15日(火)。昨日の夕刊各紙に米指揮者ロリン・マゼールが13日に死去した(享年84歳)というニュースが載りました。私はマゼールの指揮を一度だけ見たことがあります。1980年台初め頃だったと思います マゼール指揮クリーヴランド管弦楽団のコンサートに友人が急用で行けなくなり、代わりに行ってくれというチャンスが巡ってきたのです
その時のプログラムが何であったか、まったく覚えていないという慢性的健忘症状態ですが、最初で最後に見たマゼールの指揮ぶりは『指揮なんて、おちゃのこさいさいだよ
』といった気軽なもので、爽快感も重厚感もない、あっけらかんとしたものでした
チケットを譲ってくれた友人には本当のことが言えず、適当に感想を伝えましたが、正直、良い印象はありませんでした
マゼールは7月~8月に開かれるPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)世界ツアーでPMFオーケストラを振る予定だったのが、健康上の理由で降板、急きょ佐渡裕が代役を務めることになったというニュースに接したばかりでした。それほど悪い状態だとは思いもよりませんでした
ところでマゼールのCDで、良くも悪しくも一番印象に残っているのは、ウィーン・フィルを振ったマーラーの「交響曲第3番」(1985年録音)です 私は同じウィーン・フィルを振ったクラウディオ・アバドの同曲の演奏が最も理想に近いと思うのですが、マゼールのテンポは、ほとんど”止まりそう”です
あそこまで遅くすると、”あざとい”としか言いようがありません。ほとんど『胃もたれしそう』な演奏です。私はこの演奏を高く評価する音楽評論家を信用しません
マゼールは、若い時に振ったチャイコフスキーの幻想序曲「ロミオとジュリエット」のような、溌剌とした演奏の方がよほど良いと思います。ご冥福をお祈りいたします
閑話休題
昨夕、初台の東京オペラシティコンサートホールで国立音楽大学オーケストラの第121回定期演奏会を聴きました プログラムは①R.シュトラウス「交響詩”ドン・ファン”」、②リスト「ピアノ協奏曲第1番変ホ長調」、③ベルリオーズ「幻想交響曲」という、ド派手な曲を3つ揃えた選曲で、演奏者は指揮=準・メルクル、②のピアノ独奏=アレッシオ・バックスです
自席は1階25列10番、左ブロック右通路側です。会場は明らかに演奏者の家族・友人・知人と分かる聴衆がほとんどです 私のように準・メルクルの「幻想交響曲」を目当てに来る一般客はごく少数でしょう。とにかくほぼ満席状態です
オケは左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスという態勢をとります。コンマスは中台寛人君。チューニングが終わり、準・メルクルが登場します
1曲目のR・シュトラウス「交響詩”ドン・ファン”」は、シュトラウスが24歳の時に作曲した最初の交響詩です。「ドン・ファン」と言えばモーツアルトの「ドン・ジョバンニ」の”女たらしの主人公”を想起しますが、R・シュトラウスはオーストリアの作家レーナウの劇詩「ドン・ファン」を題材に選び、理想の女性を求めて遍歴し、満たされない思いの中で死を選ぶ純粋な人物を音楽で表現しました
準・メルクルは冒頭の鋭い立ち上がりで聴衆の心を一気につかみます この人の最大の特徴はメリハリの効いた音楽作りです。学生オケは懸命にタクトに着いていきます。管楽器群も頑張っています
ピアノが左袖から入れられセンターに設置されます。ピアノのアレッシオ・バックスがメルクルとともに登場します プロフィールによると、バックスは8歳でピアノを始め、翌年バーリ音楽院に入学し、通常10年かかるコースを半分の5年で修了し、首席で卒業したという逸材です
メルクルのタクトで2曲目のリスト「ピアノ協奏曲第1番」が開始されます。バックスはメルクルのメリハリの効いたサポートに呼応して明快で力強い音楽を奏でます 一方、第2楽章のアダージョでは詩情豊かに美しい演奏を展開します。第4楽章のフィナーレは大管弦楽を巻き込んで突き進む迫力が圧巻でした
鳴り止まない拍手に、ブラームス作曲シフラ&バックス編曲「ハンガリー舞曲第5番」の超絶技巧音楽をいとも鮮やかに演奏し聴衆の喝さいを浴びました
休憩後は待望のベルリオーズ「幻想交響曲」です。昨年7月30日(火)サントリーホールで開かれた前述のPMFオーケストラ東京公演において「幻想交響曲」の指揮をとったのは準・メルクルでした。その時の演奏が印象深く、再び彼の指揮で聴きたいと思っていたのです
「幻想交響曲」は「ある芸術家の生活のエピソード」というサブタイトルを持っています。一人の女性を恋する若き音楽家(ベルリオーズ自身)の心象風景を描いています
第1楽章「夢ー情熱」、第2楽章「舞踏会」、第3楽章「野の情景」、第4楽章「断頭台への行進」、第5楽章「魔女の夜宴の夢」から成りますが、「舞踏会」はいいですね メルクルは軽快な身のこなしで優雅な音楽をリードします
素晴らしかったのは第3楽章「野の情景」におけるコーラングレと舞台裏のオーボエとの会話です。プロに近づいていますね
「断頭台への行進」はいつ聴いても興奮します。ファゴットは最高でした そして、最後の「魔女の夜宴の夢」の終盤、グレゴリオ聖歌の「怒りの日」の旋律が流れる中、舞台裏で打ち鳴らされる教会の鐘の音が印象的です
準・メルクルのタクトが上がると、会場一杯の拍手とブラボーが飛び交いました メルクルは管楽器をセクションごとに立たせ、全員を立たせます。そして、舞台裏で演奏していたオーボエ奏者と鐘を鳴らしていた打楽器奏者を舞台中央に誘い、拍手を求めました。破格の扱いです
さて、この日ステージ上には延べ100人以上の音大生が登場し演奏したわけですが、彼らは多くの学生の中から選抜されて舞台に上がったのだと思います そうした背景をもとに考えて、果たしてこの中の何人が音楽で生計を立てていくことになるのか、最終的にプロとして生き残るのはどれだけの人数か・・・・と他人事ながら心配になってしまいました
ここは前向きに考えたいと思います 一生懸命演奏してくれた学生たちにエールを送ります。今を大切に、これからも頑張ってください