牛田家から逃れた鶴子は、義母と下女の幸恵のはからいで一時、幸恵の実家の諏訪の村で住むこととなった。
諏訪は江戸時代、高島藩の城下町であった。明治4年(1871年)の廃藩置県により高島県となり、その後、筑摩県を経て長野県に編入された。
諏訪は北西側を諏訪湖に接し、西部、東部を山地に挟まれ、南側には茅野市、富士見高原を望む、諏訪盆地のほぼ中央に位置する。
諏訪湖へ向かう幾本かの河川の間に田畑、住宅地が広がっている。
赤沼、中洲といった地名が表すように、古くは沼だったり、もしくは諏訪湖が最大面積であったときに水中だった場所も多く、地盤は全体的にゆるとされる。
北八ヶ岳にある山の1つ茶臼山(ちゃうすやま)は、標高は2,384m。
鶴子は、田圃の畦道から見る山並みに心を和ませるとともに、「どこか新天地に羽ばたこう」と決意する。
義理の妹の信子が読んでいた吉屋信子の小説を街の書店で求めて読んでみた。
買い求めたのは「返らぬ日」吉屋信子の少女小説であり、女学生の哀歓を描き切った、『花物語』の姉妹編ともいうべき初期作品集。
人生の荒波を前に少女はいつまで幸せでいられるだろう?少女の日の哀愁とユーモアに満ちた幻の傑作とされる。
返らぬ日は、カトリック系女学校の寄宿舎を舞台に、国際的な街・上海生まれで洋装断髪のかつみと、老舗の妾腹で日本人形のように麗しい弥生の健常者ではない思いの始まりから終わりまでを描いた中篇。
結婚する少女を待ちうけているのは、服従と従順と義務と責任。その上で男への快楽を与えなければならない義務を負う。
「女の自立」を示唆さられる思いがした鶴子は東京への旅立ちへ向けて、準備する。
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