人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

読売日本交響楽団編「オーケストラ解体新書」を読む~指揮者、楽団員、事務局が普段どのように考え行動しているかが良く分かる

2018年02月27日 08時07分28秒 | 日記

27日(火)。初めてこのブログをご覧いただく方にご説明しておきます 私は基本的に月曜から金曜までの5日間は夕食を作って翌日のブログにアップしています ”基本的に”というのは、昨夜のように子どもたちが外食することが判っている場合は作らないからです。考えてみると、料理って家族のために作るものだ、とつくづく思います 一人だけだったら作りません。それで思い出すのは、社会人になって2年目に、労働組合の執行委員に選ばれ、帰宅する時間が遅くなる日が多くなることから1年間だけ江東区白河町の賃貸アパートで暮らしたことがあります。水道・ガスが共用廊下にあることもあって一切料理はしませんでした 夏のある日、隣室の親切なおばあさんが素麺を茹でて持ってきてくれたました。有難さが身に沁みましたが、次の瞬間 困り果てました。箸がないのです まさか手づかみで食べるわけにもいかないので 鉛筆2本を箸代わりにして食べましたが 鉛は健康に悪かったですね 箸にも棒にも掛からぬ たわごと ですが、今となっては いい思い出です

ということで、わが家に来てから今日で1245日目を迎え、日本相撲協会が26日 大相撲春場所の新番付を発表したが、西の横綱 白鵬は在位64場所となり、北の湖を抜いて歴代1位となった というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

       今やモンゴル相撲になってしまったけど「国際化」と言って喜んでていいのかい?

 

        

 

読売日本交響楽団編「オーケストラ解体新書」(中央公論新社)を読み終わりました この本は、長年の読売新聞記者生活を経て 2014年6月から17年5月まで読売日本交響楽団常任理事・事務局長を務めた飯田政之氏と、読売新聞文化部で長い間クラシック音楽を担当し、2015年5月から読売日響演奏総務部長代行を務める松本良一氏が中心となり、読売日響の舞台裏を描いた興味深い本です

 

     

 

この本の成り立ちを目次で追ってみると次のようになっています

第1章 一期一会の音楽を作る

第2章 楽団員の日常生活と意見

第3章 ドキュメント・オブ・ザ・コンサート

第4章 事務局の日常と意見

第5章 読響の誕生、現在、そして未来

第6章 日本のオーケストラの課題を語る(西村朗、山田和樹他)

アンコール 好奇心を持ってコンサートホールに来てほしい(カンブルラン・インタビュー)

第1章「一期一会の音楽を作る」では、読響に馴染みの深い”カリスマ指揮者”たちを紹介しています  「楽団員から最も慕われている」と言われる名誉指揮者のユーリ・テミルカーノフについては、「彼がタクトを振ると、オーケストラは独特の鳴り方をする」という楽団員の感想を紹介しています。もう一人の名誉指揮者ゲンナジー・ロジェストヴェンスキーについては、「目線一つですべてを指図し、オケを奮い立たせるというタイプの指揮者。動きが少ないし、突拍子もなかったりする。でも不安な気配を感じると何かを示してくれる」というソロ・首席の遠藤真理さんの印象を紹介しています 2007年から第8代常任指揮者を務め 10年から桂冠名誉指揮者に就任したスタ二スラフ・スクロヴァチェフスキについては、「リハーサルでは、いつもストップウォッチを持参し、楽譜通りのテンポであるかどうかをチェックしていた 楽屋では疲れた表情をしていても、指揮台に立つと一変して生き生きとした表情になる。リハーサルが1時間以上に及んでも椅子に座りはしなかった」と紹介されています 2016年1月21日に東京芸術劇場コンサートホールで読響を指揮したブルックナー「交響曲第8番」は、この本にも書かれているように、読響の圧倒的な集中力を引き出した名演でした 詳細はコンサート翌日のブログに書きましたが、これが日本での最後の演奏会になったことは残念です

第2章「楽団員の日常と意見」では、読響のオーディションについて紹介しています まず「オーケストラはポストが空席にならないとオーディションは開かれない。その方法はオーケストラによって異なり」、読響の場合は「一次、二次の審査を突破し、試用期間を経て合格した人を採用している」とのことです 応募資格は「オーケストラ奏者としてふさわしい演奏能力と品格を持つ方」であるが、学生の場合は 師事する先生2名の推薦状が必要とのことです

具体例としてヴァイオリン奏者のオーディション(2016年1月末)のケースを 概要次のように紹介しています

「第一次審査は、読響の弦楽器奏者が審査に参加して一定の票を得た人が合格となる この時の課題曲はモーツアルトの協奏曲第3、第4、第5番いずれかの第1楽章とオーケストラ曲だった。モーツアルトを演奏すると、オーソドックスな弾き方が出来ているかどうか、音程、リズムは正確か、音楽性は豊かかといった基本的なことがすべてわかってしまう ヴァイオリンの場合だと100人前後の応募があるので一次審査に2日はかかる。オーケストラの曲というのは、様々な交響曲、管弦楽曲から難所を抜粋して演奏してもらうもので、オーケストラのプレーヤーとしてふさわしいかどうかを試す 十分なテクニックを持っていても、独りよがりで周囲と調和しない弾き方、音色だと疑問符がつく 第二次審査には、菅・打楽器を含む楽団員全員が参加し、全員投票で合格者を決定する。『該当者なし』で終わることもしばしばある。この時の課題曲は、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー、シベリウスの協奏曲いずれかの第1楽章とオーケストラ曲だった それに合格した後は、試用期間として基本的には半年、オーケストラの中で演奏してもらう。再び楽団員の全員投票によって合格と認められれば、理事長面接を経て入団決定となる 欧米では受験者の男女、人権などが一切わからないようにカーテン越しの審査が一般的である。読響もかつてカーテン審査を実施したことはあるが、現在は採用していない

楽団員は かなり厳しい条件の審査を経て採用されることが分かります   「テクニックはあっても周囲と調和しないと採用されない」というのは、一般企業の「能力はあっても周囲とうまくやっていけそうもないと採用されない」という考え方と同じですね

第3章「ドキュメント・オブ・ザ・コンサート」では、2016年10月19日にサントリーホールで開かれた読響第563回定期演奏会における指揮者カンブルラン、ソリストの五嶋みどり、楽団員、事務局の動きを追ったドキュメントです この時のプログラムは①シューベルト/ウェーベルン「6つのドイツ舞曲」、②コルンゴルト「ヴァイオリン協奏曲」、③ヨハネス・マリア・シュタウト「ヴァイオリン協奏曲”オスカー”」、④デュティユー「交響曲第2番”ル・ドゥーブル”」という難曲揃いのプログラムでした 私もこの公演を聴いています。その2日前の10月17日のリハーサルの様子も紹介されていますが、このドキュメントを読んで、あらためて、あの日の緊張感あふれる演奏の裏にはこういうことがあったのか、と感慨深いものがありました

第4章「事務局の日常と意見」では、主に「オーケストラ経営の実情」について書かれています 読響の場合、サントリーホールでの「定期演奏会」のほか名曲シリーズなど多くのコンサートを開催していますが、「定期演奏会」の場合2000席が満席になるとチケット収入は1回の演奏会当たり800万円前後になる(定期会員券分も含む)とのこと ここから必要経費として指揮者やソリストの出演料(数十万円~数百万円)、ホール使用料等(150万円)、楽器運搬費(35万円)、プログラム誌(20数万円)、チラシ製作費(10~20万円)、エキストラ人件費・・・と費用が出て行く そうすると 100人近い楽団員、30人近い事務局員のリハーサルから本番まで数日間に見合う人件費は到底賄えない さらに 指揮者やソリストを海外から招くと、渡航費、宿泊費も加算される。プロの合唱団が加わる大規模編成の楽曲だと、なおさら経費が膨れ上がる それでもオーケストラを運営出来るのは民間や国・自治体の支援があるからだ 読響の場合、読売新聞社、日本テレビ放送網、読売テレビ放送による支援金が6割を占めている。JT(日本たばこ)を母体とするアフィニス文化財団の支援、企業や個人からの協賛金や寄付などで支えてもらっているのが実情だ

・・・・・こんな具合に内容を紹介していくとキリがないので第5章は省略して、最後の「アンコール~好奇心を持ってコンサートホールに来てほしい」で常任指揮者カンブルランがインタビューに答えている中で一番共感が持てた言葉をご紹介したいと思います

「日本のオーケストラの公演を聴いた欧米の批評家の一人が、日本のオーケストラの演奏について『技術的には上手だが、音楽の自発性に欠ける』と述べていたが、どう思われるか?」という質問に対し、カンブルランは次のように語っています

「日本のオーケストラ・プレーヤーが自発性に欠けるといった意見には同意できない 読響のプレーヤーは皆、自分の音楽上の信念をしっかり持っていると思う。本番の時、彼らがすごく感動しながら弾いていることがひしひしと伝わってくる 反対にヨーロッパのオーケストラは、奏者一人一人の個性が強い分、アンサンブルの統一感を損ねているケースが少なくない それはさておき、プレーヤーの一人一人が持っている音楽観や感動みたいなものが、もっと聴衆にも目に見える形で、たとえば『とってもうれしい!』とか『踊り出したい!』とかいった風に現れてほしいと感じることはある 具体的に言えば、もっと笑顔で弾いてほしい 楽器を弾くことに集中するだけでなく、もっと体全体で音楽をやってほしい。これは日本の教育のあり方に起因することかもしれない。そもそも、日本人は強い感情をあまり表に出さない。子供の頃からそうやって育てられてきているので、急に変えるのは難しいかもしれない でも、舞台上でもっと爆発的に自らの感情を余すところなく表現できるようになれば、演奏はさらに生き生きとしたものになるだろうし、『演奏が自発性に欠ける』といった批判もなくなるのではないか

私はコンサートを聴いていて、まさにカンブルランが言われた通りのことを常々感じています ひと言でいえば「もっと笑顔で弾いてほしい」ということです。これは読響に限ったことではありませんが、読響でこれを体現しているのはソロ・ヴィオラ奏者の鈴木泰浩氏です 彼は楽しい楽曲の時は、隣の柳瀬氏に「楽しいね」と語りかけるような表情で、腰を浮かせてニコニコしながら弾いています こういう姿勢は演奏に躍動感を与え、聴衆をハッピーにします 彼がかつてベルリン・フィルの契約団員だったことも影響しているのかもしれません

この本は生身のオーケストラの実態を描いた労作です この「オーケストラ解体新書」は、生演奏を聴くことに重点を置くクラシック・ファンから、今はCDなどで聴いているが、生のコンサートを聴いてみたいという音楽ファンまで、幅広くお薦めしたい「買いたい新書」です

コメント (2)
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