7日(月).いよいよ5日から最新の米メトロポリタン・オペラを映画化した「METライブビューイング2011-2012」が始まりました これはほぼ1ヶ月遅れで,米メトロポリタン歌劇場で上演されたオペラを世界の映画館で上映するもので,バックステージの紹介や,歌手や指揮者へのインタビューなども収録されていて,超一流の歌手陣が出演することも相まって,3時間以上観ても飽きることがありません 今回のシリーズは全11公演,入場料は3,500円(ワーグナーの楽劇は5,000円)です.3枚9,000円というセットもあります.これを一般の映画と比べて高いと考えるか,本物のオペラを観ることと比べて安いと考えるか,人それぞれでしょうが,私は後者の立場を取ります.都心では新宿ピカデリー(午前10時から),東銀座・東劇(午後6時半から.作品によって異なる)で,一つのオペラが1週間のペースで上映されます.プログラムと上映日程は下記の松竹ホームページをご覧下さい
www.shochiku.co.jp/met/
さっそく昨日,新宿ピカデリーでライブビューイング第1弾,ドニゼッティ「アンナ・ボレーナ」を観ました 開演は午前10時,途中休憩を挟んで,終了は午後1時52分(所要時間3時間52分)でした.今回の公演は今年10月15日にMETで上映されたものです.会場に入って驚いたのは,入場者数の多かったことです 前回のシーズンの時などは1回当たり50人も入っていれば多い方でした.ところが,この日は300人以上は居たのではないかと思います.オペラ”映画”でこれほどの人が集まるのは珍しいことだと思います
その理由でまず考えられるのは,今年,福島の原発事故がらみで来日を控えた海外のオーケストラやオペラ劇場が多くあった中,メトロポリタン歌劇場が来日して素晴らしい公演をしたことが挙げられます それを後押ししたのが,コンサート会場やオペラ会場の入り口で配られるチラシの中に「METオペラライブビューイング2011-2012」のチラシが入っていたここです
このオペラは1530年代イギリスのヘンリー8世と悲劇の王妃アン・ブーリンの物語を題材にしています.ドニゼッティはこのオペラを作曲するまで30作以上も量産していたものの,決定打がありませんでした ドニゼッティはロマーニによる第3作目のこのオペラを,コモ湖畔にあるソプラノ歌手ジュディッタ・パスタの別荘でたったの1ヶ月で完成したといいます.「アンナ・ボレーナ」はドニゼッティが独自のスタイルを確立した最初のオペラとなり,パリやロンドンでも上演されて国際的な名声を得る出世作となりました
歌劇「アンナ・ボレーナ」はあの伝説のプリマ=マリア・カラスが復活させたといわれています.今回ヒロインのアン王妃を歌うのは今をときめくアンナ・ネトレプコです 王の女官セイモーにエカテリーナ・グバノヴァ,アンナの元彼ぺルシにスティーヴン・コステロ,エンリーコ(ヘンリー8世)にイルダール・アブドラザコフ,密かにアンナに心を寄せる青年スメトンにタマラ・マムフォードが,それぞれの喉を競います.指揮はマルコ・アルミリアート,演出はデイヴィッド・マクヴィカーです
マクヴィカーの作る舞台は極めてオーソドックスで,非常に分かりやすく好感が持てました さらに,衣装が凝っていて,衣装デザイナーのティラマーニさんが1530年代の衣装を再現すべく研究を重ねて作り上げたという,黒を基調とした重厚感のある衣装で,オペラに深みを与えていました.インタビューの中で歌手たちは”複雑な構造なので,一度着ると脱ぐのが大変”と言っていました.凝りに凝っています.まさにオペラは総合芸術です
今回のオペラはアンナ(ネトレプコ)がアンナ(ボレーナ)を歌った訳ですが,幕間でのインタビューで,歌手としてのネトレプコについて訊かれた指揮者のアルミリアートが「アンナの声は天性のものだと思います」と答えていたのが印象的でした 第1幕が95分,第2幕が88分で,アンナはほぼ出ずっぱりで,美しい高音からドスの効いた低音まで歌い続けなければなりませんが,彼女は見事にやってのけます.さらに言えば,彼女は顔や身体で表現しながら王妃の心の変化を歌い上げていきます.凄いとしか言いようがありません それだけに,6月のメトロポリタン歌劇場の来日公演で「ラ・ボエーム」でミミを歌うはずだったネトレプコが来日出来なくなってしまったのが,今でも残念でなりません.彼女の歌を聴くために高いチケットを買ったのですから
本物のヘンリー8世(1491年~1547年)は,取り替えた王妃6人,処刑した著名人50人,取り潰した修道院576という並外れて凶暴な王だったといいます.バスのアブドラザコフはその凶暴さを前面に出して王を演じ,力強く歌いました
メゾ・ソプラノのグバノヴァは,アンナと王との板ばさみになって悩む女官セイモーを見事に演じました.ペルシを歌ったコステロは心地よいテノールを,メゾ・ソプラノのマムフォードは,モーツアルトの「フィガロの結婚」でいえばケルビーノ的なスメトンの,大人の女性に惹かれて揺れ動く青年の心を見事に歌っていました
「アンナ・ボレーナ」はCDもLPも持っていないと思い込んでいて,最初から”予習”は諦めていました.したがって,この映画で初めて「アンナ・ボレーナ」に接したことになります ところが,念のため,家に帰ってCD棚の「マリア・カラス」コーナーを見ると,二重になっている奥の方に何と「アンナ・ボレーナ」のCDが未開封のまま”存在している”ではありませんか これには自分でも呆れました.こういうことは結構あります.CDを買うときはまとめ買いをするので,封を切らずにそのままになっているCDも少なくないのです.早速,復習のために聴きました
次のMETライブビューイングは11月19日からのモーツアルト「ドン・ジョバンニ」です.当初,ジェイムズ・レヴァインが指揮する予定だったのが,病気のためファビオ・ルイージが振ることになったとのことです.このオペラは何回観ても楽しいです
マリア・カラスの「アンナ・ボレーナ」のCD(1957年,ミラノ・スカラ座)