21日(月).昨日,新宿ピカデリーでMETライブビューイング,モーツアルト「ドン・ジョバンニ」を観てきました キャストはドン・ジョバンニ=マリウシュ・クヴィエチェン,ドンナ・アンナ=マリーナ・レベッカ,レポレロ=ルカ・ピザローニ,ドンナ・エルヴィーラ=バルバラ・フリットリ,ドン・オッターヴィオ=ラモン・ヴァルガス,マゼット=ジョシュア・ブルーム,ツェルリーナ=モイツァ・エルドマンというメンバー,指揮は体調不良のジェームス・レヴァインに変わって,最近メト・オペラの首席指揮者に就任したファビオ・ルイージです.この公演は今年10月29日にニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されたものです
ルイージがオーケストラ・ピットに入ります.彼の前にはチェンバロが置かれています.叙唱(話し言葉の自然なリズムやアクセントを模した歌唱様式)のときに指揮者自身が弾くようです
ルイージがタクトを振り下ろして「序曲」が始まります モーツアルトはこの序曲を,お酒を飲み,コンスタンツェとおしゃべりしながら,たったの一晩で書き上げたと言われています.とても信じられません.この序曲に3時間にも及ぶオペラのエッセンスが盛り込まれています
レポレロが登場してアリアを歌い,次いでドン・ジョバンニとドンナ・アンナが現れて三重唱になりますが,私はこの部分がこのオペラの中で一番好きです.この躍動感!何回聴いてもワクワクします クヴィエチェンのドン・ジョバンニは,インタビューでルイジが語っていたように,精力的な”男”を感じさせる一方で気品があります
幕間のインタビューで,クヴィエチェンは最初にドン・ジョバンニを歌ったのは9年前に東京で小澤征爾の指揮で歌ったときで,人生経験を重ねるに連れてドン・ジョバンニの役作りも変わってきたと語っていました そして,この公演の2週間前に腰を痛めて手術をし,奇跡的に治してカムバックしたと語っていました.普通のオペラのヒーローだったら,立って歌えばいいでしょうが,ドン・ジョバンニは歌って,踊って,演技をして,とにかく舞台を右に左に動き回らなければならないので,体力勝負の側面があります.彼は手術をしたことが信じられないほど精力的に歌い,動き回りました.これこそプロでしょう
クヴィエチェンのドン・ジョバンニとピザローニのレポレロのコンビは抜群の相性で,丁々発止のやり取りでストーリーが展開していきます.ドンナ・アンナ役のレベッカはこの役が初めてとのことでしたが,なかなかどうして素晴らしいソプラノを聴かせてくれました
ドン・オッターヴィオ役のラモン・ヴァルガスは堂々たるテノールで,会場を圧倒していました.ドン・オッターヴィオは政治家志望というアライサの説は採らなかったようです.ドンナ・エルヴィーラ役のフリットリはインタビューに答えて「ドンナ・アンナよりも,ドンナ・エルヴィーラの方が,動きまわるので好き」と語っていました.その言葉どおり役柄を楽しんでいたように見えました
若手コンビのマゼット役のブルームとツェルリーナ役のエルドマンは新鮮な初々しい感じで良かったと思います.とくにエルドマンはモーツアルトのオペラには向いているかも知れないと思います.例えば「フィガロの結婚」のスザンナを歌わせたらピッタリのような気がします
ヴァルガスがインタビューで語っていたのですが,このオペラは丸1日(24時間)の物語であることを,われわれは忘れがちです.もっと長い時間が流れていると思い込んでいますが,1日目には騎士長が死に,翌日にはドン・ジョバンニが死んでいます これは「フィガロの結婚」も同じで,丸1日の物語です.正式には「フィガロの結婚,または狂おしき1日」(フランス語でラ・フォール・ジュルネ)です
私はこれまで,モーツアルトのオペラで一番好きなのは「フィガロの結婚」で,次が「魔笛」,そして3番目が「ドン・ジョバンニ」という順番でしたが,いまは「ドン・ジョバンニ」が一番です