について想定できたにもかかわらず、日本政府が「安全
神話」を根拠に原子力行政を続けてきたことに抗議します。東電従業員を含む
労働者の被曝、住民の被曝、環境への放射能汚染の第一の責任は日本政府
にあります。また、必要とされる適切な情報を開示しないこと、労働者や食料品
の被曝線量の安全基準数値を任意に引き上げることにも抗議します。

わたしたちは悔改めます。
わたしたちは原子力発電が人間の手に負えるものではないこと、環境破壊
行為であることを指摘してきました。それは科学を絶対化する偶像崇拝であり、
神の倉造のみわざに対する冒涜だからです。原子力行政は、人々の消費欲求
を作り出し、拡大することですすめられ、そのために消費能力の弱い者に
負担を押しつけてきました。また一部企業の収益増加につながる原子力の軍事
利用と結びついた非人間的な政策です。そのことをわたしたちはこれまで
指摘してきました。それにもかかわらず原発を止めることができずにいる自らの
怠慢を神に懺悔します。創造主から「土に仕える」(倉1世記3章23節)使命を
与えられたものとして、わたしたちは改めて原発の廃止に向けて努めます。
それが未来世代への私たちの責任です。

わたしたちは要望します。
・ただちに国内における原発および関連施設の全廃を決定し、可能な限り
速やかに停止し、廃止するための作業を進めてください。また国外に原発を
輸出しないでください。
・継続中の事故の処理、放射性廃棄物の処理、事故の原因究明を、誠実に、
同時に労働者の人権を擁護しつつ行なつてください。
・情報を管理することによつて思想を統制しないでください。むしろ、事故の
状況や放射能汚染に関する正確な情報を開示してください。
・正確な計測に基づいて、高濃度の放射能に汚染された地域住民を政府の
責任において強制避難させてください。また事故によつて損害を受けた
すべての人に誠実な謝罪と損害賠償を行つてください。

「被造物がすべて今日まで、共にうめいていることをわたしたちは知つています。」
ローマの信徒への手紙8章22節
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明日に向けて(46)「放射線ストレスキャンペーン」を批判する

2011年04月16日 02時00分00秒 | 明日に向けて4月1日~30日
守田です。(20110416 02:00投稿 11:20更新)

今宵はもうひとつ、放射線被ばくに関する記事を書きます。
事故当初より、政府の安全キャンペーンに与してきた読売新聞が、
「放射線ストレス」というタイトルの解説記事を載せています。

ここで記事が強調しているのは、放射能の影響よりも、それを気にしすぎた
ストレスの影響の方が大きいという点です。

記事の最後に、「チェルノブイリ原発事故では、身体的な影響以上に
精神的なストレスによるアルコール依存症や放射能の不安による人工妊娠
中絶などが社会問題になった」という解説がついています。

なんというか、さりげない記事であるとも言えるのですが、これは政府や
原発を推進する人々が今後、多様してくるロジックになると思われるので
注意が必要です。

なぜならこれは、IAEAが1991年に行ったチェルノブイリ調査以来の論調を
引き継ぐものだからです。この報告の第一に挙げられたのも、放射能による
成人への影響は見られず、むしろ精神的なストレスの影響の方が大き
かったという内容でした。

このときのIAEA調査団の団長は、日本の広島放射線影響研究所理事長の
重松逸造氏。水俣病とチッソの因果関係を否定したことでも有名な御仁です。
放射線影響研究所も、そもそもは、広島原爆投下後に、日本を占領した
アメリカ軍が作った、原爆傷害調査委員会(ABCC)の流れをくむもので、
原爆の効果を調べるために作られた軍事組織の末裔です。1975年に
日米合同組織としてスタートしました。

ABCCは、時に被ばく者をジープに載せて強制連行し、病院で裸にして
調査を行い、しかも一切、診察を行わなかったことでや、たくさんの
被ばく者の遺体の解剖を(放影研への改組後の)1978年まで行い続けた
ことで、被ばく者の怒りを買い続けたことで有名です。

ちなみに1981年から16年間も理事長の座にいた重松氏は、「ここの研究が
原発建設に大いに役立っている」「アメリカが治療しなかったのは地元医師会
の要請だった」と発言し、被ばく者の組織、被団協等から抗議を
受けたそうです。

ABCCの目的は、アメリカが原爆投下の人道的罪を告発されかねない国際的
情勢下において、原爆による放射能の影響をできるだけ小さく宣伝し、未来
世代への迫害をはじめ、人道的罪と呼べるものはないと証明することにあり
ました。そのことで核武装の正当化をすることに大きな焦点が置かれ、放射
能の影響が大変、低く見積もられたのです。

ここで使われたロジックがチェルノブイリのその後にも適用されていきました。
実はその点では、旧ソ連もアメリカ、イギリス、フランスも利害を共にして
いました。そのためにわざわざ広島から、重松氏を連れて来て、チェルノブイリ
被災者調査の団長に据えたのでした。そうして出てきた報告書が、「放射能の
害は成人には見られなかった。むしろ放射線ストレスの方が深刻だった」
というものでした。

記事はこのロジックを完全に踏襲したものですが、さらにここに具体的な
線量の問題をも書き込んでいます。

「これまでの周囲の累積放射線量は、発がんなど健康への
影響が出始めるとされる100ミリ・シーベルトより低く、国の原子力安全
委員会は「現段階の一般住民の被曝(ひばく)量で将来的に健康影響が出ること
はない」としている。
 だが、放射線災害では、身体的な影響がなくても「放射線ストレス」に
よる心の影響が深刻な場合がある」

「根拠のある科学的情報を繰り返し伝え、わずかでも放射線を浴びた人
への差別もなくしていく。「問題ない」「大丈夫」と不安をただ否定することは
役に立たない。不安な人の話に耳を傾け、気持ちを受け止める」

要するに100ミリシーベルトまでは、健康に害はない。今はそれよりずっと
低いので将来的にも影響は出ることは無い。懸念されるのは過剰な心配だと
言うことです。
そのうえで「根拠のある科学的情報を繰り返し伝え」ることを強調している。

しかし実は自らは「根拠のある科学的情報」などにまったく立っていないのです。
少なくとも原子力安全委員会など、それを熟知しているはずです。これは
明らかに意図的に事実を捻じ曲げた言説です。


その証左の一つとして、記事の後に、きしくもこの記事と同じ日に原子力
学会が発表した「被曝による健康への影響と放射線防護基準の考え方」
という文章の一部を取り上げました。

この文章そのものは、現在は非常時なので、1ミリシーベルトという許容値を
20ミリから100ミリにあげることを検討することを提言しているものであり、
その内容には僕は反対です。

しかしここには明確に

「(国際放射線防護委員会の)2007 年勧告では、広島・長崎の原爆やチェルノ
ブイリの原子力発電所事故の追跡調査の結果などを含む、最新の科学的
知見に基づいて、線量限度を定めています。その結果、100mSv
(ミリシーベルト)以下の被曝では確定的影響(*1)は発生しないとしています。
一方、100mSv 未満の被曝であっても、がんまたは遺伝性影響の発生確率が、
等価線量の増加に比例して増加するであろうと仮定するのが科学的に
もっともらしいとしています。これを確率的影響(*2)と呼んでいます。」

と述べています。確定的影響、つまりこの量を浴びると、多くの人がある症状を
発生させるのが100ミリシーベルトからであり、これに対してそれ以下の場合は
確率的な影響、あるパーセンテージにおいて、ガンの発生率が生じること、
つまり確率的影響が出ると書かれているのです。

他の研究では、確定的影響は50ミリシーベルトから始まるとされており、僕は
とりあえずそれに従っているので、この原子力学会の定義は、原子力推進側に
ありがちな、緩い定義だと考えているのですが、しかしこの学会は、
確率的影響にはしきい値がなく、ごく小さな線量からも確率が生じることに
ついては、きちんと指摘しています。

その点で、読売新聞の記事、またそこに挿入された原子力安全委員会の
発言は、原子力学会や、さらに国際放射線防護委員会でも前提にしている
科学的見解を否定したものであり、かなり意図的に書かれたもの
であると考えられます。

こうした非科学的で、放射能の影響を政治的に過小評価したと思われる
断言が「根拠のある科学的情報」などとして流布されていることに、強い
危機感を覚えます。なぜならこれでは、人々が無防備なままに、放射能汚染に
さらされてしまう可能性が強まるばかりだからです。

チェルノブイリ事故の10分の1にも相当するもの凄い放射能が出ているのに
それを教えなかった政府、スピーディーが人々に逃げる経路を指示して
いたのに、それを握りつぶした政府、そしてその政府の広報と化して、
安全を宣言し続けたマスコミ、それがまた「放射能は安全キャンペーン」
を始めています。「放射能より放射線ストレスが怖いキャンペーン」と
言ってもいいかもしれません。

私たちが私たちの安全を守ろうとするとき、命を、子どもたちを守ろうと
するとき、好むと好まざるとに関わらず、このキャンペーンと向かいあって
いかねばならないと思います。

放射線を浴びる許容量の、安易な緩和や、非科学的な言説をを許さずに、
私たちと子どもたち、未来世代を守っていきましょう!

******************************

[放射線ストレス]被曝量・差別への不安
2011年4月14日 読売新聞

 東京電力福島第一原発事故で避難した人たちの間で、放射線災害に特有の
不安が高まっている。心のケアの専門家は「被災者の精神状態の安定を支援
する対策が急務」と指摘している。(高梨ゆき子)
避難生活で増幅、対策急務
 福島市のあづま総合運動公園の避難所にいる南相馬市鹿島区の主婦、
伊佐井真希さん(38)は「放射線は目に見えないから余計に不安」と話す。
3月19日、10歳と2歳の子どもを連れ避難した。自宅は屋内退避とされた
区域(福島第一原発から20~30キロ・メートル圏)より1キロほど外側だが、
子どもは放射線の影響を受けやすいと聞いたためだ。夫は仕事で自宅に
残る。「南相馬の出身だからと差別され、子どもたちが将来、結婚できな
かったらどうしようとか、そこまで考えて落ち込んでしまう」と表情を曇らせる。

 相馬市の避難所で暮らす南相馬市小高区の斎藤悦子さん(62)は、
同居の長女と2人の孫は東京に避難した。「地震で家はめちゃくちゃだけど
片づければいい。でも相手が放射能ではどうにもならない」と涙をこぼす。

 浪江町の避難区域から福島市の避難所に来た大工の松本進さん(52)は、
原発で水素爆発のあった3月12日、おびえる長女(16)にせかされ、
作業着のまま逃げ出した。妻は高齢の母を気遣って町内に残り、長男(20)、
長女と3人で避難場所を探し転々とした。

 松本さんは「こんな思いで暮らすのはもう限界。仕事も学校もどうなるのか、
この不安がいつまで続くのか、はっきりしてほしい」と、やりきれない思いを
はき出した。

 福島第一原発事故は、事故の深刻度を表す国際的な尺度で、旧ソ連の
チェルノブイリ原発事故と同じ史上最悪の「レベル7」に暫定評価が引き上げ
られたものの、これまでの周囲の累積放射線量は、発がんなど健康への
影響が出始めるとされる100ミリ・シーベルトより低く、国の原子力安全
委員会は「現段階の一般住民の被曝(ひばく)量で将来的に健康影響が出ること
はない」としている。

 だが、放射線災害では、身体的な影響がなくても「放射線ストレス」に
よる心の影響が深刻な場合がある。
 災害心理学に詳しい武蔵野大教授の小西聖子(たかこ)さんは、「放射線は目に
見えない、個人の努力では防げない、深刻な影響があるというイメージが
強いなど、人が不安に感じて当然の要素が多い」と話す。

 不安を完全に消すことはできないが、災害直後の心のケアで重要なのは
「安全・安心の確保」と「生活の安定」だ。日常生活が不安定だと、人は
さらに不安を感じやすい。なるべく早く当面の住居や仕事を提供し、生活の
見通しを具体的に示すことが大切だという。

 根拠のある科学的情報を繰り返し伝え、わずかでも放射線を浴びた人
への差別もなくしていく。「問題ない」「大丈夫」と不安をただ否定することは
役に立たない。不安な人の話に耳を傾け、気持ちを受け止める。

 小西さんによると、心理学の研究では、自然災害より人災の方が人々の
心へのダメージが大きい。しかも放射線災害では人は特に不安に陥りやすい。
 福島の人たちの不安を少しでも早く取り除く対策が求められている。

放射線ストレス
 放射線災害では、健康に影響が出ない程度の被曝(ひばく)でも、人は不安感を
抱きやすい。チェルノブイリ原発事故では、身体的な影響以上に精神的な
ストレスによるアルコール依存症や放射能の不安による人工妊娠中絶
などが社会問題になった。

http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=39517


被曝による健康への影響と放射線防護基準の考え方
社団法人 日本原子力学会 平成23年4月14日より抜粋

2007 年勧告では、広島・長崎の原爆やチェルノブイリの原子力発電所事故の
追跡調査の結果などを含む、最新の科学的知見に基づいて、線量限度を定めて
います。その結果、100mSv(ミリシーベルト)以下の被曝では確定的影響(*1)
は発生しないとしています。一方、100mSv 未満の被曝であっても、がんまたは
遺伝性影響の発生確率が、等価線量の増加に比例して増加するであろうと仮定
するのが科学的にもっともらしいとしています。これを確率的影響(*2)と
呼んでいます。

*1 確定的影響:ある程度の高い線量によって起こり、その影響が発生する
最小線量となるしきい値のある影響。
*2 確率的影響:しきい線量がないと仮定し、被曝線量が低くてもその線量に
応じたある確率で癌や遺伝的影響等が発生するかも知れない影響。低線量被ばくに
よる人体への影響に下限があるかどうかについては現在では諸説あり、検証が
進められている。
http://www.aesj.or.jp/information/fnpp201103/com_housyasenbougyo20110414R.pdf

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