15日(金)その2.よい子はその1から見てね モコタロはそちらに出演しています
昨夕、サントリーホール「ブルーローズ」で「キュッヒル・クァルテットのブラームス・ツィクルスⅡ~弦楽四重奏曲第1番、ピアノ五重奏曲」を聴きました 演奏は弦楽四重奏=キュッヒル・クァルテット、ピアノ=福間洸太朗です
ウィーン・フィルのコンマスを45年間も務めた実績を誇るライナー・キュッヒル率いる「キュッヒル・クァルテット」はOBのキュッヒルを除く全員がウィーン・フィルの現役メンバーです なお、チェロは自己都合で出演できなくなったロベルト・ノーチに代わりウィーン・フィルのエディソン・パシュコが演奏します
自席はC4列12番、センターブロック右通路側です 会場は満席に近いでしょうか
1曲目は「弦楽四重奏曲第1番ハ短調作品51-1」です この作品はヨハネス・ブラームス(1833‐97)が40歳の時=1873年に作曲されました
第1楽章「アレグロ」、第2楽章「ロマンツェ:ポコ・アダージョ」、第3楽章「アレグレット・モルト・モデラート・エ・コモド」、第4楽章「アレグロ」の4楽章から成ります
調性に注意しましょう。「ハ短調」はブラームスが長い年月をかけて苦難のうえ作曲した「交響曲第1番ハ短調作品68」と同じ調性です
4人が登場し、さっそく第1楽章が開始されます 冒頭から緊張感に満ちた曲想は 第1交響曲のように付け入る隙がない充実した音楽です
ひと言でいえば「慟哭の音楽」です
別の言葉で表現すれば「聴いていて息苦しさを感じる音楽」です
多分、ブラームスが嫌いだと言う人は、こういうところが嫌なんでしょうね
第2楽章は一転、穏やかで幸福感に溢れた音楽です
第3楽章を経て第4楽章「アレグロ」に至りますが、第1交響曲のように最後に”勝利の音楽”が待っているわけではありません。悲劇は悲劇のまま終わってしまいます
この辺がベートーヴェンと違うところでしょうか
休憩時間にトイレに行きましたが、先日のカザルス弦楽四重奏団の「ベートーヴェン・サイクル」の時とは打って変わって、女子トイレに長蛇の列ができています 思い返してみれば、この日は女性の聴衆がかなり目立っていました
ブラームスと女性が素直に結びつかなかったので よくよく考えて、次に演奏するイケメン ピアニストの福間洸太朗目当てではないか、と推測しました。これって偏見でしょうか
その後 ホワイエでコーヒーを飲みましたが、カウンター後方の壁に設置されたモニター画面に、今 大ホールで演奏されているフランクフルト放送交響楽団の演奏の模様が映し出されていて、ちょうどラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」の最終楽章が演奏されているところでした ピアニストは韓国のチョ・ソンジン、指揮はアンドレス・オロスコ・エストラーダのようです
例の爺さんは幸いにもブルーローズに来なかったので 大ホールで大きな顔をしているのだろうか、と思ったりしました
休憩後の2曲目は「ピアノ五重奏曲ヘ短調作品34」です 1862年に29歳のブラームスはこの曲を「弦楽五重奏曲」として書きましたが、その後ヨーゼフ・ヨアヒムらのアドヴァイスを受けて「2台のピアノ」用に改作し、さらに敬愛するクララ・シューマンの助言を得て「ピアノ五重奏曲」として2度目の改作を行いました
要するに、ブラームスは最後は密かに愛していたクララの意見を取り入れるのですね
でも、そのお陰で歴史的な傑作が生まれたのです
第1楽章「アレグロ・ノン・トロッポ」、第2楽章「アンダンテ、ウン・ポコ・アダージョ」、第3楽章「スケルツォ:アレグロ」、第4楽章「フィナーレ:ポコ・ソステヌート~アレグロ・ノン・トロッポ」の4楽章から成ります
イケメン・ピアニスト福間洸太朗がキュッヒル・クァルテットとともに登場し、さっそく第1楽章の演奏に入ります 何なんでしょうか、このパッションは
秘めた情熱が一気に外に向けて噴き出したような曲想です
ドラマティックな曲とはこういう作品のことを言うのだろうか
5人はその曲想の通りドラマティックな演奏に徹します
第2楽章はテンパった第1楽章の肩こりをほぐすような、ゆったりした音楽ですが、第1ヴァイオリンのキュッヒル、第2ヴァイオリンのフロシャウアーによる演奏を聴いていて、「ああ、これこそウィーン・フィルの音だ
」と心の中で叫んでいました
キラキラ輝いているというか、独特の艶があるというか、とにかくウィーン・フィルならではの音色を持っています
さて、この曲のハイライトは何と言っても第3楽章「スケルツォ:アレグロ」です ブラームスの曲の中で「スケルツォ」が一番印象に残る作品は何ですか?という質問があったら、私は躊躇なく「ピアノ五重奏曲ヘ短調」と答えるでしょう
この楽章には力強い推進力があり、喜びがあります
聴いていて「音のカタルシス」を感じます。福間のピアノと弦楽合奏との丁々発止のやり取りが見事で、聴きごたえがあります
特に素晴らしいのは、ピアノと弦楽器のリズムがズレることによって生じるダイナミズムです
そして、第4楽章の緊張感に満ちたフィナーレを迎えます
会場いっぱいの拍手とブラボーに、5人は今演奏したばかりの「ピアノ五重奏曲」の第3楽章「スケルツォ」を演奏し 再度 大きな拍手喝さいを浴びました