相手は、利根輪太郎の競輪人生で初めて出会った最悪な男であった。
以前も記したが、男の最初の出会いは取手駅西口駅ビルの入口であった。
相手は、利根輪太郎を見て「あんたとは、相性が合いそうだな。酒でも飲むか」不敵な笑いである。
むき出しの口元の前歯が数本欠損していた。
角刈りであり、もろヤクザな男の風貌である。
輪太郎は、「この男は危ない」と直観してから黙してすれ違う。
だが、次にその男は取手競輪場で出会うと付きまとうのだ。
驚くことに、松戸競輪場でも男は輪太郎を探し回っていた。
刑務所帰りで、現在は保護観察の身であることを男は明かすのだ。
「刑務所に2度入ったけど、3度目は御免だ。団体生活は嫌だな、刑務所には戻りたくない」男は顔をしかめて気持ちを打ち明ける。
だが、輪太郎はそんな男に酒をご馳走する。
「酒が飲めないのが、一番辛いな。あんたなら分かるだろう」男は酒を目当てに、輪太郎にまとわりつくのだ。
全部で、5度も輪太郎は酒を男に提供する。
愚かにも、1000円が入金されたスイカカードを2度も男に渡すのだ。
輪太郎は、結局、300円の指定席逃れた。
その回数30回、つまり9000円も浪費する。
また、食堂の「さかえや」へ逃れるのだ。