21日(日)。昨日の朝日夕刊に「クラシック界にハルキノミクス 新作中の曲 品切れ続出、廃盤復刻も決定」という記事が載りました 記事を要約すると、
「発売1週間で発行100万部に達した村上春樹の新刊小説『色彩を持たない多碕つくると、彼の巡礼の年』の作中に登場するクラシック曲のCDの品切れが相次いでいる この著作ではロシアのピアニスト、ラザール・ベルマンの演奏するリストの『巡礼の年』が、印象的に記される。発売後店頭では輸入盤の品切れが続出 有料ダウンロードも急増し、一部の音楽配信サイトでは一時ランキング1位にもなった 国内版CDは廃盤になっていたが、ユニバーサルミュージックは急きょ、5月15日に再発売することを決めた。『1984』の時も、作中に登場したヤナーチェクの『シンフォニエッタ』のCDがヒットした。小説がクラシック界に”特需”をもたらす異例の事態となっている」
『巡礼の年』のCDは持っていますが、ラザール・ベルマンのではありません 実はベルマンには苦手意識があるのです。LP時代にリストの「超絶技巧練習曲集」の演奏を聴いて、あまりの完璧さに返って嫌気がさしてしまい、彼の演奏するほかのLPも避けるようになったのです。当時はカラヤンと入れたチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」もベストセラーになっていましたが、これにも手を出しませんでした。したがって彼のCDは1枚も持っていないのです。
さて、村上春樹が取り上げるベルマンの『巡礼の年』とはどんな演奏なのか、興味はあります
閑話休題
昨日はコンサートを2つハシゴしました。午後2時からすみだトりフォニーホールで新日本フィルの第507回定期演奏会を、次いで6時からサントリーホールで東京交響楽団の第609回定期演奏会を聴きました今日は新日本フィルの定期演奏会の模様を書きます
プログラムは①ブラームス「ピアノ協奏曲第2番」(ピアノ独奏:清水和音)、②シューマン「交響曲第4番」で、指揮は2003年から新日本フィル芸術監督のクリスチャン・アルミンクです
開演前の午後1時半からクリスチャン・アルミンクによる「プレトーク」がありました この日演奏されるシューマンの交響曲第4番は、作曲した順で言えば2番目の曲で、その後、作曲者自身により改訂版が出されたため第4番になったとのこと 初演はあまり評判が良くなかったようですが、アルミンクの解釈では、4つの楽章が連続して演奏されるため、保守的な聴衆は、いつ終わるか分からない第1楽章にしびれを切らし、やっと第1楽章が終わったと思ったら全曲が終わっていたので、面喰ったのではないか、というものです。分かるような気がします 彼の解説で面白いと思ったのは、初稿版の楽譜にはギターの表示があるけれど、音符が書かれていないという話です
オケがスタンバイしてチューニングの入ります。コンマスはソロ・コンマスの崔文殊(チェ・ムンス)です。いつものように、後ろの奏者のみならず、すべての演奏者が彼の動きが見られるように椅子の高さを一段と高く設定し、ほとんど中腰に近い姿勢でスタンバイします
メンバーを見渡すと、18日の室内楽シリーズに出演したオーボエの古部賢一、チェロの武澤秀平は出演していますが、第2ヴァイオリンの篠原英和さん、ヴィオラの木村恵子さん、チェロの多田麗王さんは降り番のようです 今ごろはワインがぶ飲みでしょうか
ソリストの清水和音と指揮者アルミンクが登場し、1曲目のブラームス「ピアノ協奏曲第2番変ロ長調」がホルンの独奏で開始されます 清水のピアノは力強く安定感があります。パワー全開といったところですが、彼の特徴は弱音もオケに消されないことです 第3楽章の上村祥平のチェロと清水のピアノの対話には思わず聴き入ってしまいました 全曲を通して感じたのは、管打楽器はもちろんのこと、弦楽器が相当の根性で演奏しないとブラームスは音楽にならないということです もちろん新日本フィルのメンバーはピアニストに負けずパワー全開で乗り切ります
休憩時間にロビーに出てチラシをチェックしていると、入口に近い方から男の怒鳴り声が聞こえてきました 遠くなので何を言っているのか聞き取れないのですが、だれかを怒鳴りつけているようです クラシックのコンサート会場では滅多にない出来事ですが、時々こういう怒りの発火点の低い人がいます。ちょっと気に入らないことがあるとすぐに大声で怒鳴り散らすのです
数年前、東京シティフィルの定期会員だったときにも居ました。前の席の人の頭が邪魔だと言って休憩時間に怒鳴りつけていました あの時は5月でした。どうも春爛漫の4月とか5月にこういう現象が起きるようです コンサート会場でこういう人を見ると非常に違和感を感じます。存在自体が場違いです。明らかに来るところを間違えています こういう人は、プロ野球でも観に行って「どーしてピッチャー代えないんだ、このドアホ 監督なんか辞めちまえ」とか野次を飛ばしている方が似合っています誤解のないように言っておきますが、私は生粋のタイガース・ファンですが、家でも球場でも、そういうひどいヤジは飛ばしません
さて、休憩後のシューマン「交響曲第4番ニ短調」は、彼の4つの交響曲の中でも好きな曲です 演奏では、とくに第2楽章の崔コンマスのヴァイオリン独奏が実に美しく響きました そして一番好きな第3楽章「スケルツォ」は理想的なテンポで音楽が推進し、第4楽章のフィナーレを迎えます
オーストリア・ウィーン出身のアルミンク得意のドイツ・オーストリア系のプログラムでしたが、彼の任期も8月定期公演のマーラー「交響曲第3番」まで。マーラーに期待しましょう