明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(57)冷却はできているのか。再臨界の可能性はあるのか。 それとも・・・。

2011年04月19日 14時30分00秒 | 明日に向けて4月1日~30日
守田です。(20110419 14:30)

昨夜、「事故収束に向けた工程表」についての意味するものの推論と、
疑問点を書きましたが、それに引き続き、どう考えてよいのか、悩んでいる
点について、述べてみたいと思います。

僕が一番、考えあぐねているのは、福島原発の今が、よく把握できないことです。
いろいろなデータを見ても疑問が深まるばかりです。

何より重要だと思われるのは、水素爆発の可能性はどうなったのかということ。
4月6日時点の東電や政府の発表で、1号機から3号機まで、水素爆発が
懸念されるため、順次、窒素を注入していくことが明らかにされました。これは
工程表の中にも当面の作業として書きこまれていることです。

しかし6日の夜遅くに始まった1号機の窒素注入のその後が分からない。すでに
数日前に、ある程度の気圧以上入らなくなり、窒素と水蒸気が漏れ出している
ことが報じられていましたが、その後、どうなったか分かりません。;

少なくとも周辺の放射線モニター値を見る限り、高い濃度の放射能漏れが
起こったというわけではないらしい。しかしいずれにせよ10日以上、経過して
いるのに、1号機の作業完了が伝えられない。

そうなると、2号機、3号機はどうなるのでしょうか。この二つの原子炉格納
容器内は、1号機よりも放射能濃度が高いと予想されるため、ドライベントの
時のような大量の放射能の放出が予測されています。

4月7日の読売新聞でも、次のように報じられていました。
「『気密性が完全ではなく、放射性物質が漏れる可能性はあるが、より大きな
事故を防ぐために必要な措置』。東電の松本純一原子力・立地本部長代理は
理解を求めた。東電は、1号機に続き、2、3号機でも窒素注入を行う
予定だが、両号機の格納容器の圧力はほぼ大気圧にまで下がっており、
注入で放射性物質が漏れ出す危険性は1号機よりも高い。」
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110407-OYT1T00089.htm

このため僕は事実上のドライベントへの注意をこの場で喚起しましたが、
しかしこの「より大きな事故を防ぐために必要な措置」である2号機、3号機への
注入がいっこうに始まらない。とすれは水素爆発の危険性は増しているのでは
ないか。にもかかわらず、この点の情報がまったく出て来ていません。


二つ目の問題として、1号機の原子炉が2号機、3号機に比べて高い温度を
保っていることです。おおむね200度以下ぐらいと、100度超ぐらいのひらきが
ある。これはなぜなのか。1号機で何が起こっているのか。

これに対しては二つの説が出されています。一つは後藤政志さんによる、
冷却失敗説です。原子炉内に水が注入されていますが、この水は、
いったん炉内に入ってから、再循環経路をめぐったのち、再び原子炉に
入り、ジェットポンプという場所を経て、炉心の下に入っていく。そして下から
上へと炉心を冷やしてくことになる。

しかし再循環系統のどこかに破断などがあり、思ったように水が炉心に
届いてないのではないか。そのため満足に冷やすことができてないのでは
ないかという推論です。

一方では再臨界説が語られています。小出裕章さんのものです。被覆管を
失った燃料が、一部溶けながら、下部に落下して集まっている。そこで自然
発生的に臨界が起こり、そのエネルギーによって燃料の形状が変わって、
臨界が終息し、暫くしてまた燃料がつもって臨界になり・・・という状態が
繰り返されているのではないか。核暴走にいたるのではなく、ブスブスと
燃えるような状態にあるのではないかということです。

これらの推論は、原子炉温度が他の2基に比べて高いことを根拠としています。
また8日にいきなり1号機の放射線量が上がったことも、論拠の一つとされました。
これに対して、東電側は、計器が故障したという説明を行った。

しかし昨日になってロボットが、建屋内に入ったところ、1号機だけ、放射線値が
高い地点があることが分かりました。朝日新聞でこう報じられています。
「東京電力によると、最初の扉を開けて入った1畳ほどの小部屋の線量は、
1号機で最大で毎時270ミリシーベルトだった。2号機は12ミリシーベルト、
3号機は10ミリシーベルト。作業員は扉の陰に隠れながら計測したという。」
http://www.asahi.com/national/update/0418/TKY201104180079.html

これらから1号機の中で、何らかのなかなか抑え込むことができない反応が
起こっている可能性が考えられます。あるいはこのことが、窒素注入が
終了しないことと連動しているのかもしれない。


一方で、昨日も述べたように原子力安全委員会は、工程表の現実性を
否定していますが、その際に、一番、問題なのは2号機だとの見解をもらしている。
これはどういうことなのでしょうか。

昨日の報道を見ると、2号機プールから高濃度の放射能が漏れ出しており、
プールにある燃料棒が、がれきなどによって破損している可能性があることが
伝えられています。同時に、2号機は格納容器そのものの損傷が早くから
伝えられており、これを修理することの困難さが指摘されたのかもしれませんが、
いずれにせよ、2号機が何らかのトラブルを抱えていることが分かります。


3号機はどうかというと、4月15日の朝日新聞で「原因は不明だが12日に
約170度だったのが、13日に約200度、14日に約250度に上昇した」
と書かれていました。この場合も計器の故障の可能性が指摘されていましたが、
この温度の正体は何だったのか、追加情報が出てきません。


さらに4号機はというと、燃料プールの温度が90度になったことが伝えられ
ました。ここには1号機のプールの4倍、2号機、3号機のプールの2倍以上の
1331体の燃料集合体がありますが、その冷却不足が起こっていると思われ、
温度上昇が起こっているわけです。ちなみに4号機も3月15日に水素爆発と
火災を起こしましたが、その時のプールの温度は85度でした。
この4号機がその後、どうなっているのかもよく見えない。


僕が把握できていない面もあるかと思いますが、このように福島原発の
状態は、どうも靄の中に見え隠れするような状態で、さまざまな危機の
兆候が語られながら、それに対して施された処置の結果や、その後の
推移がいずれも明らかにされていないのです。
なぜなのだろうか。何が起こっているのだろうか。良く見えてきません。


ちなみに再臨界の可能性について、後藤政志さんは、4月14日の説明で、
事故当初は、「再臨界などと言うと怒られた」が、それが起こりうることは
原子力をやっている人間なら常識だと強い調子で語られました。だからこそ
初期の段階で、中性子を吸収し、臨界を抑制するホウ酸が投入されている
のであり、当然にも再臨界はありうるものとして、対処がなされているのだと
指摘されています。その上で現状について、後藤さんからは再臨界説は
出ていません。

後藤さん自身は、すでに3月20日の段階で、4号機の燃料プールで、臨界があったの
ではないかという推論も出されています。
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/77afc15a89857a60c2bdd6d9acb904dd
地震で燃料集合体が斜めに傾き、それぞれが接近して、臨界の状態が
できたのではないかということです。

現状でも、核分裂で出てくるクロル38やテルルなどが観測されており、1号機か、
そうでなければ4号機プールで断続的な臨界がある可能性も考えられますが、
これらも推論の域を出ません。


・・・これらから福島原発は、1号機から4号機まで、それぞれに深刻な
トラブルを抱えていながら、その状況が十分にモニターされていないか、
また実情が公開されていない面があるのではないかと思えます。

破局的事態に近づいているとは思いたくないし、またそう即断するだけの
根拠があるわけではないですが、しかし原子炉の状態が小康状態にある・・・
と結論づけられるデータも見当たりません。

またそもそもこの霞のような状態をもたらしているものは何なのか。計器が
次々と故障し、誰にも分からなくなっているのか。それとも情報が隠されて
いるのか。いるとすればなぜなのか。それも見えてきません。

そのために私たちは、最悪の状態への身構えを解くことはできない。しかし
この状態はすでに1カ月以上続いており、私たちの精神力を大きく削りとっても
います。そのため社会の多くの人々が、危機は去ったモードになってしまって
いる。こうした状態の中で、危機感を維持するのは難しいことです。

ひょっとして、明日にも原子炉の破断という破局が訪れるのかもしれない。
しかし生活者である私たちは、その前に今日の夕飯の心配もしなくては
いけないし、日常のこまごましたことに関わらないわけにはいかない。

これが、ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れという、人類初の事故の
残酷性そのものなのではないかと僕には思えます。

・・・ともあれ、僕自身は、危機感を保持しながら、霞の向こうにある原発の
ウォッチを続けます。

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明日に向けて(56)城南信用金庫が脱原発宣言!

2011年04月19日 12時00分00秒 | 明日に向けて4月1日~30日
守田です。(20110419 12:00)

ワクワクするニュースが飛び込んできました。城南信用金庫が、
「原発に頼らない安心できる社会へ」という高らかな宣言を
発しています。拍手です!

しかも宣言の中には、次のようにもうたわれている。
「私達が地域金融機関として、今できることはささやかではありますが、
省電力、省エネルギー、そして代替エネルギーの開発利用に少しでも
貢献することではないかと考えます」。

これは小水力を始め、代替エネルギーへの転換を進めようとする
ムーブメントにとって大きな追い風なのではないでしょうか。
ぜひ、城南信用金庫を応援したいですね!

以下、城南信用金庫の宣言と、それを伝えるニュースをご覧ください。

*****************************

原発に頼らない安心できる社会へ

城 南 信 用 金 庫

 東京電力福島第一原子力発電所の事故は、我が国の未来に重大な
影響を与えています。今回の事故を通じて、原子力エネルギーは、
私達に明るい未来を与えてくれるものではなく、一歩間違えば取り
返しのつかない危険性を持っていること、さらに、残念ながらそれ
を管理する政府機関も企業体も、万全の体制をとっていなかったこ
とが明確になりつつあります。

 こうした中で、私達は、原子力エネルギーに依存することはあま
りにも危険性が大き過ぎるということを学びました。私達が地域金
融機関として、今できることはささやかではありますが、省電力、
省エネルギー、そして代替エネルギーの開発利用に少しでも貢献す
ることではないかと考えます。

 そのため、今後、私達は以下のような省電力と省エネルギーのた
めの様々な取組みに努めるとともに、金融を通じて地域の皆様の省
電力、省エネルギーのための設備投資を積極的に支援、推進してま
いります。
 

① 徹底した節電運動の実施
② 冷暖房の設定温度の見直し
③ 省電力型設備の導入
④ 断熱工事の施工
⑤ 緑化工事の推進
⑥ ソーラーパネルの設置
⑦ LED照明への切り替え
⑧ 燃料電池の導入
⑨ 家庭用蓄電池の購入
⑩ 自家発電装置の購入
⑪ その他
以 上
http://www.jsbank.co.jp/

******************

城南信金、脱原発へ節電計画「3年以内に3割減」

2011年4月19日8時27分 朝日新聞
信用金庫2位の城南信用金庫(東京都)は、福島第一原子力発電所の事故を
受けて脱原発を訴え、節電に積極的に取り組む。自社の電力消費量を今後
3年以内に約3割減らす。国内発電電力量に占める原発の比率を、削減の
目安にした。

 融資先にも「脱原発」を問題提起し、省エネ設備の導入を促す。必要な
融資には積極的に応じるという。

 吉原毅理事長は、朝日新聞のインタビューに対し「原子力エネルギーに
依存するのは、危険性が大きいことが明らかになった。安全な地域作りを
掲げる地域金融機関として、できることをやる」と話した。

 城南信金では全85店舗で省エネ型のLED照明や空調システムを順次導入、
一部店舗などに太陽光発電システムも設ける。5月以降、月間の電力
消費量の削減分を毎月公表する。(寺西和男)
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104180537.html


城南信金が「脱原発」宣言 「省エネや節電に貢献」
2011/4/14 20:36 JCASTニュース

とかく、お固い印象の金融機関が「脱原発」を宣言した。東京都品川区に本店を
構える信金業界大手の城南信用金庫がホームページに、「原発に頼らな
い安心できる社会へ」と題したメッセージを掲載し、話題となっている。

メッセージは2011年4月8日に掲載され、異例ともいえる「宣言」にネット上
では「勇気ある行動だ」「応援する。預金する」「本気かよ。業界から爪弾きに
されるんじゃない?」などの声があがっている。
LED照明やソーラーパネルを導入
金融機関では異例!?城南信金の「反原発」宣言
「東京電力福島第一原子力発電所の事故は、我が国の未来に重大な影響
を与えています。」ではじまるメッセージは、言葉は抑えているが「反原発」
への思いが明確に伝わってくる内容だ。

「信用金庫という地域を預かる金融機関にとって、その地域を失いかねない
事態の福島県を思うと、いま企業の姿勢として反原発の立場を明確にし、
そのうえで省エネや節電に協力していくことが必要だと考えた。自らが言う
べきことを言い、やるべきことをやれば、地域金融機関として地元企業の
協力を引き出していくこともできると考えている」と、城南信用金庫の
吉原毅理事長はそう説明する。

同信金はメッセージで、今後は省電力や省エネルギー、代替エネルギーの
開発利用に「少しでも貢献する」とし、その具体的な取り組みとして、徹底した
節電運動の実施や冷暖房の設定温度の見直し、省電力型設備の導入や
断熱工事の施工、緑化工事の推進、ソーラーパネルの設置にLED照明への
切り替え、燃料電池や自家発電装置の導入など――をあげている。

すでに本店のロビーやウインドウディスプレイの照明や、エレベーターの
節電などで通常の電力量の約3割をカットできた。LED照明の切り替えや、
大型店でのソーラーパネルの導入も、「できるところから順次実施していく」
(吉原理事長)という。

城南信金によると、営業区域内の経営者にも被災地の出身者は少なくなく、
「反原発」宣言に賛同した福島県出身の工場経営者が、同信金が呼びかけて
いる義援金に100万円を寄付したり、震災直後から取り扱っている「震災
ボランティア預金」が発売後1か月の残高で2億円超を集めたりと、共感
する人は少なくないようだ。

「草の根金融」でユニークな取り組み

城南信用金庫といえば、「小原鐵学」といわれ、担保主義の銀行経営を
嫌って「草の根金融」を説いた故・小原鐵五郎氏の経営を旨としてきた。
本店に入ると事務室までの廊下は節電で薄暗く、ふだんから経費節減は
徹底している。

その一方で、宝くじ付定期預金の火付け役として「懸賞金付き定期預金
スーパードリーム」をいち早く発売するなど、ユニークな取り組みで地域に
根ざしてきた。

震災支援も、被災地の金融機関への「支援金」や「見舞金」の振り込み
手数料の無料化や、被災者への物資の支援にも積極的に取り組んでいる。

吉原理事長は、「ストップ原発も、信用金庫と同じ草の根運動で広がって
いくものと考えている。メッセージに共感してもらえて、地元企業に省エネや
節電運動が広がっていけばいい。もちろん、そのための融資には積極的に
応じるし、こちらからも提案していきたい」と話している。
http://www.j-cast.com/2011/04/14093150.html
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明日に向けて(55)「事故収束に向けた工程表」の意味するもの

2011年04月19日 02時40分00秒 | 明日に向けて4月1日~30日
守田です。(20110419 02:40)

福島原発の現状と対策の今について、このところ、よく分からないことが続き、
現状をどう見るか、ずいぶん、思い悩んでいます。今宵は、この悩んでいる点を
そのままに論じてみたいと思います。

すでにご存じのように、4月17日に、東京電力により、事故収束にむけた
「工程表」というものが発表されました。
読売新聞がこれを報じていますが、記事が短いので、まずは再確認の意味で
これを読んでいただきたいと思います。

*********************
原発安定へ6~9か月2段階で冷却停止…工程表
2011年4月18日01時20分 読売新聞
 東京電力の勝俣恒久会長は17日、福島第一原子力発電所の事故収束に
向けた工程表を初めて発表した。
 原子炉の本格的な冷却システムを復旧させ、放射性物質の放出を大幅に
低減して安定した状態を取り戻すまでの期間を6~9か月と設定した。発表を
受けて海江田経済産業相は同日、周辺住民の避難生活の長期化は避けられ
ないとの見通しを示した。

 工程表では、放射線量を着実に減らす「ステップ1」と、放射線量をさらに
大幅に抑える「ステップ2」の2期に分けた。「1」は今から約3か月後、「2」は
6~9か月後の完了を目指す。当面は、発生した水素が激しく反応する
「水素爆発」を避けることと、放射性物質を高濃度に含んだ汚染水を敷地外に
出さないことに重点的に取り組む。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110417-OYT1T00546.htm?from=nwla

**************************

一読して思ったのは二つの点。一つは東電の非常に甘いよみでも、「放射線
量を着実に減らす」のに3カ月。「大幅に抑える」のに6カ月から9カ月もかかる
とされていることへの何とも言えない苦々しい思いです。実際、長くかかるのは
事実だと思いますが、ともあれ、まだまだ「高濃度」の放射能漏れは続いていく
わけです。本当に、ゆっくりと、長く、大量に放射能が漏れ続けていきます。
私たちはまだまだ緊張感を持って、これと相対していくしかありません。

しかし二つ目に思うのは、東電のこの工程表の達成可能性に、いかなる裏付け
があるのだろうかという点、ただの希望的観測を述べたにすぎないのではと
思われる点です。現状でもタービン建屋の水や外のピットの汚染水を排除
できないのに、なぜ3カ月で「着実に減らす」と言えるのか。何の根拠も示されて
いない。本当に東電はこの内容に確信を持っているのだろうか。場つなぎの
発言なのではないかと思えてきます。

ところが次の記事を読んで、どうしてこういうことになるのか、さらに深く考え
込んでしましました。東電の工程表を、安全委員会が早速、否定しているのです。
これも短いので、記事をお読みください。

**************************

東電工程表、実施に相当の困難と班目委員長
2011年4月18日20時19分 読売新聞 
 内閣府原子力安全委員会の班目春樹委員長は18日、東京電力が発表した
事故収束への工程表について「相当のバリアがある」と述べ、実施には困難が
伴うとの認識を示した。

 また「工程表の精査はできていないが、スケジュールありきで安全がおろそか
になることは避けてほしい」と語った。

 班目委員長は「一番難しいのは2号機対策」とし、理由としてタービン建屋地下
に高濃度の放射性物質を含む汚染水があることを挙げた。フランスから導入
予定の浄化処理技術についても「本当に(高濃度の汚染水に)使えるのか、
安全委員会側として承知していない」と効果に未知数の部分が多いことを挙げた。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110418-OYT1T00857.htm

**************************

率直に思うのは、東電は安全委員会とのすり合わせを行っていないのだろうか
という疑問です。とくにフランスからの浄化処理技術について、「安全委員会
側としては承知していない」と語られているのですが、ということは、この決定に
安全委員会が参画してないことが見えてきます。しかしそもそも安全委員会は
内閣府の組織、つまりは政府組織です。それが承知してない技術を、一民間
企業である東電が採択しているのでしょうか。

ここまで考えてきて、はたと気がついたのは、そもそもなぜこの工程表が
東電から出されたのかという点です。もはやこれは政府が出すべきものなの
ではないか。これほどの危機的な状況からの脱出が、いまだに一民間企業に
託されているのはどう考えても不合理です。

菅首相は、東電の会見に対して、これで少し前進だと述べたそうですが、どう
考えてもおかしい。首相がそんな客観的なことを言っていてどうするのでしょうか。
首相自身が、こうした工程表を国民と住民に提示すべきなのではないか。
ここには何が介在しているのでしょうか。

責任の所在が全く見えてこない・・・。

この背後には一体何があるのでしょう。何か深い思惑があるのでしょうか。
それとも単なる責任のなすりつけ合いなのでしょうか。良く分かりません。
どう考えても僕には理由が合理的に解けない。

そもそもこの工程表に対して、政府は責任を負っているのでしょうか。少なくとも
安全委員会が、自分たちは責任を持てないと言っているのは明らかです。
となると、東電に計画を言わせて、とりあえず、人々の不安をおさえて、その
実行の結果については政府は責任を取らないつもりなのだろうか・・・という
憶測も成り立ちます。しかし幾らなんでもそれほど低レベルな政治が行われて
いるとは信じたくない気持もある。そんなことは止めて欲しい。


こう考える時に思い起こされるのは、「ベント」の問題です。事故当初に炉内が
極めて危機的な状況になり、圧力容器から蒸気が格納容器に吹き出して、
格納容器の気圧が設計気圧の2倍にもなってしまった。
このとき「ベント」という、非常用の弁が開けられ、非常に高濃度の放射能が
排出されたわけですが、このベントのときに、実は政府と東電の間で、
「やれ」「やりたくない」というやりとりがあったのです。

この点は後藤政志さんが4月14日に詳しく説明して下さっていますが、もともと
ベントは放射能を閉じ込める格納容器にとって「自殺」と言えるようなものであり、
設計思想には入っていなかった。ところが原発事故の多発の中で、非常用
としてつけられた。

このとき、ヨーロッパでは、蒸気の排出には高濃度の放射能が含まれることが
確実なため、特殊なフィルターの設置が義務付けられた。ところが日本の場合、
それこそ極めて「あいまい」な対処がなされた。というのは、ベントについては
理論上、使うことがあり得るものではあるけれど、「現実」には使う可能性が
極めて低い。そのためこれについての電力会社への義務規定が設けられ
なかったというのです。

「論理上ありえることだけれど、ほとんどありえないから、考えなくて良い」
という発想に日本の原子力規制は立ってきたというわけです。

そのため今回のベントでも、するかしないかは、東電の自主性に任されていて
義務的な規定がなかった。それに対して、東電は責任を取るのを嫌がった。
一民間企業の判断で、強烈な毒ガスを排出することを嫌がったのです。

これに対して後藤さんは、民間ではそのような判断はできなかったのではと
指摘しています。東電も責任を免れないにせよ、政府が責任主体にならざるを
得ない。ところが政府は自ら責任を取らずに、東電に「自主的」放出を迫った。
命令ではないため、東電はこれを渋り、ベントが遅れてしまった・・・と
言われています。(詳しくは以下の内容を参照)
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/6f8c4f9a278060e6a88f25806214509f


実は未だにこうした矛盾が解決されていないのではないか。そのためもはや
国家の存亡がかかった工程表を、一民間企業である東電が出さねばならな
かったのではないか。

繰り返しますが、それほどに低レベルな政治が動いているとは思いたくないです。
ただ、考えても考えても、他の要因が見つかりません。見つからないけれども、
そうだという確信も持てないというか、持ちたくない気がします。


ともあれ言えることは次の点です。第一に、この工程表は、翌日に、内閣府
安全委員会からたちまち否定的な意見が出るようなあやふやなもの、しっかりと
した基礎に立っていないものであり、従って、実現可能性は極めて低いと
言わざるをえないということ。

第二に、これほどに重要な計画を、政府は民間企業に託しており、少なくとも
工程表の推進主体としては立ち現われてはいないこと。政府の責任性が
まったく見えず、今後の展望に期待が持てないこと。

第三に、いずれにせよ、事態に対して、オールジャパンで、打って一丸となって
取り組んでいる姿勢が見えず、内外の英知の総結集・・・には程遠いことが
感じられること、そこに事態の打開の可能性を封じてしまう人的危機が
介在しているように思えてならないことです。

工程表は、そのことを意味しているように僕には思えます。
東電、安全委員会、政府を構成する今の人々ではなく、後藤さんのような方たち
こそが対策チームに参画しなければ、事態は収束に向かえないのでは
ないでしょうか。
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