13日(月・祝)。皆さま、本日は国を挙げて私の誕生日を祝っていただきありがとうございます えっ、今日は体育の日で、お前の誕生日は関係ないって・・・・あっそう
閑話休題
わが家に来てから16日目を迎えたモコタロです
ぼくの後ろにあるのはご主人さまのCDの一部だよ
閑話休題
昨日、神保町の岩波ホールで「ミンヨン 倍音の法則」を観ました 監督は「四季・ユートピアノ」(1980)や「川の流れはバイオリンの音」(1981)で詩情豊かな映像にモーツアルトの音楽を乗せて美しい世界を表現した佐々木昭一郎です
ミンヨンは『倍音の法則』(Harmonics Minyoung)という小説を書くソウルの大学生。亡き祖母の親友、佐々木すえ子の家族写真に魅入られ、すえ子への思いが募っていく ミンヨンは妹ユンヨンの後を追うように日本へ渡り、通訳や司会者として活躍する
そこでストリート・チュルドレンのユー少年や、風鈴職人など色々な人々との出会いがある
彼女は夢の中で時代を超えて戦時中のすえ子の人生を生きる。現代社会の歪んだ社会の中で、ミンヨンは人々との交流を通じて音楽の喜びを噛みしめる
出演者は、これまでの佐々木監督の作品と同様、一般の人々です 主人公のミンヨンを演じるのは韓国在住のミンヨンで、日本語も英語も堪能な女性です
ユンヨンは彼女の実際の妹です。プログラムに佐々木監督のメッセージが載っていますが、この映画は、ミンヨンとの出会いがなければ実現しなかったことが分かります
ミンヨンに出会った瞬間、次回作の主人公はミンヨンで行こうと決めたと述べています
ミンヨンとユンミンは、風鈴を作る職人、昔ハーモニカを作っていた職人、海の水から塩を作る職人、十字架を背負って長崎まで歩く牧師などと出逢いますが、台詞だけ聞いていると、いかにも素人の棒読みで中高生の学芸会のようなのですが、それぞれの顔の表情が魅力的で演技以上のものを感じます
映画の冒頭は、青空の下、明るい表情のミンヨンの顔が大写しされ、バックにモーツアルトの交響曲第41番ハ長調『ジュピター』K.551の冒頭部分が流れます 演奏は武藤英明指揮チェコ・フィルハーモニーです。そしてバッハの「目覚めよと呼ぶ声がするBWV645」がピアノで演奏されます
この映画でテーマ音楽のように使われているのは、『ジュピター・シンフォニー』のほか、モーツアルトの「ピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482」の第3楽章です。心弾むようなウキウキする曲です 私の愛聴盤は内田光子のピアノ、ジェフリー・テイト指揮イギリス室内管弦楽団による1986年録音のCDです
そして、もう1曲はミンヨンが「なぜモーツアルトは死ぬ間際にこんなに力強い曲が書けたんでしょうね」と言った「フリーメーソンのための小カンタータ『我らが喜びを高らかに告げ』K.623」です モーツアルトはフリーメースンのメンバーでしたが、フリーメースンのための音楽も何曲か書いています
このK.623の曲はそのうち最大の曲で、死を2週間後にひかえた1791年11月18日に、ウィーンのロッジでモーツアルト自身の指揮によって演奏されたと言われています
ケッヘル番号(モーツアルト作品番号)の最後はK.626の未完の「レクィエム」ですが、完成されたモーツアルトの最後の作品はこのK.623の「フリーメースンのための小カンタータ」なのです
映画で流れていたのはその冒頭の合唱で、こういう歌詞です↓
「高らかに我らが喜びを告げよ、音楽の楽しい響きを広めよ、兄弟一人一人の心よ、この壁のこだまを受け取れ・・・・・・」
実際に曲を聴けば分かりますが、生きようという意欲と推進力を感じさせる力強い曲想です まさか、その2週間後に息を引き取ることになろうとはモーツアルト自身も自覚がなかったでしょう
私の愛聴盤はイシュトヴァン・ケルテス指揮ロンドン交響楽団によるCDです
この映画ではモーツアルトの音楽だけでも、上記の「ジュピター・シンフォニーの第1楽章」「ピアノ協奏曲第22番の第3楽章」のほかに、「ディポールのメヌエットによる9つの変奏曲K.573」、「ピアノ・ソナタ第15番K.545」、「『ああ、お母さん聞いて』による12の変奏曲K.265」、オペラ「魔笛K.620」から「私は鳥刺し」、オペラ「ドン・ジョバンニK.527」から「手を取り合って」「酒の歌」、晩年の「アヴェ・ヴェルム・コルプスK.618」などが流れます
モーツアルト以外では、ベートーヴェン「『魔笛』の主題による変奏曲」が流れるほか、ミンヨンによって韓国民謡「アリラン」、アメリカ民謡「わらの中の七面鳥」「ジョージア・マーチ」、「アメージング・グレース」、日本の「椰子の実」「リンゴの歌」「みかんの花咲く丘」「星の流れに」などの歌が歌われます その歌の上手なこと
ミンヨンは何を歌っても本当に上手です
岩波ホールではプログラムを700円で販売しています。大きな写真で誤魔化して内容のない大方のプログラムと違って、佐々木監督のメッセージはもちろんのこと、映画評論家・佐藤忠男氏の解説、この映画に出演したミンヨンとユンヨン姉妹の手記も寄せられています とくにミンヨンの「映画に出演して」には、小学生の時に父親の仕事の関係で日本に来て、友達や先生との触れ合いの中で日本に対する良いイメージが醸成されたこと、これから一人の市民として両国の関係改善に出きることを考えたい、と締め括られていて、とても良い印象をもちました
感性の鋭いこういう人が一人でも多く存在してほしいと思いました
この映画の上映時間は2時間20分。久しぶりに良い音楽映画を観ました