18日(金).昨夕,紀尾井ホールで萩原麻未のピアノ・リサイタルを聴いてきました 国内でソロのリサイタルは今回が初めてです.プログラムは①ハイドン「ピアノ・ソナタ ニ長調」,②べリオ「5つの変奏曲」,③ラフマニノフ「コレルリの主題による変奏曲」,④シューマン「アラベスク」,⑤同「謝肉祭」です.
萩原麻未はちょうど1年前の2010年11月,第65回ジュネーヴ国際コンクール(ピアノ部門)で,日本人として初めて優勝しました.
会場は満席です.見渡す限り老若男女を問わない聴衆ですが,一般のコンサートに比べて若い人が多いように見受けました この辺にも,萩原麻未の魅力の一端が垣間見られるような気がします.自席は1階19列3番,最後列から2番目の左よりです.欲を言えばもっと前の席を取りたかったのですが,人気のピアニストのいい席はすぐに売れてしまいます
さて,満員の観客の見守る中,ソリストが深紅のドレスで登場です.9月27日のジョイント・リサイタルの時と同じように,ニコニコして,緊張している様子がまったくありません.度胸が据わっているというのでしょうか 1986年生まれといいますから24~25歳ですが,まだ,子供子供した顔立ちで,幼ささえ感じます
1曲目のハイドンの「ピアノ・ソナタ ニ長調」が始まります.この曲は1783年~84年に出版された3曲セットのソナタ集の中の1曲です.明るい基調の曲で,萩原は軽快に演奏します 2曲目の「5つの変奏曲」は,べリオ初期の1952年~53年にかけて書かれた曲です.現代曲の典型みたいな曲で,すごく演奏が難しそうなのですが,萩原は緩急自在に演奏します 相当のテクニックがなければ弾けないでしょう.完璧です
3曲目のラフマニノフ「コレルリの主題による変奏曲」は,作曲者がフランス滞在中の1931年夏に完成された曲です.ロシア的なメロディーと技巧的なピアニズムに溢れた曲で,萩原は情感豊かにラフマニノフの世界を再現します
休憩後の最初はシューマンの「アラベスク」です.この曲は1838年から翌年にかけてウィーンで作曲された小品です.萩原は,この曲の明るく軽妙な感じを肩の力を抜いて表現していました
最後の曲はシューマンの「謝肉祭」です.1834年から翌年にかけて作曲されました.謝肉祭における仮面舞踏会の情景に結びつけられた小品を連ねた作品です.萩原は,ほとんど頭や身体を必要以上に動かそうとはせずに,自然体で演奏しますが,時に腰を浮かせて上からピアノを叩きつけて,この曲の真髄を掘り起こします
会場いっぱいの拍手に応えて,アンコールにショパンの曲を演奏しました.この曲を聴いて席を立った人がいました.「もったいない,もう1曲くらいアンコールしてくれそうなのに」と思ったのですが,終演後ロビーの「本日のアンコール曲」の案内に「ショパン:告別のワルツ」とあるのを見て,この曲を聴いて帰るべきだったな,と反省しました 彼女はアンコール曲に「これで最後」というメッセージを込めたのに,われわれ聴衆がそれに気がつかなかったのです.結局,彼女はもう1曲ショパンの「黒鍵のエチュード」を弾いてくれましたが,あれだけのプログラムをこなした後に,アンコールを2曲も求めるのは酷だったかな,と自戒しました.「黒鍵」の後に,さらにアンコールを求めたらリスナーの「コケン」にかかわるでしょうね
萩原麻未という人は,抜群のテクニックを持っていながら,実にアッケラカンとしていて,難なく難曲を弾いてしまうところがあります 女性ピアニストの中には,不自然に身体を大きく動かしたり,髪の毛を掻き揚げたりして”ええかっこしい”の人が少なくありませんが,萩原麻未は必要以上に頭や身体を動かさず,無理のない姿勢で,しかし,ピアノで語るべきところは語り尽くすことが出来る,数少ないピアニストです.これからも彼女のコンサートは追っかけて聴きに行こうと思っています