セイコーのスポーツマン・カレンダー17石のジャンク品が来ました。時計の世界では「ガラもの」と言いますが、例によって画像では比較的きれいに見えますが、ケースは腐食して風防は傷だらけです。振ると数秒は針が進むので、内部の機械が錆びついていることはないみたいです。ベルトを見てもかなり風化していて、長期に放置されていたことが分かります。一見ステンレスと見えるケースは「STP BACK」という真鍮にメッキをしたもので、ステンレスよりもクロームメッキに近い色合いで、60年代のファイブスポーツなどにも採用しているモデルが多いです。しかし、使用による磨耗などで、メッキ面の腐食や侵食があって、再研磨も出来ないため、厄介な材質です。
スポーツマンは60年代初頭から生産されましたが、この個体は1967年と後期の個体のようです。当時の普及機ですが、比較的精度は良くて、キャリバー6602Bは優秀な機械のようです。
手巻き式ではありますが、カレンダー付きで防水となって、それ以後のモデルの過渡期的な時計ですね。防水と言っても完全なものではなく、ケースの厚みも薄いのですが、サイズは36mmもあるため、文字盤が巨大な印象です。幸い、文字盤と針は比較的きれいな状態ですね。
針と文字盤を外して日車(カレンダー)を分解して行きます。数字はレタリングのような製法で、すでに劣化していますので、不用意に触ると、プラモデルの転写マークに水を付けたように、簡単に剥離してしまいます。ピンセットの日車押エを外すと直下に日車制レバーとバネが見えますが、これが曲者。一度分解すると、再セットは至難な作業となります。私が不器用なのかとも思いますが、他の諏訪製機械よりも組みにくい印象です。
洗浄した地板に組立をして行きます。香箱内のゼンマイを洗浄して注油しています。香箱車の本体がきれいな金めっきですね。歯の磨耗防止のためでしょうかね。
受けと各車のホゾの合いは悪くは無いと思います。アンクルを付ける前に、ザラ回しで動力がスムーズに伝わっているかを確認しますが、この機械はちょっと重いかなぁ? という気もしますね。ゼンマイの劣化か、長期放置のために各車のホゾが荒れているのかも知れません。
機械は組み上がっています。テンプの振りは最大とは行きませんが、まぁ、安定していて、止まりはありません。文字盤と針を付けていますが、カレンダー付きのため、12時に完全に変わるようにタイミングを調整します。しかし、この頃のカレンダーは、かなりばらつきますね。おまけに、カレンダーが変わった瞬間に、短針がコクッと進むのは気に入りません。洗浄したケースですが、大型化をするために、上右のようにリングを嵌めてゲタを履かせていますね。個人的には、この手法は嫌いです。ケース本体は侵食が進んで欠損部分もあります。裏蓋はステンレス製のため健在。プラの風防ですが、外周のカシメ部分の一部がクラック入りです。これは非防水の風防ではないため外径だけではなく、内径も合っていないといけないため、汎用の風防は使えません。よって、今回は、瞬間で補修をしてから研磨で仕上げています。ケースの状態から、新品の風防を使うこともないでしょう。
機械をケースに収めました。機械の周りのリング、余計でしょ。裏蓋のパッキンにはシリコングリスを塗布して組み込みます。
仮のベルトをセットして感じを見ましょう。60年代の、大きいことは良いことだ、と言う世相が良く現れているような印象です。大きい→豪華→豊か、を求めた時代。チープな豊かさに思えます。大きな時計を腕にして、平均的なサラリーマンは頑張っていたのでしょう。精度は安定して優秀です。充分実用になると思います。ただし、非防水ですからね。