人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

ドヴォルザークのオペラ「ルサルカ」を観る~新国立オペラ

2011年11月24日 06時42分41秒 | 日記

24日(木).昨日,初台の新国立劇場でドヴォルザークのオペラ「ルサルカ」を観ました 劇場を入ったロビーにはクリスマス・ツリーが飾られていました.

 

            

 

「ルサルカ」は題名こそ知ってはいたものの,知名度が低いこともあってCDを持っていません.したがって,全く予習なしで,生の公演を聴くことになりました

「ルサルカ」は,アンデルセンの「人魚姫」やフーケの「ウンディーネ」をもとに書かれた作品で,あらすじは次の通りです

ヴォドニク(水の精)の娘ルサルカは人間の王子に恋をし,イェジババ(魔法使い)に頼んで美しい声と引き換えに人間の姿に変えてもらう.ルサルカと王子は結ばれるが,やがて王子は外国の公女に心を移す.怒った水の精は王子を呪いにかける.魔性使いはルサルカに王子の命を奪えば元の姿に戻れると言うが,ルサルカは拒絶.自分の罪に気づいた王子はルサルカに許しを乞う.ルサルカは自分が口づけをすれば命はないと告げるが,王子は安らぎを求めて口づけを懇願,ルサルカは彼に死の接吻をする.

キャストは,ルサルカ=オルガ・グリャコヴァ,イェジババ=ビルギット・レンメルト,王子=ペーター・ベルガー,ヴォドニク(水の精)=ミッシャ・シェロミアンスキー,外国の公女=ブリギッテ・ピンターほか.指揮はチェコ出身で,スロヴァキア国立劇場の首席指揮者を務めるヤロスラフ・キズリング,オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団.演出はポール・カランです.

ルサルカ役のロシア出身オルガ・グリャコヴァは,どこかで見たことがあると思ったら,新国立オペラのプッチーニ「蝶々夫人」でタイトルロールを歌った人でした その時は演技力を備えたすばらしいソプラノだと思いました.

プログラムの解説によると,第1幕の舞台は森に囲まれた湖となっていますが,大きな月が出ている中,ヒロインのルサルカが家の中でくつろいでいるシーンで始まりました.それから,回想シーンのような形で舞台転換があり,森の中の湖になりました.

グリャコヴァは高音はもちろんのこと,低音もよく通る素晴らしいソプラノです.第2幕の前半は”人間”になったため声が出ない役になったのですが,そこは持ち前の演技力でカバーしていました

魔法使い役のドイツ出身レンメルト(メゾ・ソプラノ),外国の公女役のオーストリア出身ピンター(ソプラノ)とも存在感のある力強い歌声を聴かせてくれました 男性陣で光っていたのがスロヴァキア出身の王子役ベルガーでした.よく通るテノールを会場一杯響かせていました

ドヴォルザークの音楽は,時にワーグナーを思わせる鳴り方をします.プログラムに収録されている内藤久子さんの「作品ノート」を読むと,「オペラ”ルサルカ”を通して,登場人物の異質性を特徴づける幾つかの旋律は”悪魔とカーチャ”よりももっと挑戦的にワーグナーの風格を具えているドヴォルザークがワーグナーの楽劇”トリスタンとイゾルデ”や”ニーベルングの指環”を学んだことはよく知られているが,そうしたオペラの輝きは,まず想像力に富むオーケストレーションに見事に表現されている」と書かれています.”新世界交響曲”や”チェロ協奏曲”の作曲者ドヴォルザークとワーグナーの結びつきは想像しにくいのですが,今回初めて知りました

さて,物語は第3幕の終盤でルサルカが王子にキスをして,王子は息絶えることになっているのですが,この舞台では,王子は起き上がって舞台奥に去っていきます.舞台転換があり,第1幕冒頭の月夜のルサルカの家が現われ,彼女が家に入って,幕が降ります

これについて,演出家のポール・カランは「プロダクション・ノート」で次のように語っています

「エンディングは他と異なるバージョンです.ルサルカは最後に身勝手でない決断をする.誰か大切な人のためにした決断.つまり王子を殺さないという決断です.自己犠牲であり,それが成熟するということなのです.最後にルサルカが王子にキスをすると,子どもじみた夢,身勝手な夢が一瞬のうちに消え,そこから最初に戻る.幕明けは彼女の家から始まりますが,再びその場面に戻る.そうした再生の周期は多くの女性に起こり,同時に男性にも起こる.少女はさまざまな経験をして成熟して,また新たな旅に出る.それが人生の旅なのです」

言うまでもなく,演出家は原作や台本を読み,音楽を聴いたうえで演出を施すわけですが,このオペラでは,最後に死ぬべき人間を生かしておいていいのか,という疑問が残ります.今回の公演の演出は音楽に悪影響を与えるものではありませんでしたが,何年後かに,このオペラを思い出すとき,真実と事実の区分けができなくなってしまうのではないかと心配します

とは言うものの,今回のプレミエ公演は舞台も美しく,歌手も粒ぞろいで大成功だったのではないかと思います

 

 

                    

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