18日(金)。日経の夕刊文化欄に連載中の「日本指揮者列伝」が昨日3回目を迎えました 音楽ジャーナリスト・岩野裕一という人が書いていますが、今回はクラシック音楽好きなら知らない人はいない斎藤秀雄氏を取り上げています 斎藤秀雄氏が、大学受験生時代にお世話になった英和辞典の編纂者である齋藤秀三郎氏の子息であることを知ったのは大学を卒業してからでした
言うまでもなく斎藤秀雄氏は、指揮者の小澤征爾、秋山和慶やチェリストの堤剛などを育てた名音楽教育者です その名は「サイトウ・キネン・オーケストラ」として残されています
私がここで書きたいのは、その齋藤秀雄氏ではなく、斎藤氏が心酔したドイツの指揮者ローゼンストックのことです ローゼンストックは1936年秋、新交響楽団(現N響)が近衛秀麿を辞任に追いやった後釜としてドイツから招聘した指揮者です 岩野氏の言葉を借りれば「ローゼンストックの指導は峻烈をきわめ、実力不足だった新響のメンバーは徹底的に鍛え直される」ものだったようです
マスコミ倫理懇談会という組織がありますが、何代か前の事務局長だったNさん(故人)の自慢は、ローゼンストックの指揮でベートーヴェンの「第9」を歌ったことでした とはいうものの、直前の練習に出席できなかった友人に代わり”口パク”で歌ったところ、ローゼンストックが指揮棒を自分の方に向けて『そこのヤツ、ちゃんと歌え』と言わんばかりに睨めつけたというのです ”口パク”が通用しない恐ろしい指揮者に震え上がったということです
齋藤氏はローゼンストックに個人的に師事して指揮法や音楽全般にわたる指導を受けました。ひょっとして、ローゼンストックが来日していなかったら”世界のオザワ”は生まれていなかったかもしれません
音楽とは関係はありませんが、Nさんにまつわるエピソードをもう一つ Nさんの同僚Kさん(故人)から聞いた話です。新聞関係団体に勤めていた若い時代、イタズラ好きのKさんは昼寝をしているNさんのメガネをそっと外して、レンズに赤色のインクを塗りたくって、Nさんの顔に戻した。そして、Nさんの肩を揺すって「大変だ、火事だ」と大声で叫んだ。目を覚ましたNさんは目の前が真赤な火の海になっているので慌てふためいた しかし、すぐに真相が分かりカンカンになって怒り出した それが原因かどうか分かりませんが、Nさんは通信社に転職しました。時を経てまた戻ってきましたが
いまKさんのようなイタズラをしたら侮辱罪か何かの疑いで訴えられるかも知れません 人々の心が寛大な古き良き時代の話です
閑話休題
奥田英朗著「我が家の問題」(集英社文庫)を読み終わりました 奥田英朗は1959年岐阜県生まれ、雑誌編集者やコピーライターなどを経て1997年「ウランバーナの森」で作家デビューしました 彼の作品は「邪魔」「空中ブランコ」「オリンピックの身代金」「最悪」「真夜中のマーチ」「ララピポ」「ガール」など、文庫化したものはすべて読んでいますが、どれもが面白い作品ばかりです この「我が家の問題」も、生活に密着した身近なテーマを取り上げ、「あるある、そういうこと」と思わず膝を打つような出来事を、面白おかしく書いています
「甘い生活」は、新婚で、何の不満もない完ぺきな妻であるが故に、息苦しく感じてまっすぐ家に帰れない男の贅沢な悩みが書かれています。傍から見れば”超羨ましい”悩みです
「ハズバンド」は、どうも夫は仕事ができないらしい、と察知してしまった妻が、美味しい弁当を持たせて夫を励まそうとする物語です。甲斐甲斐しいですね
「絵里のエイプリル」は、偶然取った電話で両親が離婚の危機にあることを知ってしまった女子高生が、友達にどうしたらよいかと相談し、自ら考えていくことを通して成長していく過程を描いた作品です。著者は結論を書いていません。それはそれで良いと思います
「夫とUFO」は、残業続きの夫が「UFOを見た」と言うのを聴いた妻が、夫の異常を察知し、会社でいくつもの仕事を押し付けられて悩んでいることを知り、何とか夫を救おうと、宇宙人に変装して夫の前に現われ「会社を辞めなさい」と言う話です。登場する妻の言うように、辛かったら会社なんか辞めればいいのです
「里帰り」は1週間で北海道と名古屋のそれぞれの実家に帰省しなければならない夫婦の物語です。読んだあとは、「えっ、そうなの?どこの家でもそうとは限らないんじゃないかなあ」というのが正直な感想です
「妻とマラソン」は作家の妻が、家族の後押しで東京マラソンに出場するまでと、マラソンにおける奮闘ぶりを書いた物語です。専業主婦は何か夢中になるものを持っていた方が、本人のためにも家族のためにも良いということを描いた作品です
奥田英朗の作品にハズレはありません。お薦めします