17日(金)。わが家に来てから20日目を迎えたモコタロです
いやーまいったよ 歯にアタリメが挟まっちゃってさぁ
閑話休題
昨夕、初台の新国立劇場でモーツアルトの歌劇「ドン・ジョバンニ」を観ました キャストは、ドン・ジョバンニにアドリアン・エレート、ドンナ・アンナにカルメラ・レミージョ、レポレッロにマルコ・ヴィンコ、騎士長に妻屋秀和、ドン・オッターヴォにパオロ・ファナーレ、ドンナ・エルヴィーラにアガ・ミコライ、マゼットに町英知、ツェルリーナに鷲尾麻衣ほか。指揮はラルフ・ヴァイケルト、オケは東京フィルハーモニー、演出はグリシャ・アサガロフです
無類のプレイボーイ、ドン・ジョバンニは、ある晩騎士長の娘ドンナ・アンナの部屋に忍び込むが、アンナに騒がれ、駆け付けた騎士長と乱闘し刺殺してしまう 従者のレポレッロと逃走する途中で、かつての妻で捨てた女ドンナ・エルヴィーラに追い回されながら、結婚直前の村娘ツェルリーナを誘惑したりして放蕩の限りを尽くす
やがて一連の悪行がばれて、騎士長が眠る墓場に逃げてくるが、そこで騎士長の石像を晩餐に招く約束をする
石像は招かれた館でドン・ジョバンニに放蕩生活を反省し心を入れ替えるよう説得するが、彼はそれを拒み、地獄に落とされる
新国立劇場におけるドンジョバンニの上演は2000年、2001年、2008年、2012年に次いで今回が5回目ですが、私はすべて観ています アサガロフによる演出では、舞台をスペインのセビリアからイタリアのヴェネツィアに移し、当時の稀代の色男カサノヴァをドン・ジョバン二に重ねています。この演出は前回に次いで2回目ですが、METでもタイトルロールを歌ったクヴィエチェンのセクシーな歌と演技(前回)が忘れられません
ラフル・ヴァイケルトがオーケストラピットに入ってタクトが振り下ろされます。その冒頭、ティンパ二の強打がドン・ジョバンン二の運命を暗示します 私はこの序曲から、レポレッロが登場して「夜も昼もこき使われて」と歌い、その後ドン・ジョバンニが登場して、ドンナ・アンナの屋敷に忍び込んでいき、しばらくして二人がもつれ合って登場し「手を離せ!」「逃がすものですか!」と歌うところが、このオペラで一番好きです
躍動感溢れる二重唱、三重唱の魅力に満ち溢れています
ドン・ジョバンニが出てきた時、「あれっ、能見君、今日はクライマックス・シリーズで巨人相手に投げるんじゃなかったの?」と叫びそうになりました ドン・ジョバンニ役のエレートが阪神タイガースのエース能見投手に似ているのです(実際には岩田が投げて阪神が2連勝したようですが)。エレートはウィーン国立歌劇場の専属歌手を長く務めていたこともある本格派のバリトンで、歌唱力は抜群です
欲を言えば、前回のクヴィエチェンのような”いやらしさ”がもっとあれば、いかにもドン・ジョバンン二になったのに、と思います
レポレッロを歌ったマルコ・ヴィンコは昨年10月に新国立オペラ「フィガロの結婚」でタイトルロールを歌って喝さいを浴びたバスです 今回もきびきびした演技とともに深みのあるバスを聴かせてくれました
さて、楽しみにしていたドンナ・アンナ役のカルメラ・レミージョですが、最初のうちはやや演技過剰気味かなと思ったのですが、ストーリーが進むにつれて自然に見えるようになってきました。もちろん歌は文句なしのソプラノです。とにかく美人は得です
今回聴いていて一番印象に残ったのはドン・オッタ―ヴォを歌ったパオロ・ファナーレでした 新国立劇場では「コジ・ファン・トゥッテ」のフェルランドを歌っていますが、良く通る素晴らしいテノールです
もう一人、ドンナ・エルヴィーラを歌ったアガ・ミコライは、2008年にドンナ・エルヴィーラを、2012年にドンナ・アンナを新国立劇場で歌っています 3回目とあって堂々たる歌いぶりです。第1幕の前半でドン・ジョヴァンニともみ合うシーンで、被っていた鳥の羽付帽子が脱げそうになり、落ちないように苦労していましたが、途中であきらめて脱いだまま演技していました。こういうアクシデントもあるのですね
最後に付け加えたいのは、ツェルりーナを歌った鷲尾麻衣です。東京藝大卒で、文化庁派遣芸術家在外研修員としてニューヨークに留学経験もあるとのこと。今回が新国立劇場初出場ということですが、この人は声量もあり、声も美しいので、近い将来新国立で「フィガロの結婚」のスザンナを歌うチャンスがあるかも知れません
ところで、「ドン・ジョバン二」の演出で解釈の分かれる点が1つあります それはドン・ジョバンニはドンナ・アンナを襲って”目的を果たしたのか”という点です。今回のアサガロフの演出では明らかに”目的を果たした”という解釈をとっています。彼はどこにもそのようなことは書いていませんが、根拠は3つのシーンにあります
一つは、ドンナ・アンナが騒いだため、騎士長が出てきて決闘に至るまでのシーンです。レミージョ演じるドンナ・アンナが父親である騎士長を引き止めますが、その時彼女は、闘うことによって父親にもドン・ジョバンニ(正確に言えば、この時、彼女は自分を襲った相手がドン・ジョバンニだとは気が付いていない)にも死なないでほしいという表情を見せていたのです 私は「ドンナ・アンナは自分を襲った男(=ドン・ジョバンニ)を憎みながらも、心の底では愛しているのではないか」と思いました
二つ目は、ドン・ジョバンニが地獄へ落ちた後、ドン・オッタ―ヴォからあらためて求婚された時、ドンナ・アンナは1年間待ってほしいと答えたことです 婚約しているのだから伸ばす必要はないのではないかと思います。もっとも、これは演出上の問題ではありませんが
三つ目は、フィナーレの六重唱のシーンです ドンナ・アンナは騎士長の石像の所にあった黒い目隠しマスクを取り上げ、心を奪われたような表情を見せて最後まで手放さないのですが、そのマスクはドン・ジョバンニがドンナ・アンナを襲った時に付けていたものだったのです
やっぱり、ドンナ・アンナはドン・ジョバンニが好きだったのではないか、と思います
昨夕はモーツアルトのオペラが生で聴けて「生きていて良かった」と思いました。この日の公演は奇しくも私が今年聴いた150回目の公演でした