相次いで発覚した米兵性暴力事件(前編)
- 2024年7月17日
沖縄県内では、6月25日にアメリカ空軍の兵士が少女に性的暴行をしたなどとして起訴されていたことが明らかになったのをはじめ、女性への性暴力事件について、報道されるまで政府から県に連絡がないケースが相次ぎました。
事態を把握していた外務省や沖縄県警がすぐに県に報告しなかった理由として強調したのが“被害者のプライバシーの保護”でした。
この対応については、県や地元自治体に連絡がなければ、地域や関係機関がすみやかに対策を取ることができないとして批判が高まりました。
沖縄でアメリカ軍関係者によって繰り返されている性暴力事件とその後の対応について専門家はどう受け止めているのか。
次の被害者を生まないためにと性犯罪の記録をまとめ続けてきた、女性史研究家・宮城晴美さんへのインタビューを2回にわたってお伝えします。
宮城晴美さん
1949年生まれ。沖縄女性史家。沖縄県史編集委員会委員として『沖縄県史』の執筆、編集に携わる。沖縄大、琉球大、沖縄国際大で非常勤講師を10年務める。
また、正しく伝えられなかった
写真は、宮城晴美さんが制作の中心となり、県内の市民団体が去年完成させた「米兵による女性への性犯罪」をまとめた年表です。様々な記録から情報を集め、1996年の初版から改訂を重ね去年13版を発行しました。
沖縄戦でアメリカ軍が上陸した1945年から2021年までに県内各地で発生し た約1000件がまとめられています。
埋もれていた記録の発掘や、新たな事件の発生により、掲載される件数は版を重ねるごとに増え続けています。
長年、アメリカ軍関係者による沖縄の女性への性犯罪と向き合ってきた立場として、宮城さんは事件について強い憤りを感じつつ、政府や県警の対応は意外ではないと話します。
やはりこれだけこうアメリカ軍基地が沖縄に集中する中で、こういった事件っていうのは必然として起こっていますので、ずっと記録してきた人間からすれば、とにかく許せない。許せないのはやはりもちろん加害者もそうですし、沖縄の女性を取り巻く環境、これも絶対許していけないと思っています 。
私自身、今回のニュースは新聞社から電話があって、初めて分かったのですが、「またか」っていう気持ちになったんですね。それは、警察とか政府が公表しないことに対する「またか」という思いですね。沖縄戦のアメリカ軍の上陸から現在まで、性犯罪についてずっとこれまで記録してきて、その中でも迷宮入りであったり、処罰がされてなかったり、あるいは県警の発表と私たちが調べた犯罪の件数が違ったりすることは多々ありました。アメリカ軍の事件が正しく知らされないということが戦後ずっとあったので、今回のことも「またなんだな」って。
“プライバシー保護”にどう向き合うのか
アメリカ軍関係者による犯罪が後を絶たない中、県民に広く伝えて次の犯罪防止につなげる「公益性」と、被害者の「プライバシー保護」のバランスが難しい課題となっています。今回宮城さんは「プライバシーの保護が何よりも大切」という立場ですが、再発防止に向けた対策をとる機会が失われた事態を重く受け止めていました。
「プライバシーの保護」ということばを出せばすべて許される。そして国民もそうなんだっていうふうに納得する。このこと自体を私は非常に危険だと思っています。「プライバシーの保護」は当たり前のことで、その上で(政府や県警は)少なくともまずは沖縄県には連絡するべきだったと思います。そうすると沖縄県は県なりに、もう二度とこの問題が起こらないように対策を考えられるわけですよね。今回はその権利すら奪ってしまった。
また、政府や県警は、事件を公表しないのであれば、できる限りの対策を練るべきです。政府として公表しなかった理由として、「裏でこれだけ解決に向けて対策を考えてきました」という具体的な提案がなされたのであれば、「なるほど」と納得できることもあるかもしれません。けれども、ただ在日アメリカ大使館に対して綱紀粛正を求めて抗議をしたという、それだけでは意味をなしませんよということなんですね。
ー 一方で、情報が公開されることで二次的被害を恐れる被害者も多いのではないですか?
被害者を守るというのは私たちにも問われていることなんですね。女性がレイプされると、被害者女性に非があるというふうにどうしても結びつけてしまうところが、いまの社会にはあると思います。でも絶対そうじゃないんだと。いつ誰の身に起こってもおかしくない、そういう問題なんだということを私たち一般市民が理解していかないと、被害者を封じ込んでいくことになります。だから被害者を救うためにも、被害者には全く罪はない。100%加害者が悪いっていうことを、私たちが受け入れないといけないのです。
ー 被害者のプライバシーを守りながら公表するうえで、注意すべきことは何ですか?
今回の事件でとても考えさせられたのは、「プライバシーを守る」ということばが被害者を封じ込めてしまっているのではないかということです。本当は被害者の心のケアが最も大切なんですけれど、今回のこの封じ込み方を見ていますと、政府や県警が被害者に対して、どのようなケアを行っているかという“対策”が全く見えませんよね。そうすると、同じように性暴力にあった被害者も追い込むことにつながるんじゃないかと思いました。
事件を公表したことで、もちろん過去には二次被害・三次被害を焚きつけるようなこともありましたけれど、だからといってみんながみんなそういうふうにプライバシーが暴かれたわけじゃないんです。ですから、政府も沖縄県も「今後こういうふうにやっていきます」という具体的な方向性を出せるような、そういう事前のお互いの約束、取り組みをした上で、県民に対してこういった事件があったと伝えるなど、プライバシーを守りながら伝えることはできると思います。
↓後編はこちらから↓
なぜ“伝わらなかった”のか ~相次ぎ発覚 米兵性暴力事件~
【NHKプラス】
7月19日(金)午後7時57分まで 2週間配信
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます