人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

「ドナルド・キーン先生日本人となる」を観る~記者クラブ映写会

2011年11月16日 06時37分10秒 | 日記

16日(水)。昨夕、記者クラブの主催で「ドナルド・キーン先生日本人となる~その半生に込められた日本への想い」の映写会がありました これはBS-TBSで10月に放映されたもので、日本永住を決めたドナルド・キーン氏の半生を描いたドキュメンタリーです。2部構成になっていて,後半は芥川賞作家・平野啓一郎との対談です.今年1月から制作が始められ、その過程で「3.11大震災」が発生、キーン氏が日本人になる決心をするという巡り合わせがあったようです

キーン氏は1922年ニューヨーク生まれ。学生時代に「源氏物語」の英訳を読み、日本文化に興味を抱きました。戦後、ケンブリッジ大、コロンビア大、京都大で日本文学を学びました。今年4月,コロンビア大学名誉教授を退官し,9月1日,日本に帰国,永住を始めました

上映前に、プロデューサーの塩澤喜代彦氏から「10月にBS-TBSで放映して以降,再放送や上映会の要望がありましたが,同じ局で12月30日の9時から2時間の再放送が決まりました.是非,ジャーナリストの皆さん,とくにラ・テ欄担当者の皆さんに広めていただき,多くの日本人に観ていただきたいと思います」とあいさつがありました

次いで,ドナルド・キーン氏から「これまで,テレビ番組でいろいろインタビューなどを受けてきましたが,2時間収録して,放送はたったの3分ということが多かったので,今回の撮影もそんなものかと思っていました().しかし今回はそのまま放送されることになりました.テレビ制作上の都合で,立ち位置を指定されたりして,なぜなのかと疑問に思ったりしましたが,後で出来上がった番組を観てなるほどと納得できました.初めてテレビ芸術を理解した思いがしました.私は今年89歳になりました この番組には現在までの自分のすべてが描かれています.制作者の塩澤さんに感謝します」とあいさつがありました.

第1部は,ドナルド・キーンのアメリカ時代から来日以降の半生を描いたドキュメンタリーです.会場が暗いのでメモが取れなかったのが残念でしたが,いくつか断片的に印象に残ったことを書いてみます

太平洋戦争でアメリカの捕虜になった日本人が,後に日記を書いていて,その中に「コーン(キーンのこと)が,ある日蓄音機をもってきて,SP盤の歌謡曲やベートーヴェンの交響曲第3番”英雄”をかけて聞かせてくれた なぜ,”英雄”を聞かせたのか?アメリカの自由を知らしめようとしたのか,ほかに意図があったのか,わからない」という記述がありました.これについて,キーン氏は「思想を押し付けようとか,そういった意図はまったくありませんでした.純粋に,いっしょに音楽を聴きたかっただけです.今でも音楽といえばベートーヴェンの英雄が頭に浮かびます」と述べています.その時,映像に写し出されていたのはイタリア出身の指揮者アルトゥール・トスカニーニのレコード・ジャケットでした.実際にキーン氏が聴いていたレコードかどうかの説明はありませんでしたが,あのころの代表的なレコードといえばアメリカのオーケストラ(NBS交響楽団)を振っていたトスカニーニ盤でしょう

キーン氏は日本人の書いた日記に興味を持っており,高見順の書いた日記の中に,震災のときの記述として「この人たちと共に生き,共に死にたい」というくだりがあって,今回の大震災を受けて,一層この言葉に共感し,そのように生きたいと思うようになったと述べています.その想いが日本永住という結論につながったようです

 

後半の平野啓一郎との対談で面白かったのは,松尾芭蕉の「奥のほそ道」に関する対話です.キーン氏は解説します

 

夏草や 兵どもが 夢の跡 (なつくさや つわものどもが ゆめのあと)

 

という岩手県平泉で詠んだ句について,日本の文学者たちはいろいろと解釈しますが,彼らが指摘していない点があります.それは「母韻の繰り返し」です.ローマ字で表記すると分かり易いです

 

natukusaya tuwamonodomoga yumenoato

 

つまり,「O」の母音が多い.「お」というのは悲しみを表します.

 

もう一つ例に挙げれば,山形県立石寺で詠んだ

 

閑さや 岩にしみ入る 蝉の声 (しずかさや いわにしみいる せみのこえ)

 

sizukasaya iwanisimiiru seminokoe

 

これは「 i 」の母音が多い.

 

これらは声に出して初めてそのリズム感,良さがわかります

 

キーン氏の最初のあいさつこそ”アメリカ人の話す日本語”で若干分かりにくい点もありましたが,「日本人になる」という強い想いはよく伝わってきました.彼の言葉を聞いて,日本に生まれた正真正銘の日本人として,自分は果たした「源氏物語」や「徒然草」や「枕草子」など,日本の古典をどれほど真剣に勉強してきただろうか?と自問してしまいました.これを機会に日本の「古典」を読んでみようかな,と思いました

 

                        

                〔新潮社のパンフレットより〕

 

 

コメント (2)
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