10日(日)その2.よい子はその1から見てね モコタロはそちらに出演しています
昨日午後7時からサントリーホール「ブルーローズ」で、カザルス弦楽四重奏団「ベートーヴェン・サイクルⅣ~弦楽四重奏曲第5番、第10番、第12番」を聴きました これはサントリーホール チェンバーミュージック・ガーデンの一環として開かれたコンサートです
この日の共通テーマは「変奏楽章に魅せられて」です。これは分かり易いですね
1曲目は「弦楽四重奏曲第5番イ長調作品18-5」です この曲は1798年から1800年にかけて作曲され、ベートーヴェンの後援者フランツ・ヨーゼフ・フォン・ロプコヴィツ侯爵に献呈された6つの弦楽四重奏曲の一つです 6曲は第3、第1、第2、第5、第6、第4番の順に作曲されたので、4番目の作品ということになります
第1楽章「アレグロ」、第2楽章「メヌエット」、第3楽章「アンダンテ・カンタービレ」、第4楽章「アレグロ」の4楽章から成ります この作品は同じ調性のモーツアルトの「弦楽四重奏曲第18番K.464」を手本にしたと言われています。ちなみにK.464は第1楽章「アレグロ」、第2楽章「メヌエット」、第3楽章「アンダンテ」、第4楽章「アレグロ・ノン・トロッポ」となっており、極めて似通っています
初期の作品なので、第1ヴァイオリンはアベル・トマスが務めます この作品では主題と5つの変奏による第3楽章「アンダンテ」が素晴らしい演奏でした ベートーヴェンはこの作品で、弦楽四重奏曲では初めての試みとして変奏曲を取り入れましたが、この時からすでにベートーヴェンは変奏の名人だと思いました また、第4楽章ではジャジャジャジャーンの「運命の動機」っぽいリズムによる曲想が展開しますが、この曲の特徴と言えるでしょう
2曲目は弦楽四重奏第10番変ホ長調作品74「ハープ」です この曲は1809年にウィーンで作曲され、フランツ・ヨーゼフ・フォン・ロプコヴィツ侯爵に献呈されました 「ハープ」という愛称は第1楽章でたびたび現れる特徴的なピッツィカートの動機から付けられたものです
第1楽章「ポコ・アダージョ」、第2楽章「アダージョ・マ・ノン・トロッポ」、第3楽章「プレスト」、第4楽章「アレグレット・コン・ヴァリアツィオー二」の4楽章から成ります
この曲は中期の作品なので、第1ヴァイオリンがヴェラ・マルティナス・メーナーに代わります 第1楽章が開始されますが、随所にハープの愛称の元になったピッツィカートがつま弾かれ流麗な音楽が進行します 第2楽章は冒頭 ヴェラさんのヴァイオリンが繊細に美しく響きます 第3楽章のプレストはスケルツォです。ここでもジャジャジャジャーンの「運命の動機」が激しく繰り返し演奏されます 切れ目なく演奏される第4楽章は主題と6つの変奏曲です 終楽章に変奏曲が置かれたのはこの第10番だけです 4人の演奏で聴くと、やっぱりベートーヴェンは変奏曲の名人だということが分かります
さて、1曲目の第5番と2曲目の第10番「ハープ」の両曲に「運命の動機」が出てきました 時系列からみると、まず「弦楽四重奏曲第5番作品18-5」が1800年に作曲され、次に「交響曲第5番ハ短調”運命”」が1807~08年に作曲され、そして弦楽四重奏曲第10番作品74「ハープ」が1809年に作曲されたという順番になります したがって、ベートーヴェンは「作品18-5」で使った動機を「運命交響曲」に生かし、その後、その動機を再び「作品74」に取り込んだということになります これだけでも、ベートーヴェンが一つの動機をいかに有効に活用したかが分かります
ここで20分の休憩に入りますが、男子トイレが長い列です 何年か前にこのブログで「ブルックナーの交響曲のコンサートでは男子トイレに長蛇の列が出来る」という”法則”を書きましたが、最近は多くの女性がブルックナーを聴くようになってきたようで、演奏者側でも、読響の第2ヴァイオリン首席の瀧村依里さんなどはブルックナーが好きだと公言しています その代わりというわけではありませんが、「ベートーヴェンの弦楽四重奏曲のコンサートでは男子トイレに長蛇の列が出来る」という”法則”が成り立つように思います この日も、会場をざっと見渡したところ7対3くらいの割合で男性層の方が多かったように思います。これは今に始まったことではありませんが、もっと女性層が増えてもいいように思います
休憩後の3曲目は「弦楽四重奏曲第12番変ホ長調作品127」です この曲はロシア貴族ガリツィン公爵の委嘱により1823年から24年にかけてウィーンで作曲されました 後期の作品の最初の曲で、「第15番作品132」「第13番作品130」とともに同公爵に献呈されました
第1楽章「マエストーソ~アレグロ」、第2楽章「アダージョ・マ・ノン・トロッポ・エ・モルト・カンタービレ」、第3楽章「スケルツォ:ヴィヴァーチェ」、第4楽章「フィナーレ:アレグロ」の4楽章から成ります
第1ヴァイオリンのヴェラさんの合図で第1楽章が、深呼吸のような大きな動作により開始されます 第2楽章のアダージョは冒頭 ヴェラさんの静謐で美しい演奏から入り、ベートーヴェン得意の変奏に移りますが、ここではチェロを嗜んだガリツィン公爵も活躍できるように書かれた場面もあります 第3楽章の躍動感溢れる音楽を経て、第4楽章の流麗なメロディーで締めくくられます
カザルス弦楽四重奏団の演奏で ここまで11曲聴いてきたわけですが、一つの大きな特徴は、ヴェラさんが第1ヴァイオリンを務めた時の「アダージョ楽章」における静謐な演奏は特別な美しさがあるということです