明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(70)米紙の東電批判の裏を読む

2011年04月24日 09時00分00秒 | 明日に向けて4月1日~30日
守田です。(20110424 09:00)

先ほどの記事に関連して、非常に気になる記事が朝日新聞から出されている
ので紹介します。
「『排気の遅れ、水素爆発招いた』米紙が原発事故分析」という記事です。

それによると、米紙ウォルストリート・ジャーナルが、事故の初期に、東電が
放射能の放出を伴う「排気」=ベントを躊躇したことが、事故を深刻化したと
批判しているといいます。朝日新聞はただそれを「客観的」に伝えています。

しかしこのウォルストリート・ジャーナルの内容はうのみにできない。
東電を単純に悪者にすることは危険だと思うのです。なぜかと言えば、ここには
同じことがあったときに、速やかに排気をしろという強い提言が含まれている。
過去のことよりも、今後のことが念頭にあって、この記事が出て来ているように
思えるのです。

事故初期を振り返ってみると、格納容器は確かに2倍の圧力で膨れ上がろうと
していた。そのとき政府もまた東電にベントを命じました。しかし最近になって
はっきりしてきたことは、このときのベントでもの凄い放射能が排出された。
数回のベントで、チェルノブイリの10分の1に近づくようなものが出されたのです。

だからこそ、東電はためらった。猛毒を撒くことに躊躇したのです。とても
民間の一企業にできる判断ではないと思ったことでしょう。それに対して政府は
「すぐ行え、ただし東電の判断で行え」としか言ってくれなかった。それで東電は
動揺を続け、その挙句にベントを行ったのです。

政府はなぜ自分の判断でしなかったのか。明らかに責任回避のためだったと
思います。それは周辺住民に大変な危機が迫っていることを告知することの
責任回避でもあったかもしれない。ともあれそのようにして、ベントは行われ
ました。猛毒がまかれることが告げられぬままに。


実は現在も、それと同じような状態にあるのではないか。またしても工程表は
東電の名前で出されている。そしてそこには、1号機に続く2号機、3号機の
窒素封入も書き込まれています。繰り返し述べてきたように、この場合も、
相当に大量の放射能が窒素に押し出されて出てくる。つまりドライベントと
同じようなことが行われることになるのです。

東電はまたしても、深い動揺の中にあるのではないでしょうか。いやあっても
おかしくないと思えます。再び三度、東電の名で、猛毒を撒かねばならない
からです。あるいはそのために、2号機、3号機への窒素封入が始まって
いないのかもしれない。
この点を再びアメリカ政府はいらいらし、ウォルストリート・ジャーナルにこの点を
書かせているのではないか。そうしたことが予想されます。

こう考えると、事故数日後に、東電が事故対処からの全面撤退を政府に
申し出たことの理由もみえてくるような気がします。あのとき僕は東電には
もう出来ることがないので、撤退したいといいだしたのだと思ったし、そんな
人たちはとっとと、いなくなってもらえばいいのにと思いました。

その点で、菅首相がどなりつけたことにも否定的でした。しかし、今、思うのは、
東電はもう一企業として責任を負わされる範疇を超えている、政府に判断して
欲しい。そこから逃げ出したいと思ったのではないか。それに対して管首相は
責任主体に逃げられるとかなわないので、どなったのではないか。そんな
風に思えます。

そしてそうした脈絡からこの記事が出てきた背景を考える時、工程表に
書かれた2号機、3号機への窒素封入作業が、非常に、重く、危機的なもの
として僕には移ります。

どうか、みなさん。ここに注目してください。たとえ破局的に爆発にいたらざる
とも、事故初期と同じように、大気中に非常に高い濃度の放射能が飛び出して
くる可能性があると僕は思います。

近くの方たちに、早急に被ばく対策を強化すべきことを伝えてください。
とくに福島の子どもたち、近隣の子どもたちは、校庭から高い放射線が出ている
からだけでなく、原発そのものが危機的であり、さらに放射能漏れが深刻さを
増す可能性が高いからこそ、できるだけ早く疎開させてあげることが必要だと
思います。


・・・今日は午後10時より後藤政志さんが同志社大学で講演されるので、
これから飛んでいきます。ぜひ、ここに書いたことも質問してこようと思います。

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「排気の遅れ、水素爆発招いた」 米紙が原発事故分析

2011年4月23日21時20分 朝日新聞
 23日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は、福島第一原子力
発電所の事故について、放射性物質の外部放出を懸念し、東京電力が格納
容器内のガスの排出をためらったことで水素爆発を招いたとする分析記事を
掲載した。

 同紙は、同原発1号機は地震・津波の発生から半日たった3月12日午前
2時半に格納容器内の圧力が2倍に達し、東電は排気を決めたとしている。

 しかし、準備などに手間取り、実際に排気できたのは同日午後。その
約1時間後に水素爆発が起きて原子炉建屋が破壊された。これに伴う炉心の
損傷はなかったが、「壁」の一つが失われたことでその後の大量の放射性
物質の放出につながったほか、炉の冷却のための作業を妨げる原因にも
なった。

 同紙によると、日米の専門家は排気の遅れで水素爆発が起きやすい条件が
できたと考えている。放射性物質と水素を含む格納容器内のガスは、排気
専用のパイプを経由して建屋の外にある排気塔に導かれるが、圧力が2倍に
なるまで待ったため、パイプの継ぎ目などからガスが漏れやすくなり、
建屋内に充満した可能性があるという。

 専門家は「放射性物質の放出を心配するあまり排気に慎重になったことが、
事態を悪化させたようだ」とみている。水素爆発の防止を重視する米国は、
格納容器内の圧力が耐圧の上限に達する前でも早めに排気を行うことに
しており、同様の方針は韓国や台湾でも採用されていると指摘している。

 米国では、1979年のスリーマイル島原発事故で作業員の判断ですばやく
排気が行われ、原子力規制委員会(NRC)が追認したが、日本では排気は
「最後の手段」として、電力会社のトップや政府の判断を待ってから行う体制。
記事はこうした考え方の違いも排気の遅れにつながった可能性を指摘した。
(パナマ市=勝田敏彦)
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104230312.html
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明日に向けて(69)水棺は意図せずに出現・・・。

2011年04月24日 08時30分00秒 | 明日に向けて4月1日~30日
守田です。(20110424 08:30)

福島原発の現状を推し量ることができる幾つかの記事が出ています。
一つは毎日新聞の「福島第1原発 1号機格納容器内に水6メートル」という
記事です。

記事は次のように語っています。
「格納容器を燃料棒の上部まで水で満たして原子炉を冷やす「水棺」作業は、
事故収束に向けた工程表で最初の3カ月目標に掲げた対策の一つ。同社が
意図しない形で事実上の水棺状態が進行しているとみられるが、このまま
燃料棒上部まで水位が上がるかどうかについては不確定要素もある。」

昨日、紹介した記事でも「事実上」という言葉が使われていましたが、この
記事では東電が意図しない形で、水棺化が進行していることが指摘されて
います。つまり水棺化しようとしたのではなく、コントロールできないままに
水が溜まっているのに過ぎないというわけです。

その量も、6メートルであり、原子炉格納容器の下、半分にも満たなくて、
原子炉圧力容器を冷却するような形になっているわけではない。それ以上、
水位が上がるかどうかも不確定だとされていますが、反対にこれ以上、上がる
ことで本当に格納容器が持つのかも不確定です。

一方、僕がずっと知りたかった窒素封入については、
「格納容器には既に容量(約6000立方メートル)の2倍近い窒素約1万
700立方メートルを注入しているが、一定以上に圧力が高まっていない。容器の
損傷も考えられ、このまま水位が上がれば、損傷部からの水漏れが懸念される。」
と書かれています。

単純計算すれば、4700立法メートルのものが漏れ出していることになる。
それは窒素なのか、水素なのか、あるいは放射能を含む水蒸気なのか、
恐らく三者が混ざり合ったものでしょう。

ここで疑問が生じます。繰り返し述べてきたように、窒素注入は「水素爆発の
可能性を限りなくゼロに近づける」ためのものとして行われてきました。
ちなみにこれは、枝野官房長官が、はじめて原子炉格納容器が内側から
水素爆発にみまわれる可能性があることをはじめて認めた発言でした。

そのため、重い内容であるわけですが、その危険性は去ったのかどうか、
この重要な点が明らかにされていない。また水棺化は、工程表に書かれた
方法であるわけですが、すでに窒素注入の段階で、格納容器が損傷している
明白になったわけで、初期に設定した条件が早くも崩れてしまっていることが
わかります。それでも同じ行為を続けるのか。

まとめましょう。
この記事から類推できることは、一つは水素爆発の危険性がどの程度、
低めることができたのか分からないこと、この場合、東電や政府自身も把握
できていないことがうかがわるということ。

二つは1号機もまた格納容器の破損が明らかであり、水棺化に耐えうるもので
あるかどうかまったく分からないこと。そもそも水棺化自身が、世界初の
非常対処であり、健全な格納容器に対してすら、安全がまったく保障されて
いない試みです。それが破損が明らかな格納容器になすことができるのか。

三つは、そもそも水を入れて溜めることが、任意にできてはいないこと。
水位のコントロールもかなり難しく、意図しないのに水棺化が進むという
アンコントロールな状態が現出していることです。

これらから1号機はとても制御できているとは言い難く、危機的な状況が
継続していることが分かります。この点をしっかりと把握しておくことが
大切だと思います。



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福島第1原発 1号機格納容器内に水6メートル
4月24日(日)1時17分配信 毎日新聞

 東京電力は23日、福島第1原発1号機の原子炉格納容器に深さ約6メートル
の水がたまっていることを明らかにした。格納容器を燃料棒の上部まで水で
満たして原子炉を冷やす「水棺」作業は、事故収束に向けた工程表で最初の
3カ月目標に掲げた対策の一つ。同社が意図しない形で事実上の水棺状態が
進行しているとみられるが、このまま燃料棒上部まで水位が上がるかどうか
については不確定要素もある。

 東電によると、1号機は燃料棒の損傷が推定70%と最も激しく、圧力容器に
これまで約7000トンを注水して冷却を続けてきた。ここで発生した蒸気が
格納容器に移って水になっている可能性や、圧力容器と直結する配管などが
地震で損傷し、格納容器に水が漏れ出ている可能性が考えられるという。

 水位は、水素爆発を防ぐための窒素注入による格納容器の圧力変化から
東電が推計した。その結果、格納容器下部にある圧力抑制プールは既に
満水となっており、「ドライウェル」と呼ばれるフラスコ状の球形部
(直径17・7メートル)も深さ約6メートルの水がたまっていることが分かった。

 2、3号機も同様に圧力容器への注水が続けられているが、2号機では
圧力抑制プールが破損し、高濃度の放射性汚染水が外部へ漏れ出ており、
格納容器内の水のたまり具合は分かっていない。

 一方、水棺方式には課題もある。格納容器には既に容量(約6000
立方メートル)の2倍近い窒素約1万700立方メートルを注入しているが、
一定以上に圧力が高まっていない。容器の損傷も考えられ、このまま水位が
上がれば、損傷部からの水漏れが懸念される。また、水の重量の負荷に
伴う耐震性は「最終チェックしている段階」(経済産業省原子力安全・保安院)
の上、長期的には高濃度に汚染された水の処理も必要となる。
【八田浩輔、阿部周一】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110424-00000000-maip-soci
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