9日(火)。昨夕、サントリーホールで「トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーン」のプレミアム・コンサートを聴きました 「トヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーン」はウィーン・フィルとウィーン国立歌劇場管弦楽団のメンバーを中心に30名で特別編成されたオーケストラで、トヨタの社会的貢献活動の一環として2000年から公演が続けられています
プログラムは①イントラ―ダ、②ワーグナー「ジークフリート牧歌」、③ブルッフ「クラリネットとヴィオラのための協奏曲」、④ベートーヴェン「ロマンス第1番ト長調」、⑤同「交響曲第7番イ長調」です。③の独奏はクラリネット=ペーター・シュミ―ドル、ヴィオラ=清水直子、③の独奏はヴァイオリン=フォルクハルト・シュトイデです
自席は2階RB-3列15番。舞台と客席の境目あたりの右サイドの2階席です。ヴィオラ、チェロを背中に見て、正面にヴァイオリンセクションが見える位置です。会場は9割方埋まっている感じです
拍手の中、30人のメンバーが入場、立ったままトヨタ・マスター・プレイヤーズ、ウィーンのための前奏曲「イントラ―ダ」を演奏します どんな曲かと思ったらモーツアルトの「交響曲第39番K.543」の第3楽章「メヌエット」をアレンジした曲です。”ウィーン”とモーツアルトとは切っても切れない関係だからなのでしょう
次に、着席してワーグナー「ジークフリート牧歌」を演奏します。左から第1ヴァイオリン(5)、第2ヴァイオリン(4)、チェロ(3)、ヴィオラ(3)、コントラバス(2)、後ろにホルン(2)、クラリネット(2)、バスーン、トランペット、その前にフルート、オーボエという布陣です 指揮者はいません。コンサートマスターのフォルクハルト・シュトイデ(ウィーン・フィルのコンマス)がリードして全体をまとめます。演奏を聴いて思ったのは「音楽のヴィンテージ」だということです。弦楽器も管楽器も伝統に根ざしながらも新鮮で輝かしい音が響きます
次にクラリネットのペーター・シュミ―ドル(元ウィーン・フィルのソロ・クラリネット)とヴィオラの清水直子(ベルリン・フィル首席ヴィオラ)をソリストに迎えて、ブルッフの「クラリネットとヴィオラのための協奏曲ホ短調」が始まります 清水直子はゴールド地に黒の模様の輝かしいドレスで登場です この曲は、クラリネット奏者の息子マックス・フェーリクスや友人たちのために1911年に作曲されました。ブルッフらしいメロディーに溢れた曲で、とくに第1楽章冒頭のヴィオラの奏でるメロディーと第3楽章冒頭のファンファーレが特徴的です バックのオケがあまりにも雄弁に演奏するので、普段から目立たないヴィオラのソロが、時々オケに埋もれてよく聴こえないのが残念でした。”指揮者なし”が災いしたと言えましょうか それにしても演奏自体は素晴らしいものでした
休憩後の1曲目、ベートーヴェン「ロマンス第1番ト長調」は、オケをバックにコンマスのシュトイデがソロを弾きました。シュトイデは何と美しくヴァイオリンを奏でることでしょうか ほれぼれするような演奏で、万雷の拍手を受けていました
そして最後のベートーヴェン「交響曲第7番イ長調」に入ります。この曲ももちろん指揮者なしで演奏します。弦楽器の配置は最初から変わりません。自席からは正面に第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがよく見えるのですが、とくに元ウィーン・フィルのペーター・ヴェヒター率いる4名の第2ヴァイオリンが凄まじい勢いで演奏している様子が手に取るように分かります 全身全霊を傾けて命がけで演奏していると言っても大袈裟ではありません 第1ヴァイオリン5人も凄まじい迫力なのですが、第2ヴァイオリンの「負けてなるものか」という気迫のようなものを感じます。それは、第1楽章だけでなく、最後の第4楽章のフィナーレまで続きます
この気迫あふれる音楽がたったの30人で、しかも指揮者なしで演奏されているとはとても信じられないくらい大迫力なのです オケの一人一人の実力が飛びぬけているのだと思います。これまでフル・オーケストラで何度かこの曲を聴いてきましたが、これほど迫力に満ちた演奏を聴いたことがありません
会場一杯の拍手とブラボーに、ヴィオラ奏者(?)が日本語で「これから、こうもりの・・・・を演奏します」と言いました。多分J.シュトラウスの喜歌劇「こうもり」の序曲でも演奏するのだろうと耳を傾けましたが、違いました。序曲ではなく「チャルダーシュ”ふる里の調べよ”」でした この手の音楽はウィーン・フィルにとっては”お手のもの”です。ウィーン情緒たっぷりに演奏しました
鳴り止まない拍手に同じ奏者が日本語で「次は・・・・・・です。これで決まりです」と言いました(会場・笑)。そしてブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」を民族色豊かに演奏しました
この日の公演を振り返って気が付いたことが一つあります。それは「彼らは舞台上で一度もチューニングをしなかった」ということです 5曲演奏したので5回機会はあったはずですが、1度もチューニングしませんでした。「チューニングは舞台に出る前に済ませ、いったん舞台に出たらいつでも演奏に移れるようにしておくべきだ」というのが彼らのプロとしてもポリシーなのでしょう。一流というのがどういうものか、彼らの演奏に対する姿勢にその答えが現われていると思います
彼らは来年も来日すると思いますが、「万難を排して絶対に聴きに行く」と心に決めてサントリーホールをあとにしました