1.トクリュウを可視化せよ~令和6年版警察白書を読み解く
警察庁は、令和6年版の警察白書を公表し、治安上の新たな脅威となっている「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」の摘発人数などの統計を明らかにしています。
特殊詐欺に加え、強盗や窃盗、性風俗店のスカウト、オンラインカジノの経営などトクリュウが関係する犯罪が多様化し関係者の危機感も強いものがありますが、トクリュウの資金獲得犯罪がまとめられたのは初めてとなります。
白書ではトクリュウが特集され、特徴について従来型の暴力団とは一線を画した新型の犯罪組織、資金獲得が目的、収益を吸い上げる中核部分を匿名化、SNSなどで緩やかに結びついたメンバーが役割を細分化。
メンバーを入れ替えながら犯行を繰り返すなどと定義、警察庁は今年度から、暴力団対策と同様、事件がトクリュウによるものかを都道府県警が認定する仕組みを導入。
2024年4~6月に全国で1531人を摘発、詐欺や窃盗など主な「資金獲得型」犯罪によるトクリュウの摘発は計824人(内訳は、詐欺452人、窃盗163人、薬物事犯138人、強盗54人など)、これとは別に少なくとも645人(内訳は、銀行口座の売買といった犯罪収益移転防止法違反は518人、組織的犯罪処罰法違反38人や賭博35人、恐喝26人など)があげられています。
なお、このうち3割がSNSを通じて事件に関与していたといいます。
また、特殊詐欺の実行役などとして2023年に摘発された人のうち、SNS経由で加担した割合が4割を超え最多となり、SNSなどを通じ集散を繰り返す新たな集団「トクリュウ」の勢力拡大が鮮明になっています。
実行役2373人のうちSNS経由は991人(41.8%)、求人サイト(3.5%)、ネット掲示板(2.4%)と合わせると5割近くがネット上での勧誘という結果となりました。SNSではX(旧ツイッター)を中心に「即日即金」「高収入」とうたう募集が目立ち、犯罪グループに加わった後はメッセージが自動消去されるアプリでやりとりする集団が多いほか、実行役は首謀者や指示役の素性を知らないケースが大半です。
勢力が増す一方、中枢への捜査は壁に直面、2023年に逮捕・書類送検した2455人のうち、首謀者やグループリーダーなど「中枢容疑者」は49人(2.0%)にとどまっています。
トクリュウのような犯罪組織の台頭は「ルフィ」を名乗る男らに指示された2022~2023年の広域強盗事件が浮き彫りにしましたが、「闇バイト」が絡む犯罪は収まる兆しがなく、白書はトクリュウについて「市民社会に対する重大な脅威」と強調しています。
なお、トクリュウは、2023年後半から被害が増加しているSNS型投資詐欺と恋愛感情を抱かせて金銭をだまし取るロマンス詐欺への関与が疑われると記載されたほか、多額の売掛金(ツケ)を背負った女性客に売春を強要するなどの悪質なホストクラブについても、背後に関与している可能性があると指摘。
トクリュウの摘発事例も紹介されており、カンボジアのリゾートホテルを拠点にした特殊詐欺グループを2023年1月に現地当局が拘束し、警視庁などが詐欺容疑で逮捕した事件や、複数の容疑者が「闇バイト」で集められた2023年2月の福島県での強盗事件などがあげられてます。
こうしたトクリュウの跋扈に対し、警察当局は組織性の解明を重視する従来の捜査手法の転換を迫られています。
かつては暴力団に対する捜査のように、犯罪組織の末端から幹部へ突き上げていく手法が中心でしたが、組織の関係性が薄いトクリュウでは組織の把握やメンバーの特定が容易でなく、実行役への指示系統から中枢に迫るのは難しいといえます。
これに対し、トクリュウ捜査のため刑事や生活安全など部門を横断した専従体制を全国に新設、さらにトクリュウは匿名性の高い通信手段を利用するなど手口が巧妙で、白書では「総力を挙げて取り締まりを推進する」と強調しています。
トクリュウへの捜査で重視するのは資金の流れであり、トクリュウは特殊詐欺だけでなく、違法オンラインカジノや悪質なホストクラブといった犯罪への関与も疑われ、「それぞれの収益が行き着く先に中枢に近いメンバーが潜む」と警察幹部はみています。
警察幹部は「漠然としていたトクリュウの動向の大枠をつかんだことで、実態解明と取り締まりが本格化した。組織犯罪処罰法で犯罪収益を断っていく」としています。
筆者としては、「市民社会に対する重大な脅威」である匿名・流動型犯罪グループの実態に多面的に切り込んだものとして評価したいと考えています。
白書ではとりわけ、「獲得した犯罪収益について巧妙にマネー・ローンダリングを行っている。その手口は、コインロッカーを使用した現金の受け渡し、架空・他人名義の口座を使用した送金、他人の身分証明書等を使用した盗品等の売却、暗号資産・電子マネー等の使用、犯罪グループが関与する会社での取引に仮装した出入金、外国口座の経由等、多岐にわたり、捜査機関等からの追及を回避しようとしている状況がうかがわれる。
犯罪収益が最終的に行き着く先は、中核的人物であることから、匿名・流動型犯罪グループから犯罪収益を剥奪し、その還流を防ぐため、犯罪グループの資金の流れを徹底的に追跡、分析している」との指摘が重要だと考えます。
実態を知るほど中枢に近づくことが可能であるはずであり、そういった意味では、トクリュウとの官民挙げた戦いは緒に就いたばかりだともいえます。
また、トクリュウは常に新しい技術を活用しながら、犯罪の高度化・巧妙化・グローバル化を図りつつ、その本質でもある「匿名性」「流動性」をも高めていくことが考えられます。
今回の白書で取り上げられたトクリュウの姿は、来年の白書ではもはや過去のものとなり、新たなまったく別の姿を見せている可能性も高いと考えます。当然、警察の捜査手法も高度化していくことが求められますが、トクリュウの動向をいち早く察知できるのは、警察よりも脅威に晒されている市民や企業だともいえます。
SNS型投資詐欺やロマンス詐欺の「数字上の急増」の背景には、こうした犯罪が社会的に認知されるようになってきたためとの指摘もあります(特殊詐欺事件でも、男性の被害が女性より少ないのも「数字上の話」であって、実は、男性高齢者の方が被害の声を上げにくいからではないかとの「統計上の分析結果」もあります)。
つまり、犯罪自体は常に目に見えている(表面化している)ものがすべてではありません。トクリュウの犯罪は多岐にわたっており、今後も新たな犯罪の形が現れるはずです。
国はそうしたトクリュウの実態をもっと広く周知することで、気づけていない被害に市民や企業が気づき、警察にさえ見えていなかった端緒が組織犯罪として可視化されることを期待したいところです。官民のより一
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