農業者の減少・高齢化等に直面している我が国の農業が、成長産業として持続的に発展していくためには、効率的かつ安定的な農業経営を目指す担い手の育成・確保が必要です。
本節では、農業経営体の動向、認定農業者制度や法人化、家族経営支援のほか、経営継承・新規就農、女性が活躍できる環境整備等の取組について紹介します。
(1)農業経営体等の動向
(農業経営体数は減少傾向で推移)
農業経営体数については減少傾向で推移しており、令和5(2023)年は前年に比べ4.7%減少し92万9千経営体となりました(図表3-2-1)。
このうち個人経営体は前年に比べ5.0%減少し88万9千経営体(全体の95.6%)となった一方、団体経営体は前年に比べ1.5%増加し4万1千経営体(全体の4.4%)となっています。
なお、個人経営体のうち、主業経営体は19万1千経営体、準主業経営体は11万6千経営体、副業的経営体は58万2千経営体となっています。
(基幹的農業従事者数は約20年間で半減)
基幹的農業従事者(*1)数は約20年間で半減しており、平成12(2000)年の240万人から令和5(2023)年は116万4千人にまで減少しています(図表3-2-2)。このうち49歳以下の基幹的農業従事者数は13万3千人と全体の約1割を占めている一方、65歳以上は82万3千人と全体の約7割を占めています。また、令和5(2023)年の基幹的農業従事者の平均年齢は68.7歳となっており、高齢化が進行しています。
*1 特集第2節を参照
(2)認定農業者制度や法人化等を通じた経営発展の後押し
(農業経営体に占める認定農業者の割合は23.7%に増加)
認定農業者制度は、農業者が経営の改善を進めるために作成した農業経営改善計画を市町村等が認定する制度です。同計画の認定数(認定農業者数)については、令和4(2022)年度は前年度に比べ1.1%減少し22万経営体となった一方、農業経営体に占める認定農業者の割合については、令和4(2022)年度は前年度から0.8ポイント増加し23.7%となっています(図表3-2-3)。このうち法人経営体の認定数については一貫して増加しており、令和4(2022)年度は前年度に比べ2.7%増加し2万9千経営体となり、法人経営体に占める認定農業者の割合は87.0%となっています。
農林水産省では、認定農業者が同計画を達成できるよう農地の集積・集約化や経営所得安定対策等の支援措置を講じています。
(農業法人の大規模化が進展)
農業経営の法人化には、経営管理の高度化や安定的な雇用、円滑な経営継承、雇用による就農機会の拡大等の利点があります。令和5(2023)年の法人経営体数は前年から2.5%増加し3万3千経営体となりました(図表3-2-4)。農業生産に占める法人経営体等の団体経営体のシェアは年々拡大しており、令和2(2020)年は農産物販売金額の37.9%、経営耕地面積の23.4%を占めています。
都府県における経営耕地面積規模別の経営体数については、平成12(2000)年以降、5ha未満の経営体数は減少する一方、10ha以上の経営体数は一貫して増加しています(図表3-2-5)。特に大規模層ほど法人経営体が占める割合が増加しており、30ha以上の経営体では平成27(2015)年に50.0%であった法人経営体の割合は令和2(2020)年には60.0%に拡大しています。離農した経営体の農地の受け皿となることにより、農業法人の大規模化が進展している様子がうかがわれます。
農林水産省では、農業経営の法人化を進めるため、都道府県が整備している農業経営・就農支援センターによる経営相談や、専門家による助言等を通じた支援を行っています。
(事例)中山間地の農地保全と採算性を両立した大規模農業経営を展開(新潟県)
集積した農地での営農
冬期のハウス栽培
新潟県上越市(じょうえつし)の有限会社グリーンファーム清里(きよさと)では、中山間地の農地保全という社会的使命と経営体としての採算性を両立した大規模な農業経営を展開しています。
山深い清里(きよさと)地区において平成5(1993)年に設立された同社は、離農者や農作業の委託を希望する者が増加する中、「郷土の農地を守る」との経営理念を掲げ、積極的に農地を引き受けて耕作放棄地の拡大を防止しています。また、集積した農地で効率的な農業を展開しており、令和5(2023)年産では165haの水稲生産を行っています。
一方、同社は、農地を徐々に引き受けてきた結果、自社のみの営農では限界があると判断し、経営規模の無秩序な拡大を回避しています。そのため、近隣地域の集落に呼び掛けて五つの集落法人を立ち上げ、法人同士で農作業の相互協力、農地利用調整、共同販売を行う基盤を構築しています。
くわえて、同社では、中山間地の豪雪地帯にある営農環境を踏まえ、冬期は水稲育苗ハウスでアスパラ菜等の栽培に取り組み、周辺住民に宅配販売しているほか、歩道等の除雪作業の受託等により、従業員の周年雇用と地域貢献を両立しています。
さらに、経営の多角化・複合化を図るため、ワイン用ぶどうの栽培や繁殖和牛の飼育等も進めています。
今後とも女性を含めた若者の雇用を創出し、収益性の高い農業経営を実践することにより、地域農業の発展に貢献していくこととしています。
(集落営農組織の法人化が進展)
集落営農組織は、地域農業の担い手として農地の利用、農業生産基盤の維持に貢献しています。令和5(2023)年の集落営農組織数は前年に比べ137組織減少し1万4,227組織となりました(図表3-2-6)。一方、法人化した集落営農組織数は年々増加しており、任意組織(法人化していない組織)よりも組織基盤が強固な法人が着実に増えています。
農林水産省では、集落営農組織に対し、法人化のほか、機械の共同利用や人材の確保につながる広域化、高収益作物の導入といった各々の状況に応じた取組を促進し、人材の確保や収益力向上、組織体制の強化、効率的な生産体制の確立を支援していくこととしています。
(雇用労働力の確保等の経営発展に向けた課題に対応する必要)
農業における就業者数のうち雇用者数については、平成12(2000)年の30万人から令和5(2023)年は55万人にまで増加しています(図表3-2-7)。
一方、国内の生産年齢人口が今後大幅に減少していくことが避けられない状況において、各産業で人材獲得競争が激化することが見込まれます。
農林漁業の有効求人倍率については、平成26(2014)年以降は1.0倍を超過するなど、人手不足の状況が継続しています(図表3-2-8)。
離農の進行が見られる中、農地等の受け皿となる経営体の多くは、雇用労働力が確保できなければ農業経営を拡大していくことは難しい状況にあります。今後、農業分野で雇用労働力の継続的な確保が課題となる中、食料安全保障の観点からも、雇用労働力の確保に関する施策を講じていくことが重要となっています。
農林水産省では、農業における労働力不足を解消するため、国内外からの人材の受入体制整備、呼び込み・確保、育成までを一体的に支援することとしています。また、就労条件の改善や他産地・他産業との連携等による労働力確保のための支援を行っています。
(農業法人の財務基盤は他産業と比べて脆弱な状況)
農業法人の経営状況については、売上高の減少に対する耐性を示す指標である損益分岐点比率が過半の部門で90%を超えており、概して売上高の減少に対する耐性が低くなっています(図表3-2-9)。また、中長期的な財務の安全性を示す指標の一つである自己資本比率はおおむね30%を下回っている一方、借入金依存度は50%を上回る水準となっています。
経営規模や産業特性の異なる、他産業の中規模企業と一概に比較することはできませんが、農業法人については、総じて、債務超過となるリスクが高く、財務基盤が脆弱(ぜいじゃく)であるといった実態にあることがうかがわれます。このため、農業経営の改善を進めるなど、経営基盤の強化を図っていくことが求められています。
(農業者の経営管理の向上に向けた努力が重要)
適正な価格形成、環境負荷低減等の持続可能な農業の取組に向けては、生産コストの実態を消費者まで伝達することが必要です。そのためには、農業者による経営管理能力の向上に向けた取組の強化が必要となっています。
農林水産省では、適正な価格形成を通じた経営発展・経営基盤の強化の観点から、原価管理を含めた農業者の経営管理能力の向上等を促進する施策を実施することとしています。
くわえて、雇用確保や事業拡大、環境負荷低減や生産性向上のための新技術の導入等の様々な経営課題に対応できる人材の育成・確保を図るため、農業者のリ・スキリング(*1)等を推進することとしています。
このほか、各都道府県においても、営農しながら体系的に経営を学ぶ場として農業経営塾を開講する取組等により、農業者に対する研修機会の提供に取り組んでいます。
*1 職業能力の再開発・再教育のこと
(コラム)農業における「経営力」を養成するオンラインスクールが始動
AFJ日本農業経営大学校(にほんのうぎょうけいえいだいがっこう)を運営する一般社団法人アグリフューチャージャパンでは、農業における「経営力」を養成するオンラインスクールを、令和5(2023)年6月に開講しました。
農業を取り巻く情勢が大きく変化する中、長期にわたって経営の持続性を確保していくためには、事業開発やマーケティング等の経営技術を養うことが重要となっています。
このため、同法人では、農業経営を志す人々を対象に、現場で働きながら学べるオンラインスクールを開講し、経営理論に基づく戦略的思考やノウハウを習得できるカリキュラムを設け、多様な農業の実現に向けた取組を後押ししています。
例えば次のステージの経営を目指す農業者等を対象とした「経営マスターコース」のカリキュラムは、「経営戦略」、「マーケティング」、「マネジメント」、「ファイナンス」の四つの領域から構成されており、農業の産業特性を踏まえながら、ヒト・モノ・カネに関する知識やスキルを体系的に習得できるよう工夫されています。
令和5(2023)年度は、農業経営者や後継者、独立を目指す法人従業員等約150人の受講者が、農業経営者として求められる判断力や各種スキル・ノウハウを学び、身に付けています。
今後は、アグリビジネス分野において、新たな価値を創出し、変革を起こす人材を育成する「イノベーター養成アカデミー」を令和6(2024)年4月に開講することとしており、次世代の農業経営者の育成に向けて精力的に活動を展開していくこととしています。
(農業者年金の被保険者数は減少傾向で推移)
農業者年金は、農業従事者のうち厚生年金に加入していない自営農業に従事する個人が任意で加入できる年金制度です。同制度においては農業者の減少・高齢化等に対応した積立方式・確定拠出型が採用されており、農林水産省では、青色申告を行っている認定農業者等やその者と家族経営協定を結び経営参画している配偶者・後継者等一定の要件を満たす対象者の保険料負担を軽減するための政策支援を実施し、農業者の老後生活の安定と農業者の確保を図っています。
農業者年金の被保険者数については減少傾向で推移しており、令和4(2022)年度は前年度に比べ614人減少し4万4,576人となっています(図表3-2-10)。一方、受給権者数については増加傾向で推移しており、令和4(2022)年度は前年度に比べ1,861人増加し5万5,376人となっています。
年金等を給付する事業を実施している独立行政法人農業者年金基金(のうぎょうしゃねんきんききん)では、若者や女性の加入拡大に向け、推進活動を実施しています。
(3)経営継承や新規就農、人材育成・確保等
(約7割の経営体が「後継者を確保していない」と回答)
5年以内の後継者の確保状況については、約7割の経営体が「確保していない」と回答しています(図表3-2-11)。農地はもとより、農地以外の施設等の経営資源や、技術・ノウハウ等を次世代の経営者に引き継ぎ、計画的な経営継承を促進することが必要となっています。
農林水産省は、将来にわたって地域の農地利用等を担う経営体を確保するため、地域の担い手から経営を継承した後継者が行う経営発展に向けた取組を市町村と一体となって支援するとともに、都道府県が整備している農業経営・就農支援センターにおいて相談対応や専門家による経営継承計画の策定支援、就農希望者と経営移譲希望者とのマッチングを行うなど、円滑な経営継承を進めています。
(新規就農者数が前年に比べ減少)
令和4(2022)年の新規就農者数は、前年に比べ12.3%減少し4万5,840人となりました(図表3-2-12)。この要因としては、新型コロナウイルス感染症の影響により落ち込んでいた雇用が回復した影響等によって他産業からの就農者が減少したこと等が考えられます。
年齢階層別では、60~64歳の新規就農者数は、前年に比べ30.8%減少し6,750人となりました。また、将来の担い手として期待される49歳以下の新規就農者数は、近年1万8千人前後で推移していましたが、令和4(2022)年は前年に比べ8.4%減少し1万6,870人となりました。さらに、49歳以下の新規就農者数のうち新規雇用就農者の割合は、令和4(2022)年には新規自営農業就農者(38.5%)を上回る45.7%を占めており、新規就農者の受け皿としても法人経営体の役割が大きくなっています。
就農形態別では、令和4(2022)年の新規自営農業就農者は前年に比べ14.9%減少し3万1,400人、新規雇用就農者は前年に比べ8.6%減少し1万570人、新規参入者は前年に比べ1.0%増加し3,870人となりました。
農業者の減少・高齢化が進む中、地域農業を持続的に発展させていくためには、農業の内外から若年層の新規就農を促進する必要があります。
このため、農林水産省では、農業への人材の一層の呼び込みと定着を図るため、就農相談会の開催や、職業としての農業の魅力の発信等について支援を行っています。また、就農準備段階や就農直後の経営確立を支援する資金や雇用就農を促進するための資金の交付に加え、経営発展のための機械・施設等の導入を地方と連携して親元就農も含めて支援するとともに、伴走機関等による研修向け農場の整備、新規就農者への技術サポート等の取組を支援しています。
このほか、農業経営基盤強化促進法に基づき、青年等就農計画を作成し市町村から計画の認定を受けた認定新規就農者は、令和4(2022)年度は前年度に比べ2.3%増加し1万806人となりました。農林水産省では、将来において効率的かつ安定的な農業経営の担い手に発展するような青年等の就農を促進するため、新規就農施策を重点的に支援しています。
(事例)新規就農の育成支援を受け、夫婦二人で楽しむ農業を実践(宮崎県)
宮崎県川南町(かわみなみちょう)に移住した保坂政孝(ほさかまさたか)さん・美幸(みゆき)さん夫妻は、新規就農者の育成サポートを受け、ピーマン農家として独立後、夫婦二人の時間を大切にしながら、二人で楽しむ農業を実践しています。
保坂さん夫妻は福岡県内で勤務していましたが、夫婦二人の時間が持てない生活を変えたいとの思いを抱えていました。そのような中、宮崎県の移住相談窓口を訪れた際に、同町の農業研修生への応募を勧められ、受入体制や支援制度が充実していたことに加え、自然豊かな環境や農業に魅力を感じたことから、夫婦二人で応募を決めました。
平成30(2018)年7月~令和2(2020)年6月の2年間にわたって研修施設で実践研修等を受講し、農業機械の取扱いや農作物栽培の基礎のほか、独立に向けた模擬経営研修等の実践的な知識等を習得しました。
また、独立に向けては、自ら農地を探す必要はなく、リース事業の支援を受けて新設されたハウスを取得できたほか、各種補助金の情報提供や運転資金の無利子融資等のサポートを受け、経営開始の準備を進めました。
令和2(2020)年7月に独立した後は、尾鈴(おすず)農業協同組合(以下「JA尾鈴」という。)のピーマン部会に所属し、研修時から指導を受けているベテラン農業者やJA尾鈴の指導員、ピーマン部会員等から巡回指導を受けながら、8月後半に苗を植え、10月から翌年6月まで収穫を行う日々を過ごしています。令和5(2023)年は20aのハウスでピーマンを栽培していますが、宮崎県(みやざきけん)経済農業協同組合連合会との契約栽培により、就農1年目から市場よりも安定した単価で出荷できるため、目安となる目標(20a規模で1,000万円)を上回る売上高を実現しています。
保坂さん夫妻は、経験を積み重ねる中でピーマン栽培への自信を深めており、今後とも地域の人々とのつながりやコミュニケーションを大切にするとともに、二人の時間を大切にしながら、楽しんで農業を続けていくこととしています。
(農業高校・農業大学校による意欲的な取組が進展)
農業経営の担い手を養成する農業高校は全ての都道府県、農業大学校は41道府県において設置されています。
このうち農業大学校の卒業生数については、平成26(2014)年度以降はほぼ横ばいで推移しており、令和4(2022)年度の卒業生数は1,735人、卒業後に就農した者は935人(卒業生全体の53.9%)となっています(図表3-2-13)。このほか、同年度の卒業生全体に占める自営就農の割合は14.3%、雇用就農の割合は34.1%となりました。
また、近年、GAP(*1)(農業生産工程管理)に取り組む農業高校・農業大学校も増加しており、令和5(2023)年3月末時点で111の農業高校、31の農業大学校が第三者機関によるGAP認証を取得しています。GAPの学習・実践を通じて、農業生産技術の習得に加えて、経営感覚・国際感覚を兼ね備えた人材の育成に資することが期待されています。
農林水産省では、若年層に農業の魅力を伝え、将来的に農業を職業として選択する人材を育成するため、スマート農業や有機農業等の教育カリキュラムの強化のほか、地域の先進的な農業経営者による出前授業等の活動を支援しています。
(事例)全国で初めて農業大学校生が構成員となる法人を設立(山口県)
山口県防府市(ほうふし)の山口県立農業大学校では、全国で初めての取組として、農業大学校生が構成員となる法人を設立・登記し、学修カリキュラムにおいて農産物販売や新商品開発の事業に取り組んでいます。
同校では、令和5(2023)年4月に、米や麦等の生産や経営について学ぶ「土地利用学科」を新設し、ドローン等の先端技術を導入したスマート農業の授業を強化しています。また、同校と県の農業試験場、林業指導センターを統合した「農林業の知と技の拠点」を整備し、即戦力となる人材の育成や、先端技術開発の加速化のほか、生産から加工、販売まで手掛ける6次産業化の支援も行っています。
このような中、同校では、法人経営に必要な経営管理能力やビジネス感覚を身に付けるとともに、事業計画の決定プロセスや、会計・決算、経営責任等を実体験として学修できるフィールドとして、同年7月に「一般社団法人やまぐち農大(のうだい)」を設立しました。
同法人は、同校の全学生を構成員とし、農産物販売や新商品開発の事業に取り組むこととしています。同年度においては、新設された会社経営論等の学修カリキュラムに基づき、設立登記事務や青果物の販売実習に取り組み、同校等で生産された野菜・果実等の農産物や加工品等の仕入れ販売を行ったほか、交流イベント等を実施しました。
今後は、県内企業と連携して、若者視点に立ったアイデアや発想による6次産業化商品の開発に向けた検討を進めていくこととしています。
(4)女性が活躍できる環境整備
(女性の認定農業者数は前年度に比べ1.5%増加し1万2千経営体)
令和5(2023)年における女性の基幹的農業従事者数は、前年に比べ5.9%減少し45万2千人となりました(図表3-2-14)。女性の基幹的農業従事者は全体の38.8%を占めており、重要な担い手となっています。
令和4(2022)年度における女性の認定農業者数は、前年度に比べ1.5%増加し1万2千経営体となりました(図表3-2-15)。また、全体の認定農業者に占める女性の割合については、令和4(2022)年度は前年度に比べ0.1ポイント増加し5.3%となりました。
認定農業者制度には、家族経営協定等を締結している夫婦による共同申請が認められており、その認定数は5,841経営体となっています。
(女性が継続して経営参画している経営体は経営規模が大きく経営の多角化も進展)
女性の農業経営への参画動向について見ると、女性が継続して経営参画している経営体は、参画していない経営体に比べ販売金額規模や経営規模が大きいほか、経営の多角化や農業後継者の確保が進展していることがうかがわれます(図表3-2-16)。
一方で、女性が経営参画しなくなった経営体は、経営規模が小さいほか、経営の多角化や農業後継者の確保が進展していないことがうかがわれます。
(農業委員、農協役員、土地改良区等理事に占める女性の割合は増加)
農業委員会等に関する法律及び農業協同組合法においては、農業委員や農協理事等の年齢や性別に著しい偏りが生じないように配慮しなければならないことが規定されています。
農業委員や農協役員、土地改良区(土地改良区連合を含む。)理事に占める女性の割合については増加傾向で推移しており、令和4(2022)年度の農業委員に占める女性の割合は、前年度に比べ0.2ポイント増加し12.6%に、令和5(2023)年度の農協役員に占める女性の割合は前年度に比べ1.0ポイント増加し10.6%に、令和4(2022)年度の土地改良区等理事に占める女性の割合は前年度に比べ0.2ポイント増加し0.8%になりました(図表3-2-17)。
農林水産省では、「女性登用の意識醸成に向けて~農協の女性員外監事の活躍事例~」の公表、「土地改良団体における男女共同参画事例」の充実化等を通じて、女性登用の更なる推進に取り組んでいます。
(女性が働きやすく暮らしやすい環境を整備する必要)
農村においては、依然として、家事や育児は女性の仕事であると認識され、男性に比べ負担が重い傾向が残っています。
総務省の調査によると、令和3(2021)年における女性の農林漁業従事者の1日(週全体平均)の家事と育児の合計時間は2時間57分で、男性の26分に比べ長くなっています(図表3-2-18)。
男性・女性が家事、育児、介護等と農業への従事を分担できるような環境を整備することは、女性がより働きやすく、暮らしやすい農業・農村をつくるために不可欠です。そのためには、家事や育児、介護は女性の仕事であるとの意識を改革し、女性の活躍に関する周囲の理解を促進する必要があります。
(事例)地域の女性や若者から選ばれる職場づくりを推進(愛媛県)
愛媛県伊方町(いかたちょう)の農業法人である株式会社ニュウズでは、女性経営者のリーダーシップの下、地域の女性や若者から選ばれる職場づくりを推進しています。
同社は、12.6haの園地で、うんしゅうみかんや清見(きよみ)等の作期の異なる17品種のかんきつを栽培しており、通年出荷のほか、6次産業化や台湾への輸出等にも取り組み、先進的な経営を展開しています。
同社は、「本氣(ほんき)のみかんで幸せを届ける」ことを経営理念に掲げ、その実現に向けて「社員満足を追求し、将来の夢が語り合える会社」となるよう、スタッフが成長できる組織づくりや各スタッフのライフプランに合った働き方を可能にする取組を実践しています。
組織づくりに当たっては、採用の工夫から始め、繁忙期の勤務実態を示した上で、会社のビジョンに共感を持った人材を採用しています。また、定期的な個人面談や評価制度の導入により、各スタッフの夢や目標を実現するための会社のサポート体制や本人のアクションプランを確認しているほか、スタッフが設定した個人目標の達成度を評価して賞与や昇給を決定するなど、スタッフと組織の双方の成長を実現しています。
また、女性スタッフのライフスタイルが変化しても仕事を継続できるよう、配置転換や勤務形態の変更を柔軟に行うほか、個々の作業の見直しにも着手し、作業工程や収支等のデータの把握や業務の「見える化」を行い、業務改善や効率化を推進しています。
このような経営改革の推進により、地域の女性や若者から選ばれる職場として、雇用機会が少ない半島地域における雇用の創出に寄与しています。今後は「愛媛(えひめ)みかん」の可能性を広げるため、女性経営者としての目線も活かしながら、栽培面積の更なる拡大や生産技術の向上、加工品の開発等を推進していくこととしています。
農林水産省では、労働に見合った報酬や収益の配分、仕事や家事、育児、介護等の役割分担、休日等について家族で話し合い、明確化する取組である家族経営協定の締結を推進しています。
また、農業経営における共同経営者としての女性の地位・責任を明確化するため、農業経営改善計画における共同申請を推進しています。
さらに、農業において女性が働きやすい環境整備に向けて、農業法人等における男女別トイレ、更衣室、託児スペース等の確保に対する支援を行っています。
(地域をリードする女性農業者の育成と農村の意識改革が必要)
令和5(2023)年における女性の経営への参画状況を見ると、経営主が女性の個人経営体は個人経営体全体の6.5%、経営主が男性だが、女性が経営方針の決定に参画している個人経営体の割合は24.1%となっており、女性が経営に関与する個人経営体は全体の30.7%となっています(図表3-2-19)。
今後の農業の発展、地域経済の活性化のためには、女性の農業経営への参画を推進し、地域農業の方針策定にも参画する女性リーダーを育成していくことが必要です。あわせて、女性活躍の意義について、男性も含めた地域での意識改革を行うことにより、女性農業者の活躍を後押ししていくことが重要です。
これまで農村を支えてきた女性農業者が直面してきた、生活・経営面での悩みや解決策といった過去の知見や経験を新しい世代に伝えることや、学びの場となるグループを作り、ネットワーク化することは女性農業者の更なる育成に有効と言えます。また、女性農業者が持つ視点を活用し、消費者や教育機関といった農業者の枠を超えた者とのネットワークの形成を進めることも期待されています。
このように活動の幅を更に広げていくことは、農業・農村に新しい視点をもたらすとともに、女性農業者の農業・農村での存在感の向上にもつながるものと考えられます。
このため、農林水産省は、地域のリーダーとなり得る女性農業経営者の育成、女性グループの活動支援、家族経営協定の締結や地域における育児・農作業のサポート活動等の女性が働きやすい環境づくり、女性農業者の活躍事例の普及等の取組を支援しています。また、令和5(2023)年10月には、女性リーダーの育成や農村地域の男性の意識改革を促すこと等を狙いとして、女性農業委員の地域での活動等を紹介する動画を公表し、都道府県等における研修での活用を促しました。
(「農業女子プロジェクト」が設立10周年を迎え、多様な活動を展開)
「農業女子プロジェクト」は、社会全体での女性農業者の存在感を高め、女性農業者自らの意識改革や経営力発展を促すとともに、職業としての農業を選択する若手女性の増加を図ることを目指し、多様な活動を展開しています。
平成25(2013)年に設立された同プロジェクトは、令和5(2023)年に設立10周年を迎えました。設立当時37人だったメンバーは1千人を超え、地域・世代を超えた全国レベルでの女性ネットワークに成長しました。参画企業や教育機関も徐々に拡大し、メンバーとの協同による商品・サービスの開発や未来の農業女子を育む活動といった多彩な取組が実施されています。
また、農業女子プロジェクト10周年記念として、女性が活躍する姿をさらに知ってもらうため、同年11月に、一般消費者とメンバーとの交流イベントを開催するとともに、特設Webサイト「わたしたちの未来への種まき」を開設し、女性農業者に出会える全国各地のイベントや女性農業者の未来への想いを紹介する動画を公開しました。
ぜひ取材してください。