結局、徹は自分自身の欲情を抑えきれなかったのだ。
徹は由紀子から別れ話を持ち出された時、「時間を欲しい」と懇願した。
まるで子供があてがわれた玩具に飽きるまで、玩具を手離さないように由紀子の体を求めていたのだ。
「もう、こんなの嫌」と拒絶し、湯島のホテルの浴室に閉じこもった由紀子が咽び泣いていた。
徹は翌日、北海道へ出張する予定であった。
「もう、東京へは戻らないかもしれない」徹は唐突に言った。
「なるべきなら、戻ってきて」と由紀子は徹の手を握りしめた。
サラリーマンを辞めて、どこかの牧場で働いてみたい、と思ったのは30歳の時の北海道出張の時であった。
社内の人間関係が険悪になっていた。
労働組合を立ち上げた高坂孝造が挑むように徹に言った。
「我々に協力しないだね。内山さんは敵になるよ」元全学連の闘志を自認する
高坂は過激な思想の持ち主であった。
高坂は社内では孤立しており、上司でもあった係長の徹に何かと因縁を着けてきた。
「同族会社は困ったものだが、内山さんは会社に忠実な犬も同然!」などと嫌みをぶつけ
てきた。
高坂が立ち挙げた労働組合は結局、孤立した。
組合員は3名だった。
わずか20人余の零細企業の労働組合は、ワンマン社長の横暴さに屈して消滅する他なかったのだ。
あれから6年の歳月が流れていた。
思い出すと苦いものがあった。
再び人間関係の軋轢があった。
課長になっていた徹は、社長の義弟の部長と何かと対立する関係にあっていた。
皮肉なもので、昨年入社した部長の姪であった由紀子と徹は深い仲になってしまっていたのだ。
徹はその日、京都へ出張であった。
由紀子は大阪へ出張であった。
「私、京都は一番好きな街なの」と由紀子は言っていた。
「出張の帰りに、京都で出会えるといいね」徹は冗談のつもりで言ったのだ。
「そうね。内山さんは信頼できる人だから、京都で出会ってもいいかな」と由紀子が応じたのだ。
だが、台風が接近していて、午後5時ころから新幹線は全く動く気配がなく止まってしまった。
「これでは、帰れませんね」京都駅で由紀子と待ち合わせをしたのが、午後4時であった。
「どうしよう。私、部長に電話してきます」明らかに由紀子は動揺していた。
駅の電話に長蛇の人の列が出来ていた。
20分ほどして由紀子が戻ってきた。
「部長は京都で泊まる他ないと言うの。私どうしよう」徹にすがるような目になっていた。
「とんだハプニングになりましたね。とりあえず食事にしましょう」
徹は上司として落ち着いた態度を示した。
「内山さんとご一緒でよかったわ」タクシーに乗った由紀子は安心しきっている様子であった。
タクシーは四条河原を目指した。
昨年の出張で泊まった日本旅館も近かった。
徹は由紀子に好意を抱いていた。
「何て可愛い子なのだ」と思ったのだ。
高校生のような幼さも残っていた。
由紀子は徹が高校生の頃に憧れた体操部の青木範子に面影が似ていたのだ。
3年間、徹は平均台などで演技をする彼女を遠くから見ていただけであった。
ポニーテールの彼女が躍動する姿を今でも鮮明に思い出すことができる。
不思議なもので、青木範子は徹が中学生の時に憧れてあいた大空勝子を彷彿させた。
「そうなのか、俺は同じ面影を追っていたのか」と徹は酒の酔いが回ってきて想ったのだ。
「内山さんは、本当に美味しそうに日本酒を飲むのですね」微笑む由紀子はビールを飲んでいた。
徹は由紀子から別れ話を持ち出された時、「時間を欲しい」と懇願した。
まるで子供があてがわれた玩具に飽きるまで、玩具を手離さないように由紀子の体を求めていたのだ。
「もう、こんなの嫌」と拒絶し、湯島のホテルの浴室に閉じこもった由紀子が咽び泣いていた。
徹は翌日、北海道へ出張する予定であった。
「もう、東京へは戻らないかもしれない」徹は唐突に言った。
「なるべきなら、戻ってきて」と由紀子は徹の手を握りしめた。
サラリーマンを辞めて、どこかの牧場で働いてみたい、と思ったのは30歳の時の北海道出張の時であった。
社内の人間関係が険悪になっていた。
労働組合を立ち上げた高坂孝造が挑むように徹に言った。
「我々に協力しないだね。内山さんは敵になるよ」元全学連の闘志を自認する
高坂は過激な思想の持ち主であった。
高坂は社内では孤立しており、上司でもあった係長の徹に何かと因縁を着けてきた。
「同族会社は困ったものだが、内山さんは会社に忠実な犬も同然!」などと嫌みをぶつけ
てきた。
高坂が立ち挙げた労働組合は結局、孤立した。
組合員は3名だった。
わずか20人余の零細企業の労働組合は、ワンマン社長の横暴さに屈して消滅する他なかったのだ。
あれから6年の歳月が流れていた。
思い出すと苦いものがあった。
再び人間関係の軋轢があった。
課長になっていた徹は、社長の義弟の部長と何かと対立する関係にあっていた。
皮肉なもので、昨年入社した部長の姪であった由紀子と徹は深い仲になってしまっていたのだ。
徹はその日、京都へ出張であった。
由紀子は大阪へ出張であった。
「私、京都は一番好きな街なの」と由紀子は言っていた。
「出張の帰りに、京都で出会えるといいね」徹は冗談のつもりで言ったのだ。
「そうね。内山さんは信頼できる人だから、京都で出会ってもいいかな」と由紀子が応じたのだ。
だが、台風が接近していて、午後5時ころから新幹線は全く動く気配がなく止まってしまった。
「これでは、帰れませんね」京都駅で由紀子と待ち合わせをしたのが、午後4時であった。
「どうしよう。私、部長に電話してきます」明らかに由紀子は動揺していた。
駅の電話に長蛇の人の列が出来ていた。
20分ほどして由紀子が戻ってきた。
「部長は京都で泊まる他ないと言うの。私どうしよう」徹にすがるような目になっていた。
「とんだハプニングになりましたね。とりあえず食事にしましょう」
徹は上司として落ち着いた態度を示した。
「内山さんとご一緒でよかったわ」タクシーに乗った由紀子は安心しきっている様子であった。
タクシーは四条河原を目指した。
昨年の出張で泊まった日本旅館も近かった。
徹は由紀子に好意を抱いていた。
「何て可愛い子なのだ」と思ったのだ。
高校生のような幼さも残っていた。
由紀子は徹が高校生の頃に憧れた体操部の青木範子に面影が似ていたのだ。
3年間、徹は平均台などで演技をする彼女を遠くから見ていただけであった。
ポニーテールの彼女が躍動する姿を今でも鮮明に思い出すことができる。
不思議なもので、青木範子は徹が中学生の時に憧れてあいた大空勝子を彷彿させた。
「そうなのか、俺は同じ面影を追っていたのか」と徹は酒の酔いが回ってきて想ったのだ。
「内山さんは、本当に美味しそうに日本酒を飲むのですね」微笑む由紀子はビールを飲んでいた。